2025/01/17
2022年に開場したシティ青果成田市場は、青果物の海外輸出を核に旧市場の停滞を克服、一気に急成長を果たし、さらなる市場開拓の翼を広げようとしている。その基盤となるのは、全方位的な相談・要望への受付体制と、分野を超えた関係者間の連携構築にある。地域に根差しつつ日本の青果物を広く世界に発信する同社の取り組みを、豊田社長に語ってもらった。
代表取締役社長 豊田 達也氏
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常態的赤字からの反転攻勢
末松 こちらの市場は広い敷地に新しい建屋、成田空港から至近という極めて好立地にありますが、この地で事業を興されたいきさつからご解説をいただけましたら。
豊田 もともと私は、神戸に本社を置く米卸の株式会社神明にてお米の営業マンを13年間ほどしておりました。その後、2016年度に、同社における新規事業に携わらせていただくこととなり、以降色々な経験を積ませていただきました。
18年11月、株式会社神明ホールディングス(以下HD)が、当時20年海外輸出の拠点として移転予定であった成田新市場における青果物の海外輸出を目的に、株式会社成田市場青果の株式を取得、開場年度の22年1月にはシティ青果成田市場と社名も変更し、新たな船出を迎えました。私は19年1月の時点で成田市に住民票を移し、当地での新規事業に向け、骨を埋める覚悟をもって臨んで参りました。
ただ、当時の移転前の旧成田市場は市場取扱高の低下により、特に青果部門の成長率減少が著しく、売上高は700百万円~800百万円まで落ち込み、衰退していく地方卸売市場となっており、業績も年間20000千円~30000千円ほどの赤字が常態化しており、経営的には非常に厳しい状況が着任後も4年ほど続きました。
末松 旧市場時代からの既存の社員の方も含めて、職場環境の一大変革となりましたね。
豊田 旧成田市場は組織・社員ともに、いわば疲弊した状態でした。加えて新たな組織体制に移行することで業務内容も変化をし、仕事も増えていくわけですから、社員の方々の意識変革は容易ならぬものがありました。
が、私の着任当時から苦労を共にした社員は時を重ねるごとに、少しずつ組織の変革、これまでと違う新しい方向性で会社の未来を形成することの重要性を、自分事として捉えて主体的に新たな仕事に向き合ってくれて、今日まで一緒に業務に励んで参りました。こうした小さな変化を社員と大切に進めていったことにより、昨年度、千葉県内の高校から校長推薦を会社として初めて受け、新卒の採用が決まったり、県内のJA・企業などから経験を積んだやる気のある若手社員が数名転職をしてくれたりと、社員の平均年齢も大幅に若返りしております。今後は当社が、地元の方々にとっての、新しい仕事に前向きにチャレンジできる就業先の一つになれたらと考えております。もちろん、前期高齢者となっても元気で働ける方には業務内容に応じて役割を担ってもらっています。総じて、着任した2019年当時と比べると社員の意識ならびに職場の空気は劇的に変わりました。
末松 開場後の経営状況はどのような推移をたどったのでしょう?
豊田 新市場開場後の業績は初年度が前年比148%の売上1495百万円、当期純損失が2259千円、前期は前年比112%の売上1679百万円、当期純利益4584千円と、私が着任後初めて、黒字の決算を迎えることができました。なお、今期に関しては、上期を終えて売上が前年比124%の959百万円、営業利益は9300千円となり、通期としては売上が前年比114%の1918百万円、営業利益は18000千円を見込んでいます。着任当初、青果大卸でありながら野菜・果実のセリ人それぞれ1名しかいない限られた営業体制でスタートし、移転準備、開場後の業容の拡大等、過渡期にあたり社員・スタッフには厳しい思いを何度もさせてしまいましたが、今期はその貢献に報いる準備ができたところです。
末松 急速な反転攻勢を達成されたわけですが、その主因としては?
