2024/08/01
田和次官の続投の有無は? 岸田政権は穏やかな人事が好き?
安倍・菅両政権下の9年近くで、内閣府の役割は大きく変わった。看板政策の旗振り役を任されるようになり、各省からエース級の人材が集まるようになった。だが、昨年10月に発足した岸田政権は安倍・菅両政権とは肌合いが異なる。霞が関の意向には基本的に従うスタイルだからだ。ドラスティックな〝異動〟は少ないとの見方が多い。
さて本欄の予想通り、田和宏事務次官(59年、旧経済企画庁、東大経)が昨年9月に誕生したばかりで、現体制が継続するかどうかが最大の焦点となりそうだ。続投の線もあるし、交代もなくはない。田和氏は安倍・菅政権下で重用されたことも大事な要素だ。
大塚幸寛内閣府審議官(61年、旧総務庁、早大政経)は今夏で60歳、去就が注目される。井上裕之内閣審議官(61年、大蔵省、東大法)は昨年9月の就任で続投してもおかしくはない。宮地毅官房長(60年、旧自治省、東大法)はすでに60歳を迎えた。
枢要ポストの政策統括官では、菅義偉前首相に近かった経済財政運営担当の林幸宏政策統括官(63年、旧経企庁、京大農)が異動対象となる。経済社会システム担当の村瀬佳史政策統括官(平成2年、通産省、東大経)、経済財政分析担当の村山裕政策統括官(63年、旧経企庁、一橋大経)、沖縄政策担当の原宏彰政策統括官(62年、旧総務庁、東大法)、政策調整担当の笹川武政策統括官(平成元年、旧総務庁、東大法)の4人はいずれも昨年9月の着任で、一気に交代することは考えにくい。
就任から丸4年となる井野靖久経済社会総合研究所長(60年、旧経企庁、慶大経)は今年で60歳。増島稔経済社会総合研究所次長(61年、旧経企庁、東大経)は着任から丸2年で異動対象だ。小野田壮賞勲局長(61年、旧総務庁、東大法)は着任から3年、交代の可能性が高いだろう。
林伴子男女共同参画局長(62年、旧経企庁、東大文)は就任から丸2年。子ども関連政策のキーパーソン、藤原朋子子ども・子育て本部統括官(平成元年、旧厚生省、東大法)は就任から1年経っていないが、両女性幹部の去就に注目だ。ワクチン開発を担う八神敦雄健康・医療戦略推進事務局長(62年、旧厚生省、東大法)は就任から2年が経過。松尾泰樹科学技術・イノベーション推進事務局長(62年、旧科学技術庁、東大院理)は今夏で異動のタイミングとなる。原典久総務課長(平成6年、旧総務庁、北大法)は着任から2年で、次のポストに移るかもしれない。
官邸中枢は栗生俊一官房副長官兼内閣人事局長(56年、警察庁、東大法)の安定感が光る。今年1月から森昌文首相補佐官(56年、旧建設省、東大工)が加わり、嶋田隆政務秘書官(57年、通産省、東大工)、秋葉剛男国家安全保障局長(57年、外務省、東大法)と合わせ計4人の次官経験者が官邸に陣取っている。求心力低下が指摘されるデジタル庁では、大規模人事の観測がある。
満を持して内藤氏の次官就任か 旧郵政の二人の総務審議官は続投の線
総務省は今夏の人事で事務次官の交代が有力視されている。旧自治省出身の黒田武一郎事務次官(57年、東大法)は在任が2年半に及んでおり、そろそろ後進に道を譲ってもよいタイミングといえるだろう。そもそも黒田氏の在任が長期化しているのは、旧自治のエースとして折り紙付きの実力を持っていることに加え、旧郵政部門での不祥事が相次いだためでもある。事務方トップの交代により、総務省も新たに出直す姿勢を改めて内外に示さなければならない。
黒田氏は2019年12月、旧郵政出身の前次官が起こした不祥事に伴い、総務審議官から急きょ次官に昇格した。その後、郵政部門では菅義偉政権時に幹部接待問題が発覚。黒田氏も監督責任を問われて厳重注意処分を受けるなどしたが、関係者の処分を速やかに進め、省内の動揺を最小限に抑えた功績は大きい。高市早苗氏、武田良太氏、金子恭之氏と続いた3人の大臣の信任も厚かった。半面、黒田氏にとっては政策面での独自色を発揮しにくい2年半だったともいえる。
後任次官の最有力候補は内藤尚志消防庁長官(59年、旧自治、東大法)だ。自治財政局と自治税務局の主要課長を軒並み歴任し、両局で局長を務めた。満を持しての登板といえるだろう。金子総務相が交代時期を年明けに先送る可能性もあるが、その場合でも内藤氏への禅譲が最優先で検討されることになろう。
現在、旧郵政出身者では竹内芳明氏(60年、東北大工)と佐々木祐二氏(62年、東大経)が総務審議官を務めているが、内藤氏をおしのけて昇格するとは考えにくい。不祥事に伴う離職者も出したことから、今夏は続投の線が濃い。交代する場合の総務審議官は、吉田博史情報流通行政局長(62年、旧郵政、東大法)が候補になろう。
