2024/08/01
【令和4年度第2次補正予算 8206億円】
【令和5年度当初予算 2兆2683億円】
はじめに
食料は人間の生活に不可欠であり、食料安全保障は、生産者だけの問題ではなく、消費者を含めた国民一人一人に関わる国全体の問題である。しかし、この食料安全保障について昨年を振り返ってみると、近年の世界的な人口増加等に伴う食料需要の拡大に加え、ロシアによるウクライナ侵略により、食料や生産資材の価格が高騰するなど、わが国の食をめぐる情勢は大きく変化している。
こうした食料安全保障のリスクの高まりの中で、将来にわたって国民に食料を安定的に供給していけるようにするためには、国内市場の縮小や生産者の減少・高齢化といった課題を乗り越え、国内の生産基盤を維持・強化するとともに、安定的な輸入と適切な備蓄を組み合わせながら、国内で生産できるものはできる限り国内で生産していく必要がある。
また、こうした食料・農業・農村を取り巻く厳しい環境の下で、食料安全保障を確立していくためには、食料・農業・農村政策全体も見直す必要がある。このため、食料・農業・農村基本法の見直しのための検証を進めることとし、昨年、食料・農業・農村政策審議会に設置した基本法検証部会において、精力的に審議を行っていただいているところである。生産者の減少・高齢化や国内市場の縮小、世界的な食料需要の拡大や気候変動への対応など現行基本法が制定された20年前には想定されなかったレベルで変化しているわが国の食料・農業・農村を取り巻く情勢の変化を踏まえ、次の時代を形づくる食料・農業・農村政策について、各界各層から幅広く御意見を伺い、国民的コンセンサスの形成に努めながら、しっかりと検証・見直しを進めていき、これらの御意見も踏まえて、本年6月を目途に食料・農業・農村政策の新たな展開方向を取りまとめる。
農林水産分野の主要な取り組みは以下のとおり。(令和5年2月28日現在)
生産資材や加工原材料等の価格高騰に対し、農林漁業者の経営への影響緩和のため、肥料や配合飼料、燃油の価格高騰対策等を措置するとともに、食品産業における国産への食品原材料の切り替え等の取り組みを着実に実施する。また、生産コストの増加分等を踏まえた適切な価格形成の重要性について情報発信等の取り組みを進めるとともに、今後、外国の事例も参考にしながら、わが国の生産から流通までの実態等を踏まえた価格形成の仕組みを検討していく。
昨年末に策定した食料安全保障強化政策大綱に基づき、輸入する食料や生産資材への過度な依存を低減していく構造転換に向けて、小麦や大豆、飼料作物などの海外依存の高い品目の生産拡大や米粉の利用拡大、加工・業務用野菜の生産拡大、畑地化の推進、堆肥・下水汚泥資源等の国内資源の利用拡大や肥料原料の備蓄等に取り組む。
農林水産物・食品の輸出促進については、2025年の輸出額2兆円目標の前倒し達成を目指し、品目団体認定制度のさらなる推進、大ロット化に向けた輸出産地・事業者の育成等により、輸出拡大を進める。あわせて、海外への品種流出を防止するため、海外で育成者権者に代わって品種登録等を行う育成者権管理機関の業務を開始する。
「みどりの食料システム戦略」の実現に向けては、みどりの食料システム法に基づく基本計画の全国展開を進め、化学肥料等の使用低減や有機農業の拡大、消費者の選択を容易にする環境負荷低減の取り組みの「見える化」等の施策を着実に実施し、2030年目標の達成を目指す。
スマート農林水産業の推進については、生産性の向上等を図るため、スマートサポートチームによる人材育成とデータ活用の推進や、農業支援サービス事業体の育成、林業機械の自動化、漁獲情報等の収集・利用体制の構築等を推進する。
また、活力ある農村を次世代に継承していくため、日本型直接支払により地域を下支えしつつ、地域資源、ICTなどの活用により活性化を図る「デジ活」中山間地域の取り組みを推進するとともに、農泊、鳥獣被害の防止やジビエの利活用、農福連携などの取り組みを進めていく。
人材の確保・育成を進めるとともに、地域の農地が適切に利用されるよう、地域の話し合いにより将来の農地利用の姿を示した地域計画を定め、農地バンクを活用した農地の集積・集約化等を進めつつ、地域の農地の計画的な保全も一体的に推進していく。
米政策については、自らの経営判断による需要に応じた生産、販売を着実に推進していくため、国産需要のある麦・大豆や飼料作物、米粉用米・新市場開拓用米などへの転換や畑地化・汎用化を進め、産地として定着させる取り組みへの支援を行っていく。