豊田 まさしく、成田市が新生成田市場の経営展望基本戦略として掲げられた、成田空港を活用した日本産農水産物等の「輸出ビジネス集積拠点(モノ・商売・技術のハブ)」を形成し、国内需要も取り込むという基本戦略のもとに、当社としても開場後の22年6月からスタートした青果物輸出の取り組みが、流れをかえるきっかけになったと考えます。具体的には、兄弟会社である東京シティ青果との調達面の連携や、豊洲・柏・成田の定期便から始まった神明ロジスティクスとの青果物流網の構築など、新たな取り組みをきっかけに、国内の生産者さま、企業さまに少しずつですが輸出ビジネスの拠点としての成田市場という機能を知っていただく機会が増え、23年10月に、さらなる認知の向上を目的に開設をした輸出入サービスサイトの公開が流れを変える決め手となったものと感じております。
末松 業績については、当初想定していた推移と捉えてよろしいでしょうか。
豊田 決して現在の業績は想定していたものではなく、グループの多くの方々が、成田を盛り上げようとあらゆる側面でサポートをしてくださり、その中で新たな販路や、武器となった物流からの事業構築など、少しずつ商売の可能性が見えてきたものを大切に積み上げてきての現在、という認識がありますので、決して当たり前の数字ではない、と感じております。また、今の勢いを大切にしつつ、グループ各社と連携をしながら、売り上げの拡大ならびに地域への貢献に繋げていけたらと考えております。
末松 では、輸出事業の現状についてお願いします。
豊田 輸出事業の売上実績につきましては、開場後の初年度が111百万円、2年目である前期は前年比176%の197百万円、今期は前年比110%の216百万円と計画しております。現状、上期を終えて、前年比125%の133百万円の売上となっております。
主に香港、台湾、タイに向けて果実を中心に出荷をしており、特に2023年度の6月から取り組みを始めた台湾ロピアさま向けの輸出は、当社がシッパーとなり直接貿易を行ったことで、現地の検疫が通らず時間を要した為、ロスとなったり、輸送時、飛行機の振動による脱粒や温度変化による品質不良など、実際に経験をしてみないと分からない多くの経験を積めたことで、その先の商売がだいぶ広がりを増したと感じております。
また、台湾ロピアさまにおいては、1号店より成田市場の特設売り場を設けていただき、成田市特製ののぼりやキャラクターをふんだんに活用するなど、実績の積み上げのみならず、市場全体の認知向上にも多くの力を貸していただき、大変有難いと感謝をしております。
末松 日本の産物という位置付けをさらに深堀りし、地域の産物としてアピールされていると。
豊田 せっかく成田空港から新鮮な野菜が出荷され、台湾ロピアさまで成田市場の特設売り場まで作っていただき一緒に取り組みが出来るならば、近隣の生産者の方々、栃木、茨城、千葉などの県庁の方々とも連携をし、当市場を通じて青果物を出荷いただければ、現地で個人や団体さんのお写真を掲載し、発信していく事で、台湾の取り組みが一つのモデルとなって、今後他の国々においても、同様の事例が横展開できれば、生産者の皆さまにとって、販路は国内だけではなく、海外向けにも新たな可能性として捉えていただけるのではないか、そして地域の行政の方々と情報を共有していく事で、地道な活動にはなるかもしれませんが、輸出拡大に向けて、成田を通じて各国にこの台湾ロピアさまのような取り組みを増やしていけたら、そう考えております。
末松 既存の大手市場がある中での新規参入はご苦労も多かったのでは。
豊田 はい。当社はそもそも輸出経験も全くゼロからのスタートであった為、既存の輸出業者様に対し、後発部隊の当社が価格勝負で入っていくのは、特に香港・シンガポールといった国への挑戦は現実的に厳しいと感じておりました。
逆に、輸出規制の厳しいタイや台湾などの国に向けて、産地登録や園地登録をはじめとして川上から川下までのすべての流れに当社も関わらせていただき、そのご縁で出荷をいただいた大切な農産品を、新成田市場で輸出向けにセットし、タイムロスなく検品・ダメージ防止梱包・検疫・書類作成・通関などのすべてを一気通貫して行えるという当社の機能を生産者の方々や、輸出入の関連企業様にも生かしていただければ、結果として、直接間接問わず、いろいろな形で輸出実績が積み上がるのではと考え、今日まで取り組んで参りました。いわば仕組みとして、成田市場の新しい機能自体を皆さまにご利用をいただく、その認知を上げていく為の活動をあらゆる角度から行動する、という事を大切にして参りました。
すえまつ ひろゆき/昭和34年5月28日生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部卒業。58年農林水産省入省、平成21年大臣官房政策課長、22年林野庁林政部長、23年筑波大学客員教授、26年関東農政局長、神戸大学客員教授、27年農村振興局長、28年経済産業省産業技術環境局長、30年農林水産事務次官。現在、東京農業大学教授、三井住友海上火災保険株式会社顧問、等。