旧総務庁では、総務審議官の山下哲夫氏(60年、旧総理府、東大法)の処遇が焦点。同ポストは行政管理局長と内閣人事局人事政策統括官を経験した幹部が就任するのが通例となっており、交代する場合は、同人事政策統括官の堀江宏之氏(61年、旧総務庁、東大法)、横田信孝氏(62年、旧総理府、東大法)らが候補になる。
内藤氏が今夏で次官に昇格すれば、後任の消防庁長官には髙原剛内閣審議官(59年、旧自治、京大法)の起用が取り沙汰されよう。自治行政局と自治財政局の両局長は続投するとみるが、自治税務局長、官房長を含めた交代があるとすれば、大村慎一新型コロナ対策地方連携総括官(62年、旧自治、東大経)、馬場竹次郎地域力創造審議官(63年、旧自治、東大法)、原邦彰官房長(63年、旧自治、東大法)らの起用が検討されるものとみられる。
新型コロナウイルスの感染拡大で地方経済は疲弊し、地方財政にも影響が及んでいる。デジタル化の急速な進展に応じ、情報通信の機能強化や放送制度の見直しも待ったなしの課題だ。国家公務員のやる気を引き出す働き方改革なども急務といえる。総務省には新体制を組み、日本の国力を高めるための政策立案にまい進する姿勢を望みたい。
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検事総長、スムーズなバトンタッチへ 畝本氏の抜擢が「妙手」に?
法務検察では、検察トップの林眞琴検事総長(35期、東大法)の勇退が今夏までに見込まれる。2年前に、前例のない検事長の定年延長で混乱を極めた法務検察だが、林体制の下で落ち着きを取り戻し、今回はスムーズなバトンタッチが予想されている。
林氏は1983年検事任官の64歳。早くから総長候補と目されていたが、政府が2020年1月、当時の東京高検検事長だった黒川弘務氏(35期、東大法)の定年延長を決定。黒川氏が稲田伸夫前検事総長(33期、東大法)の後継候補に一躍躍り出たため、林氏の検事総長就任は立ち消えになったとの観測が広がった。
しかし、黒川氏が新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言下で新聞記者らと賭けマージャンをしていたことが発覚し、20年5月に辞職。法務検察の構想通り、林氏は20年7月に検事総長に収まった。
林氏の後を継ぐ検事総長候補として名前が挙がるのは、現在、検察ナンバー2の甲斐行夫東京高検検事長(36期、東大法)だ。法務省刑事課長や最高検刑事部長を歴任。法務省経験が長い「赤レンガ派」と、捜査の経験が豊富な「現場派」の顔を併せ持っており、林氏と同様、将来の検事総長候補と早くからみなされていた。このため想定通りの検事総長人事になりそうだが、火種も残る。
甲斐氏が検事総長に就任すると、検察ナンバー2の東京高検検事長のポストが空く。後任には、落合義和最高検次長検事(38期、東大法)の名前が挙がっている。検事総長は近年、およそ2年の任期を務めた後、東京高検検事長を後継指名する流れがパターン化している。ただ、落合氏は23年1月には定年に達するため、次の検事総長の候補にはなり得ない。法務検察内では、甲斐氏が検事総長を勇退するであろう2年後、誰が東京高検検事長の椅子に座っているかに早くも関心が集まる。
法務検察は元々、林氏から甲斐氏へ、甲斐氏から辻裕教仙台高検検事長(38期、東大法)へ検事総長のバトンをつなぐ構想を練っていたとされる。しかし、辻氏は前任の法務事務次官時代に、官邸とともに黒川氏の定年延長を進めてきたため、「定年延長問題の責任の所在が曖昧になる」との意見もある。
「妙手」になりそうなのが、畝本直美広島高検検事長(40期、中大法)の抜擢だ。畝本氏は21年7月に女性として初めて検事長に就任した。最近は、女性検事の任官者が4割近くまで増えている。畝本氏を検事長に引き上げたのは定年延長問題で辻氏と距離ができた林氏だとの見方もあるが、畝本氏は女性検事の「ロールモデル」となり得るため、法務検察にとっては組織の活性化につながる魅力的な選択肢となる。
一方、今年(22年)は、大谷直人最高裁長官(29期、東大法)が70歳の定年を迎え、トップも交代した。いずれも34期の林道晴(東大法)、戸倉三郎(一橋大法)両最高裁判事のうち、5月下旬に戸倉氏の就任が閣議決定された。また、今崎幸彦東京高裁長官(35期、京大法)が最高裁判事となった。
森氏続投の状況に変化あり 超長期ロシア大使後任の可能性?