畜産については、輸入飼料への過度な依存からの脱却に向け、耕畜連携への支援など国産飼料の供給・利用拡大を進める。また、厳しい状況にある酪農経営に関しては、需要の底上げや抑制的な生産の取り組み等に対する支援など需給ギャップの早期解消を推進することを含め、酪農経営の改善を図っていく。
農業の競争力強化や農村地域の防災・減災、国土強靱化を実現するため農地の大区画化や畑地化・汎用化、農業水利施設の長寿命化やため池等の豪雨・地震対策を推進していく。
豚熱・アフリカ豚熱・高病原性鳥インフルエンザなどの家畜伝染病に対しては、関係者と危機感を共有し、飼養衛生管理の徹底を図るとともに、水際での侵入防止の徹底や、経口ワクチン散布などの野生イノシシ対策等に取り組んでいく。
食品産業・食品流通については、ドライバー不足等の問題に対応するため、パレットサイズ等の標準化やデジタル化による業務の効率化と輸送コストの低減を進めるとともに、鉄道や海運への輸送切り替えを推進する。また、食品アクセスが困難な方々への対応や食育の推進なども視野に入れて、関係省庁とも連携し、こども食堂等へ食品の提供を行うフードバンクや、こども宅食等に対する支援を進める。
森林・林業政策については、国産材の供給体制の強化に向け、加工施設や路網の整備等を進めるとともに、CLTの活用等による都市の木造化を推進する。あわせて、森林整備や治山対策等による森林の多面的機能の発揮や国土強靱化に取り組み、2050年カーボンニュートラルに寄与する「グリーン成長」の実現を図っていく。
水産政策については、海洋環境の変化も踏まえた水産資源管理を着実に実施するほか、増大するリスクも踏まえ、漁業経営安定対策を講じつつ、新たな操業形態への転換、マーケットイン型養殖の推進や輸出拡大等、水産業の成長産業化を実現していく。
東日本大震災の津波被災農地や水産加工施設などのインフラ復旧は相当程度進展したが、原子力災害被災地域では、営農再開や水産業・林業の再生、風評払拭等に万全の支援を行っていく。
また、ALPS処理水への対応については、福島県および近隣県での漁業を安心して持続できるよう、風評対策を徹底するとともに、国際社会の理解の醸成を図るなど、政府全体で取り組んでいく。
今後も、地域に寄り添い、現場を重視しながら、施策の効果を農林漁業者や食品産業の皆さまに実感していただけるよう、しっかりと取り組んでいく。
【令和5年度予算 1兆6896億円】
コロナ禍やロシアによるウクライナ侵略、気候変動といった世界情勢の変化の中、強靱で柔軟な経済を構築するため、足下の課題に対応するとともに、日本経済を将来に向けた成長軌道に乗せていくための大胆な投資を後押ししていくことが必要である。
このため、令和4年度第2次補正予算を活用し、エネルギー価格高騰に対して、電気・都市ガス料金や燃料油価格の激変緩和措置を講じるとともに、厳しい状況にある中小企業・小規模事業者の資金繰りなど事業継続支援に万全を期す。また、今の円安の機会を捉え、半導体、蓄電池やバイオの国内生産拠点の整備などの国内投資を推進し、成長と重要物資の供給確保に繋げていく。
こうした現下の取り組みを進めると同時に、令和5年度経済産業省関係予算を活用して、脱炭素社会やデジタル社会、経済安全保障、科学技術・イノベーションの実現など、わが国が直面する経済社会課題を解決するとともに、人材、スタートアップへの投資、持続可能な地域経済の実現など、個人・企業が挑戦を続ける経済社会を実現していく。さらに、経済産業省の最重要課題である、福島の復興および廃炉・汚染水・処理水対策についても着実に進めていく。
このため、令和5年度経済産業省関係予算として、一般会計3495億円、GX支援対策費4896億円を含むエネルギー対策特別会計1兆1947億円、特許特別会計1454億円、合計1兆6896億円を計上した。また、復興庁計上の東日本大震災復興特別会計のうち、283億円が経済産業省関連予算として計上されている。
エネルギー価格高騰への対応/エネルギー安全保障・資源の安定供給の確保
エネルギー危機に強い経済構造への転換を進めるため、省エネルギー対策の抜本的な強化、安定供給を大前提とした再生可能エネルギーの最大限の導入、原子力の活用、石油・天然ガスの安定的な供給の確保等の燃料供給体制強化に取り組むことで、あらゆる経済社会活動の土台となるエネルギー安全保障の確保を進めていく。
中小企業・小規模事業者等の事業継続・生産性向上・転嫁円滑化・資金繰り支援
コロナ禍や物価高などにより厳しい経営環境に置かれている中小企業に対する資金繰り支援や価格転嫁対策に万全を期すとともに、事業再構築や生産性向上、研究開発への支援を、令和4年度第2次補正予算も活用しつつ継続的に行うことで、賃上げの原資を確保し、所得向上に貢献していく。
