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【末松広行・トップの決断】 株式会社日清製粉グループ  瀧原賢二氏

変化を恐れず、事業の選択と集中で食糧安定供給の重責を担う

たきはら けんじ/1966年神奈川県出身。88年早稲田大学政治経済学部卒。日清製粉(現日清製粉グループ本社)入社。06年日清製粉グループ本社IR室長、09年日清製粉(01年に製粉事業を分社し設立)業務本部業務グループリーダー、13年取締役業務本部長、16年日清製粉グループ本社執行役員、17年取締役、19年常務執行役員兼日清製粉常務取締役業務本部長、21年日清製粉専務取締役を経て22年6月より現職。長く原料小麦の調達に関わり、農林水産省、国内外の生産者団体等との関係強化を図ってきた。
たきはら けんじ/1966年神奈川県出身。88年早稲田大学政治経済学部卒。日清製粉(現日清製粉グループ本社)入社。06年日清製粉グループ本社IR室長、09年日清製粉(01年に製粉事業を分社し設立)業務本部業務グループリーダー、13年取締役業務本部長、16年日清製粉グループ本社執行役員、17年取締役、19年常務執行役員兼日清製粉常務取締役業務本部長、21年日清製粉専務取締役を経て22年6月より現職。長く原料小麦の調達に関わり、農林水産省、国内外の生産者団体等との関係強化を図ってきた。

  今や米と並んで日本人の基礎食料に位置付けられる小麦は、需要の85%を海外から輸入している。コロナウイルス感染拡大、そしてウクライナ問題等による環境変化の影響を大きく受けているが、その中で製粉を祖業とする日清製粉グループは120年を超える歴史ある企業として、主要食糧の安定供給の重責を全うし、消費者ニーズの変化に対しても迅速な対応をとってきた。果断な選択と集中、新たな事業領域の開拓など、高みを目指す意欲は今般の危機下でも全く停滞を知らない。その核心について瀧原社長に解説してもらった。

株式会社日清製粉グループ本社 取締役社長
瀧原 賢二氏


値ごろ感と高付加価値化

末松 このシリーズは連載当初から、各分野のトップによるコロナ禍対応が主題なのですが、御社にとってはまさに今般の小麦の高騰も大きな危機だと思います。こうした相次ぐ危機の到来は、御社の社歴にもあまり例のないことと推察されますがいかがでしょうか。

瀧原 はい、コロナ禍はもちろん、ほどなく発生から1年を迎えるウクライナ問題においては、大変大きな影響があったというのが率直なところです。

 まず、コロナ禍が深刻化した2020年春、巣ごもりによりスーパー等の店頭から家庭用小麦粉が無くなったと記憶される方も多いと思います。この影響は一時的でその後の増産で店頭の在庫は回復しました。その反面、業務用小麦粉は人流が途絶えたため、需要が大きく低下しました。当社グループの小麦粉出荷量のうち95%を業務用が占めているため、需要減の影響は甚大でした。

 そして、消費者の皆さまは、外出自粛により食事の量が減ったのでしょう、小麦粉の需要は人口減下でありながらほぼ前年並みを保っていたところ、20年度は前年比3%ほどマイナスを記録しました。この傾向は21年度も続きさらにマイナス1%の縮小、そして22年度は持ち直しが期待されたものの、そこへ食糧インフレが追い打ちをかけたという形です。もともとウクライナ問題が勃発する以前から小麦の価格自体が上昇傾向にあったのですが、そこへ同問題の発生により、さらに価格が高騰、そのため22年度も市場の回復には至らず、という状況です。

末松 言うなれば、異なる種類の危機が輻輳しながら継続しているような状態ですね。当面、小麦の高騰に関してはどのような対応を?

値ごろ感のある製品(資料提供:日清製粉ウェルナ)
値ごろ感のある製品(資料提供:日清製粉ウェルナ)

瀧原 コスト上昇分については価格に反映していますが、それでは消費者のニーズに対応しきれません。そこで値ごろ感のある製品の開発に取り組みました。

 例えばパスタですが、これまで1食100グラムが一般的な量だったところ、それではやや多いという方のニーズに合わせて1食80グラムを想定した容量のものを製品化する、同様に既存の1キログラムの家庭用小麦粉も、家族構成の変化等でなかなか消費しきれないという声にお応えして500グラムの容量タイプを増やすなど、多様なニーズに合わせた製品を取り揃えました。

上左:小麦全粒粉/上右:石臼挽き粉/下:高付加価値ブランド「青の洞窟」(資料提供:日清製粉)
上左:小麦全粒粉/上右:石臼挽き粉/下:高付加価値ブランド「青の洞窟」(資料提供:日清製粉)

 一方で、高付加価値製品へのニーズも高まりつつあり、業務用小麦粉では、昨今の健康志向を反映して全粒粉や風味のある〝石臼挽き粉〟などもラインアップに加えています。

 また家庭用製品では、本格イタリアンをご家庭で手軽にお楽しみいただける『青の洞窟』ブランドをさらに充実させ、ご家庭での食事をよりお楽しみいただける製品を消費者の皆さまにお届けしています。ただこうした手立てを講じつつも、小麦の高騰と需要減というスパイラルは今年2023年も継続していくであろうと認識しています。

 しかし、この難局を乗り切ると相場もやや落ち着いてくると想定されますので、その段階まで何とかしのいでいきたいと思っています。

末松 御社は海外展開も活発ですが、各国の需要状況はどのようなものでしょうか。

瀧原 そうですね、国によってかなり違いがあります。当社は現在、米国、カナダ、オセアニア等に製粉企業を展開していますが、例えば好景気の米国は今般のコストインフレをあまねく吸収するだけの懐の深さがあり、コストが上昇した分をしっかり価格に乗せられる上、日本のように需要が減っていません。そのため当社の
製粉事業の収益も堅調に推移しています。

 他方、オーストラリアではコロナによる行動制限の影響で消費パターンが変化したことに加え、サプライチェーンに混乱が生じました。トータルとしては当社の事業は堅調ではあるものの、国ごとにフォーカスすると凹凸あり、というところです。逆に、多国間に展開しているが故にリスクヘッジできている、とも言えるでしょう。