CMEDを協会で認定
森信 他の広報活動はいかがですか。
宮本 当協会では、関係機関と緊密に連携しながら、各種の活動を通じ、ダムの役割とダム事業の重要性について広く一般の理解を求めるとともに、ダム施工技術のより一層の向上に寄与していくことを目標として様々な活動を行っています。
まず「ダム便覧」。日本ダム協会のホームページ中に構築したダムの総合情報サイトです。ダムに関するデータ(位置、堤高等の諸元、事業者、施工者、ダム湖名、ニュース、テーマページ等)のほか、記念切手、歌、関連用語の解説、イベント、文学作品や映画の紹介、マニアによる個人サイトへのリンクと幅広く情報提供を行っています。特に写真については、巨大ダムから堰まで、本州から離島まで、幅広い地域のものが掲載されています。これらは、ダム愛好家によるものの他、ダム管理所、工事事務所、建設会社などより提供していただいたものであり、貴重な資料にもなっています。
また、協会自体の広報活動としては、毎月「ダム日本」という、ダムに関する総合的な記事を掲載した月刊誌を出しています。創刊は1960年5月で、先ごろ60周年を迎えました。以前はダム建設に関する調査、研究、技術の向上に関する記事が主体でしたが、最近ではダムマイスターの活躍やツーリズムの活況、災害時におけるダムの活躍などにより、一般の方向けの記事も増え、産学官の多彩な顔ぶれの方々に登場頂いておりますインタビュー記事「ダムの今」は約100名を掲載してきました。
そのほか、2016年年10月29日には、日本初の「ダム博物館」が誕生しました。本館は ヴァーチャル(ウェブサイト)、そして分館は、テーマ毎に各地のダムに設置される、リアルという構成で、ダムの管理者など多くの関係者のご協力を頂いて、日本ダム協会が運営しています。
森信 ダム協会の、広報以外の活動内容を教えてください。
宮本 主要な活動の一つが人材育成です。技術者の認定事業や講習会などを実施しています。認定事業としては、通称CMEDと呼ばれるダム工事のプロフェッショナル「ダム工事総括管理技術者」の認定を行っています。CMEDの試験を受けるためには、すでに一級土木施工管理技士などの資格を持った上で、10年以上の現場経験、本支店技術部などでのダム関連業務などの従事経験が必要であり、CMEDに認定されるためには大変難しい試験を突破しなければなりません。この試験の合格者からなる「CMED会」の技術者集団は、ダムの現場で責任技術者として活躍しているほか、その高い技術力を生かして大規模災害への対応でも活躍しています。ダム総括管理技術者は、2019年度までに822名が認定を受け、現在の登録者数は516名です。また、最新の施工技術に関する情報を多くのダム技術者に共有していただくために、年1回、「ダム施工技術講習会」を開催しています。
人材の育成と共に、ダム施工技術の向上のための「施工技術研究会」も行っております。この研究会には四つの部会があり、それぞれのテーマで調査研究を行っています。また、ダム施工技術を継承するために、多くの実施例を説明しており、施工者の立場から「コンクリートダムの施工」、「フィルダムの施工」を取りまとめて出版した結果、2009年度にはダム工学会賞著作賞を受賞しました。
森信 日本のダム建設技術は世界でもトップクラスだと思いますが、この技術を駆使した海外でのダム建設や技術支援などは。
宮本 途上国での人口の増大と地球規模での温暖化が進む中で、水資源の確保が世界的課題となっています。電力需要の増大に対応する水力発電への期待も大きいので、これまで培ってきた日本の優れたダム技術を活用して、途上国を中心に世界のダム建設に協力し、貢献していくことは重要な役割だと考えています。
現在、ラオスなど数カ所で日本企業施工のプロジェクトが進行しています。むろん、政情や現地政府の財政状況など不確定リスクも多々ありますが、基本的にはこれからさらに幅広く展開していきたいですね。世界各地で水不足が深刻化している現在、治水、利水、発電など多様な機能を有するダムの建設は現地の生活の向上、経済の発展のためには不可欠だと思います。
ダムの見直しが大きなテーマに
森信 最後にメッセージというか、会長の思いなどをお願いします。
宮本 財政が悪化しているわが国では公共事業がよく削減の対象にされがちですが、メンテナンスも含めて必要な投資を行わないと、2012年の笹子トンネル崩落事故のような人命に影響する事故を引き起こしかねません。これは欧米でも同様の状況で、例えば米国では積極的にインフラ投資を敢行するようになりました。日本でもこれからはインフラ再生事業が非常に重要な命題となるでしょう。
もちろん道路や橋梁と並びダムについても同様で、例えば長年にわたって湖底に堆積物が溜まるとその分、貯留できる水量が少なくなって各種機能が低下します。そのため定期的に湖底の堆積物を浚渫する必要があります。また放流設備を増やして治水・利水の在り方を変えていくなど、さまざまな方策も含めたダムの見直しが大きなテーマとなっています。
森信 公共投資などは、社会福祉の赤字国債と異なり60年償還の建設国債で資金を調達できるわけですから、種々の災
害対応を経た現在、この点も徐々に国民の理解が進んでいるように思われます。
宮本 まだ十分には進んではいませんが、さらなる理解の高まりには期待したいところです。私は、いったん建設構想
が中止されたダムについても再検討、再検証することを提言しています。既存のダムの活用はもちろん大事ですが、前記のように治水、利水、発電等さまざまな効果が期待できる以上、国民の生活の安定のためにも、ダムをもっと増やしていくべきだと思います。特に今冬は暖冬で雪が少なく、このままではダムに流れ込む雪解け水の総量が乏しくなって夏場の水不足が心配されます。暖冬は今後も続く可能性が有りますから、将来に備える意味でもダムの増設が望まれます。
その場合、環境保護の観点から建設に反対する声が指摘されることもありますが、これから公共事業がもたらす恩恵と自然保護のバランスをどう取っていくか、しっかりと考えた上で建設を進めていくことができると思います。加えて、周囲の森林を適正に管理し、森林自体の保水力を高めて行くなど総合的な対策も必要です。
森信 環境破壊に基づく自然災害の頻発に対し、ダムが対策の一翼を担っているというある種の循環型の議論について、国民の受容が深まることに期待したいですね。本日はありがとうございました。
インタビューを終えて
宮本会長は、情熱を持ってダムの必要性を語られ、大変熱い方だと実感した。インタビュー後に日本経済新聞の「リーダー本棚」欄に登場され、名建築家の神髄に触れるということでフランク・ロイド・ライト氏の著作を紹介されていた。建築に興味を持つ小生も愛読している本で、共感した。ますますのご活躍をお祈りします。
森信 茂樹(もりのぶ しげき)
法学博士。昭和48年京都大学法学部卒業後大蔵省入省、主税局総務課長、大阪大学教授、東京大学客員教授、東京税関長、平成16年プリンストン大学で教鞭をとり、17年財務省財務総合政策研究所長、18年9月から中央大学法科大学院教授。東京財団政策研究所研究主幹。著書に、『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書)、『日本の税制』(PHP 新書)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除 日本型児童税額控除の提言』(中央経済社)等。日本ペンクラブ会員。