経済社会課題解決への大胆な官民投資
日本が直面する経済社会課題を解決することが、ひいては世界の市場獲得にもつながり得るとの考えの下、政府も民間もリスクを恐れず一歩前に出て大胆に投資を拡大していく。
まず、脱炭素社会の実現に向けて、日本の経済社会、産業構造のGXを進めていく。GX実現に向けた基本方針を踏まえ、安定供給を大前提とした再生可能エネルギーの最大限の導入、原子力の活用、水素・アンモニアの導入促進などを進めていく。また、クリーンエネルギー自動車の導入促進や充電・充てんインフラの整備、成長志向型の資源自律経済の確立に向けた動静脈連携による資源循環を推進していく。
さらに、デジタル化の基盤となる半導体等の技術開発やデジタル人材育成など、デジタル社会の実現に向けた取り組みを進めるとともに、経済安全保障の観点から重要技術の適切な維持・管理を行っていく。
加えて、量子・AI・バイオなど科学技術・イノベーションへの投資を拡大するとともに、社会実装・市場獲得に必要な国内外のルール形成を加速していく。また、ヘルスケア産業や医療分野の産業の発展に向けた取り組みも進めていく。
挑戦を後押しする基盤の整備
活力ある経済社会を実現し、長期停滞から脱却するため、個人・企業の挑戦を後押しする基盤の整備を進めていく。
大企業等の人材が出向などで行う起業やリカレント教育の支援、フェムテック活用など人材の多様性の確保を進めるとともに、デジタル技術の活用や学校内外での連携などを通じた新たな学びの社会システムの構築を支援するなど、「人への投資」に取り組んでいく。
また、中長期的な日本経済の成長に向け、イノベーションの担い手となるスタートアップを支援するため、卓越した才能の発掘・育成やスタートアップの海外展開支援、研究開発型スタートアップの創出・成長の加速化を進めていく。
地域企業のDX促進や地域で活躍する人材の獲得・育成、伝統的工芸品産業の活性化など、持続可能な地域経済の実現に向けた取り組みを進めていく。
加えて、2025年の大阪・関西万博を「未来社会の実験場」として、子どもや若者が未来に希望や夢を持つきっかけとなるような万博を目指し、引き続き、全力で準備を着実に進めていく。
国際経済秩序の再編における主体的な対外政策
アジアや有志国と一体となった成長戦略や、国際経済基盤の強化・立て直しなど、国際経済秩序の再編における主体的な対外政策を進めていく。
具体的には、「アジア・ゼロエミッション共同体構想」の実現や、今年友好協力50周年を迎える日ASEANの各国・各企業との経済協力を進めるとともに、環境・人権等の「共通価値」を軸とした国際ルールの形成などに取り組んでいく。
東京電力福島第一原発の廃炉や福島の復興/防災・減災、国土強靱化の推進
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策と福島の復興は、経済産業省の最重要課題である。
廃炉に向け、燃料デブリ取り出しや、ALPS処理水の海洋放出への準備などを進めていく。また、安全性確保、風評対策、漁業者の方々が安心して漁業を継続できるような支援に取り組んでいく。
加えて、事業・なりわいの再建、福島イノベーション・コースト構想、福島新エネ社会構想による産業復興の推進、交流人口拡大、福島国際研究教育機構における研究、映像・芸術文化等を活用した新たなまちづくりなど、福島復興に全力で取り組む。
詳しくはこちらをご参照下さい。
【令和5年度予算 5兆8714億円(国費)】
わが国は、豪雨や大雪等の自然災害の激甚化・頻発化や資源価格高騰等、内外の難局に直面している。また、ウィズコロナへの移行を進めているところ、交通・観光事業は引き続き厳しい状況にある。一方で、GX・DXへの投資の加速や経済安全保障の強化等、新たな時代の課題にも適切に対応することが求められている。このような状況の中、国民の命と暮らしを守り抜き、現在の難局を乗り越えるとともに、デジタル田園都市国家構想の実現等により新しい資本主義を加速させることが急務であり、令和5年度予算では、「国民の安全・安心の確保」、「経済社会活動の確実な回復と経済好循環の加速・拡大」および「豊かで活力ある地方創りと分散型国づくり」を3本柱として、令和4年度第2次補正予算と合わせて、切れ目なく取り組みを進めていく。
この際、公共事業を適確に推進するため、資材価格の高騰等を踏まえて、必要な事業量を確保するとともに、新・担い手3法も踏まえ、施工時期等の平準化や適正価格・工期での契約、必要な変更契約等による適切な価格転嫁等を進めていく。