2025/01/17
末松 人手の確保についてはどのように対応されておられますか。まだまだ市場の仕事は人手に頼る部分も大きいと思われますが。
豊田 ご指摘の通り、時給を上げても応募に来ないほど、人の問題は大変厳しい状況にあります。特に成田空港界隈では人材の取り合いになっていると言っても過言ではありません。青果の場合は収穫・出荷の繁忙期に丁寧な梱包を要するなど、社員・パートさんを含めて、人手が非常に重要な職種です。他方、市場内で隣接する水産部門において、業務の空き時間が生じて仕事を割り振れない社員・パートさんなどが少なからずおられることがわかり、繁忙のタイミングで場内の水産仲卸さんに対し、作業量の対価をお支払いする形で梱包・出荷のお手伝いをいただく、言わば分野を超えた協業を図っています。管理者とマニュアルがしっかり作成されていれば、パートさん達もいろいろな業務に携わることが可能ですので。このように、成田市場内に軒を並べる者同士、お互いの課題解決に向けて協力体制を構築しています。
末松 販路の拡大を図りながらも、当面は食品輸出路線の継続発展を?
豊田 当社としては2028年3月までの5カ年で売上2400百万円の中長期計画を立てており、達成に向けて日々社員一丸となり進めているところではありますが、輸出入のトータルサポートを行う貿易市場としての認知が今よりもさらに広がっていけば、計画以上の結果を出す事ができるのではと考えております。
そうなりますと、やはりさらなる人員の確保、そして管理体制の強化など成長とともに課題も顕在化しており、特に人材については、業務が多様化し、関係各社さまとのやり取りも以前に比べて格段に増えた中で、すべて社内で完結していくには限界がありますので、これについては現在、スタートアップの企業や異業種の方と協業しながら、現場作業のDX等について検討を進めています。これは業務の合理化、効率化のみにとどまらず、AIの会社さまから講習を受けて、社員のサービススキルの向上を図るなど、部門ごとに異なる業種の方々3~4社と適宜協業して、総合的に人材教育や管理体制の向上を図っております。これは社員個々の成長はもちろん、同時に外部から刺激を受けるという点で、社員同士の相乗的な効果が期待できると考えております。
末松 今後、食品の海外輸出にはどのような可能性が見いだされると、豊田社長は想定されますか。
豊田 これはまだ試験的に始めた段階ではありますが、冷凍技術を活用した規格外品の活用というものが、お客さまにご提案する新たな武器として、納得のいく価格や品質のものが成田市場の関係者と開発出来るようになれば、検疫の問題でなかなか進出出来なかった国や、鮮度・温度帯の部分でオペレーションが難しかった業態に向けても、商売のすそ野が広がっていくのでは。それは青果のみならず水産や畜産といった混載、物流が難しかった分野の方々にとっても、冷凍品であれば一緒に提案をという流れが今よりもさらにしやすくなるのではと感じております。なにより、生産者の方々に対し、従来の規格品で商売ベースに乗せるのが難しかったものを当社が一括で購入して、業態ごとに売り先を持ち販売に繋げられるならば、収入の向上とモチベーションアップに繋がるものと現場でお話をして感じております。具体的には、栃木のいちご生産者の方々と海外向けに共同提案の準備を現在進めております。もちろん、これらの取り組みにご賛同をいただける現地企業の方々の理解があってはじめて、量や時期の問題など不確定要素もある中での取り組みを進めることができるので、その部分は現在お打ち合わせを丁寧に進めている段階であります。おかげさまで国内においても同様に大手小売さまや食品卸売業の方々とも少しずつですがこの取り組みは動き出しております。
海外での新規開拓時にサポートを
末松 国内物流も担い手不足が深刻化していますが、この点などは。
豊田 物流についてはトラックドライバーが減り、運転従事者がそもそも減っていると共に、高齢化も進んでいる。それに伴って労働基準が強化された2024年問題で、今年度終わりにその影響も見えてくる。海外の規制対応も考えると、輸出用はやはり荷物を区別して扱わないといけないが、国内用商品の物流と輸出用商品の物流は効率的に一緒に市場に持ち込み市場で集約して、市場で分化する、そこから輸出物流の組み込みにより物流課題は市場こそ改革が出来ると考えております。具体策としては神明ロジスティクスと連携をして、彼らの物流に青果物を乗せる、輸出用産地にトラック引き取りに行って最短で市場便に乗せていくなどの実際の取引を少しずつでも増やしていく。実際に、ランディングページを通じた生産者さまからのお問い合わせとして、海外輸出をしたいけれど、成田までの物流がない、近くまで取りに来てくれたらぜひ取り組んでみたいというケースが増えており、物流視点から課題解決に向けての打ち合わせを重ねていく事で、グループとして新たな取り組みの拡大に繋がっていると感じており、それはこれからも日本全国の生産者さまとのお話合いを積み重ね、時間をかけてしっかり取り組んで行きたいですね。
末松 最後に、誌面を通じて行政にご要望やご提言などありましたらお願いします。
豊田 私としては、現場で発生した課題を積極的に行政機関の皆さまに情報を上げていくことを意識しており、フォワーダー、物流業者をはじめとした場内の事業者と共に協議会を設置しております。生産者や事業者個々では対応できないような課題や要望を行政の方へ共有させていただき、既に冷凍野菜やオーガニックなど個別分野ごとの分科会も相次いでできています。そういう意味では現在、当社として大切にしたかった行政機関の方との情報共有、連携は良い形で機能しているのではと考えております。
その上でもう一段お願いできるとすれば、前述したモンゴル市場の開拓のように、新しいマーケット開拓の時に何らかのサポートが得られれば何よりです。
実際に行政の方が動くと状況が大きく好転することが多いので、われわれ事業者側が現地で飛び込み営業をかける際に、何かご支援をいただけると大変心強いところです。現実として韓国からの輸入が多数を占めるモンゴルでは、韓国からの航空便が週35便飛ぶのに対し、日本は週6便で大きな差異があります。むろん韓国は地道な努力の結果、今日の地位を築いてきたと思いますので、ここは競争相手というより敬意をもって同市場への新規参入を図るという意識でおります。モンゴルについては成田市場で新たに発足した協議会メンバーが先方大使館と各種交渉を進めてくださっていますが、このように情報を共有しながら関係者各位がそれぞれ目的に向けて一丸となるのは非常に良いことだと実感しています。
末松 本日はありがとうございました。
自治体として国際空港を有するというのは、他にない大きなアドバンデージですが、その機能を何と結び付けて有用活用するか戦略が問われるところです。その点、文中前段にあったように、官民連携で農産物・食品の輸出拡大を図ったのはまさに英断だったと思います。
また、豊田社長は海外輸出にあたり、地元や近隣地域の野菜等を盛んに現地でアピールするよう努めています。国内各地の良い農産物の認知度が海外で向上すること、また生産者などが、成田市場を通じて容易に輸出事業にトライできれば、もっと地元と海外の流通が盛んになっていくでしょう。
最後に豊田社長から、新規開拓時に行政からのサポートがあれば、と希望が寄せられていましたが、確かに海外では国によって関税が高い、検疫が厳しいなど状況がまちまちですので、この要望は切実なものだと思います。国の方では輸出事業者の強い希望があれば相手国政府との交渉に乗り出すと思われるので、この点は官民連携の場が今後さらに求められるでしょう。
(月刊『時評』2024年12月号掲載)