お問い合わせはこちら

【末松広行・トップの決断】 株式会社日清製粉グループ 瀧原賢二氏

各分野で国内シェアのトップに

 製粉ミュージアム(群馬県館林市)(資料提供:日清製粉グループ本社)
製粉ミュージアム(群馬県館林市)(資料提供:日清製粉グループ本社)

末松 では、御社の歴史をかいつまんでご紹介いただけましたら。

瀧原 もともと1900年に群馬県で、館林製粉として創業したのが始まりです。その後1908年に横浜に在った日清製粉という会社を買収、今後国内外に広く展開していくにあたり、地域的な名称ではない日清製粉の名を冠しようということで、社名も現在の日清製粉に変更しました。
 
 以来、グループのほとんどの事業を製粉から派生させて現在に至ります。現在、製粉事業は国内小麦粉販売シェア第1位の40%を占めています。

末松 製粉事業を軸としつつ、多様な食品事業を展開されておられますね。

瀧原 食品部門は現在「加工食品事業」「酵母・バイオ事業」「健康食品事業」によって構成されています。

 まず「加工食品事業」は小麦粉や小麦粉二次加工品の家庭用製品を販売する事業を主としており、前述した家庭用小麦粉、パスタ、パスタソースなどを中心にブランド展開を図り、国内販売シェア第1位の製品を多く持っています。

 次いで「酵母・バイオ事業」は当社創業者の正田貞一郎等が1929年に立ち上げた会社です。当時、パンを作るには輸入のイーストしかなかったことから、国産のイーストによるパンをつくるべく設立し、イーストの研究を進める過程でバイオにも取り組んできました。現在は医薬品メーカーや大学等の研究に必要な各種リソース類を提供するという、言わばバイオ業界の縁の下の力持ちを担っています。イーストの国内生産量シェアは約50%でこれも国内第一位です。三つ目の「健康食品事業」ですが、これは小麦に含まれる胚芽を活用して医薬品や健康食品を手掛けてきたもので、現在は医薬品部門を外部に併合し、健康食品部門が残りました。

末松 エンジニアリング事業もあるとのこと、食品とは一線を画す分野かと思われますが、こちらについては。

瀧原 はい、社内の工務部門を独立させエンジニアリング事業として確立しています。というのも通常、製粉工場を建てる時、海外の製粉機械メーカーが設計するのが一般的でしたが、当社はノウハウを蓄積し、自身でこれを設計してきました。粉体技術は非常に奥が深く、小麦やトウモロコシを吸い上げてサイロに落とし込むと、どうしても山形に積みあがって平らにならない。しかも、なぜそうなるのか粉体力学上なかなか解明されていないのです。小麦やサイロの構造なども突き詰め、現在はナノレベルの粉体加工を行い、ハイテクメーカーへ提供したり、化粧品メーカー等のプラントを設計する事業などを行っています。

 また、製粉工程における〝篩(ふるい)にかける〟のに必要な篩網をつくる会社を設立し、メッシュクロス事業も行っています。現在はスクリーン印刷用に高密度のメッシュクロスを製造し、それを半導体や太陽光パネル等に応用利活用してもらうべく各方面に納入しています。

末松 伝統的な技術が、今やそのような最先端技術に昇華しているとは驚きました。

瀧原 さらに1999年から中食・惣菜事業を開始しました。年々、食の外部化が高まる中、中食・惣菜部門を成長産業に位置付け、現在国内25カ所に生産拠点を設けています。トータルでは21年度の売上高6797億円のうち、製粉事業と中食・惣菜を含めた食品事業がほぼ半々という、非常にバランスの取れた形になりました。

間断なき内外価格差是正への挑戦

末松 御社のここまでの歩みを拝見しますと、ほぼ製粉事業に特化していた1960年代に比べ、80年代から事業の多角化を図るとともに製粉事業の体質強化に鋭意注力されてこられたようですね。

瀧原 ご指摘の通り、国内消費の85%が輸入小麦であること、残る国内産小麦15%についても7割が北海道産のため海上輸送が主であることから、当社も内陸に点在していた既存の小規模工場を徐々に臨海部へ集約してきました。その結果、従業員一人当たりの生産量は業界平均を大きく上回る水準に達しています。

 そして製粉事業におけるもう一つの課題は、内外価格差の是正です。戦後、国内産小麦の価格高により輸入小麦との競争力で劣後する傾向が顕著になり、ピーク時の1986年は国内の小麦価格が輸入小麦の3・6倍に達したほどです。当時、小麦製品はすべて国境措置で守られていたものの将来的には状況が厳しくなると想定されたことから、現在に至るまで内外価格差の縮小に取り組んでいます。現在は約1・3倍に縮小させ、2026年のTPP11では最終的に1・2倍になることから、その時点では十分、国内製造の小麦粉、小麦関連製品も競争力を持ち得ると想定しています。

 ただ、逆に言えば製粉事業は自ら原価である小麦の価格を下げるために大幅な売り上げ向上が見込みにくいという側面もあります。それをカバーしていくのが中食・惣菜事業を含めた食品事業です。80年代から加工食品に注力し、冷凍パスタなど新しい市場を創設するなどした結果、食品事業の売上高は80年度の583億円から21年度は3214億円へと、40年余りで5・5倍に成長しました。製粉事業がなかなか売り上げを伸ばせない中で、食品事業がけん引してきたと言えるでしょう。

末松 海外事業展開の経緯と現在の売り上げについては。

瀧原 もともと製粉技術は欧米からの導入ですが、当社では長い年月の間にこれをさらなる高水準に昇華させ、80年代から海外進出にチャレンジしています。現在は加工食品も海外に展開し、売り上げも80年度の1億円から21年度に1859億円へと成長させてきました。

末松 日本の消費者は品質に対するハードルが非常に高く、そこで鍛えられた技術力が海外では広く受け入れられたのかもしれませんね、海外に打って出てみたらあちらの市場で、御社の技術力で作られた高質な小麦粉が好まれたと。

瀧原 そうですね、われわれは米国、カナダ、オーストラリアから良質な小麦を安定調達しており、そうした種類の異なる小麦をブレンドする技術を有しています。同じ小麦を原料としながらも、製粉された小麦粉をユーザーニーズに合わせて変えていくことが可能なのです。結果として、お客様であるパン屋さんが、小麦の種類を問わずいつも同じ品質のパンが作れる、ということです。この一定品質の小麦を安定して供給できることは海外においても強みになっていると思われます。またパンに限らず、ラーメン用の小麦粉などもカナダの工場で生産・供給し、米国市場で受け入れられています。アジア市場においては、当社が製粉したパン用の小麦粉が中国で人気を博しています。

 このように製粉の海外事業は大きく成長していますが、国内が相対的に縮小しているわけではなく、91年度には国内シェア約34%だったのが21年度には40%になるなど、国内トップシェアで着実に成長してきました。

末松 瀧原社長は御社事業についてどのような将来像を描いておられますか?

瀧原 私自身は、製粉事業において規模というより質的に世界一を目指したいと思っています。さらに、グループ全体の事業としては食品事業を伸ばしていきたい、つまり〝世界一の製粉、伸びる食品〟が将来のあるべき姿であろうと思っています。