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【森信茂樹・トップは語る】/日本ダム協会・宮本 洋一

ダムの役割・魅力 を発信し、国民の 理解を深める

東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授  森信 茂樹
東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹

 国民の大事な水がめであると同時に発電機能への期待が高まり、さらに近年は地元の観光資源にもなりつつあるダム。日本ダム協会は、ダムの役割が多様化する中で日々、ダムの施工技術の向上、広報・啓発、人材育成に取り組んでいる。宮本洋一会長が語るダムの将来像は、地球環境の変動や防災対策も含めた総合的な展望に基づくものだ。

森信 発電についてはどうでしょう。地球温暖化が議論される中、再生可能エネルギーである水力発電への注目が高まっているようですね。

宮本 はい、水力発電は純国産の再生可能エネルギーです。かつ、量的にも安定供給性にも優れ、エネルギー源としての資源が豊富であることから、既存設備の維持管理および再開発事業を通じて、今後も日本の重要な社会基盤として活用されることを期待しています。現実として、太陽光発電、風力発電は天候など自然条件に左右され、今なお蓄電が難しく、電力需要のピーク時にどう対応すべきか、という困難な課題が残されています。

 それに対し水力発電の場合、上下二段階式のダムを整備して、上のダムから落ちた水量を、夜の時間に余った電力で揚水してまた水流を落とせば循環式に電力が得られます。言わば、ダム自体が巨大な蓄電池の機能を有するわけです。実際に、こうした揚水形式のダムもありますが、その他の既存のダムに揚水機能を付加する工事を行うとなると、別途環境アセスメントが必要となるなどクリアすべき問題が発生します。しかし、そろそろこうした機能付加の構想や計画を検討する時期に来ているのではないでしょうか。

森信 特に2011年の東日本大震災以後、それまで休止していた揚水式ダムが、一部再開したそうですね。

宮本 これから、もっと揚水機能を増やして行くべきだと思います。火力にしろ原子力にしろ、一度動かしたら止めるのが難しく、また、スイッチを切って再稼働する時に多大なエネルギーを消費することから、常にある一定の量を動かし続ける必要があります。従って、オフピークに余剰電力をどう処理すべきか、常に課題とされてきました。現在は熱として海中へ放出していますが、いずれにしてもなるべく余剰を生まず、ピーク時に追加発電できるような調整可能な電力である方が望ましい。揚水式の水力発電はそれに適うエネルギー源なのです。揚水発電所に対しては、再生可能エネルギーへの期待が高まる以前から、その機能が注目されてきました。それ故、今後、揚水発電機能を持つダムをもっと整備すべきです。

 特に、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の提言にもありますように、発電用以外の既存ダムの用途変更にまで踏み込んだ再開発事業などにより、未利用水力エネルギーの徹底活用を図ることで、風力や太陽光発電の出力変動や、猛暑の夏期や厳冬期における大きな需要に対しても俊敏に対応することが期待されます。

「ダムマニア」増加とマイスター制度

森信 貴協会は、これらダムに関するソフト、ハード両面にわたって関わっておられるのでしょうか。

宮本 協会としては、ダム構築・整備のための技術の維持・向上が最も大きな目的となります。また、これまでダム建 設に携わってこられた方々のご苦労と功績を讃えて、1981年より「ダム建設功績者表彰」を年に一回開催しています。昨年までに、1278名の方々を表彰しました。その対象には、用地関係、工事関係だけでなく、ダム周辺の環境保全整備に著しく功績のあった団体やダムの上流地域と下流地域の交流に功績のあった団体も含まれています。例えば昨年は、空き缶の回収や外来種の魚を釣る大会を主催し、在来種の保全に努めたり、ダム工事に際して魚の棲み替えを実施した漁協、一昨年には、空心菜をダム湖で栽培することで窒素やリンの減少に取り組んでいる農業高校を表彰しました。

 言わば、ダムの存在意義や有用性をアピールすることが当協会の主な役割です。

宮本会長 表彰式典
宮本会長 表彰式典

森信 その点は近年、国民からダムに対する見方も変わってきているようですね。むしろ現在は、ダムを見に行くツアーが盛況になるなど、ダムが人気の対象になっている感がありますが。

宮本 はい、少し前までは、ダム建設は環境破壊などマイナスのイメージが広まっていましたが、2000年ごろから ダムに興味を持ち、各地のダムを巡ったりする、いわゆる「ダムマニア」「ダム愛好家」といった方々が増えて参りました。ハイキング姿でダムと周辺を散策する若い人も増えています。そうした人気の高まりに合わせて、ダム管理者は多数の「ダムカード」を発行していますし、また地元の飲食店ではいろいろなご当地「ダムカレー」を提供して話題になっています。

 ダムというものは、完成して定着するとダム自体の建築構造物としての魅力や放水の場面、風光明媚な周囲の自然と相まって、一種の観光資源になるケースも少なくないのです。協会としては、そうしたダムの魅力をもっとアピールしたいと思い、いろいろな活動を行っています。

森信 ダム協会ではマイスター制度も設けていると聞きました。

宮本 2010年8月からダムマイスターの募集を開始しています。ダムマイスターは、ダムの実態や役割、魅力など を伝えるボランティアの称号です。審査の結果、18名の方が初代ダムマイスターに任命され、さらに16年度よりダムマイスターを「専門家」「一般」に分け、現在38名が活躍されています。任期は2年で2020年は4月から第6期となります。対象はダム技術者やそのOB、非常 に豊富な知識を持ったダムマニアの方々など、それぞれの得意な分野を持ったダムのエキスパートです。

やんばツアーズ(写真提供:八ッ場ダム工事事務所)
やんばツアーズ(写真提供:八ッ場ダム工事事務所)

宮本 洋一(みやもと よういち)
昭和22年5月16日生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒業。昭和46年清水建設株式会社入社、平成15年執行役員北陸支店長、18年専務執行役員九州支店長、19年代表取締役社長を経て、28年4月より現職である代表取締役会長へ就任。平成26年6月より(一財)日本ダム協会会長。