ロシアによるウクライナ侵攻が国際秩序の根幹を揺るがす中、外交活動の事務局として業務量が大きく増えている外務省。今夏の人事異動で最も注目されるのは、本省・在外公館合わせて6000人以上の職員を束ねる森健良事務次官(58年、東大法)の進退だ。
森氏は菅政権下の昨年6月、国家安全保障局長に就いた秋葉剛男氏(57年、東大法)の後任として事務次官に就任した。事務次官在任期間が戦後最長の3年5カ月となり「ミスター外務省」と呼ばれた秋葉氏の下、政務担当外務審議官としてロシアとの平和条約交渉などを担ってきた森氏。幅広い経験を持ち、堅実さと人当たりの良さに定評のある森氏だが、ここに来て周囲の状況が変化しつつある。
きっかけは菅義偉前首相から岸田文雄首相への首相交代だ。菅政権の外交は外務省の意向を全面的に尊重するスタイルだったが、昨年10月に岸田政権が発足すると、首相官邸主導の外交に切り替えようとする動きが加速。昨年11月の林芳正外相就任後、各国との外相電話会談の調整にとりかかった森氏らに対し、首相官邸側が「外相の電話会談は首脳同士の電話会談の後にすべきだ」としてストップをかけるなど、外務省と首相官邸の間がギクシャクする場面が目立つようになった。
このため森氏に関しては、在任6年半を超えている上月豊久氏(56年、東大教養)の後任の駐ロシア大使など、主要な在外公館のトップに起用されるのではないかとの観測がある。ただし、不祥事や政権交代などがない限り事務次官は2年ほど務めるのが通例で、省内外には平和条約交渉を通じロシアの内情をよく知る森氏が引き続き陣頭指揮に当たるのが妥当だという意見も多い。ウクライナ侵攻以降、森氏がロシアスクールのエースながら「対露強硬論者」として存在感を増す宇山秀樹欧州局長(63年、東大法)とともに連日、岸田首相と面会していることも注目点だ。
次期次官の有力候補としては、山田重夫外務審議官(政務担当)(61年、慶大法)の名前が挙がる。調整能力の高さは折り紙付きで、茂木敏充前外相からも絶大な信頼を得てきた。20年7月から経済担当外務審議官を務める鈴木浩氏(60年、東大法)も、来年のG7サミットを岸田首相の地元・広島で開催するための調整に尽力し、有力候補の1人と目されている。秋葉氏と同様に国際法局長を経て総合外交政策局長に就いた岡野正敬氏(62年、東大法)も、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」首脳会談の国内初開催などの実績を重ね、次期次官の有資格者とされる。
いずれも在任期間が約2年となる市川恵一北米局長(平成元年、東大法)、石川浩司官房長(61年、東大法)は別のポストに就く可能性がある。安全保障のプロとして知られる船越健裕アジア大洋州局長(63年、京大法)が、日米韓3カ国の連携強化という重責を引き続き担うかも注目点だ。北米局参事官時代、在日米軍駐留経費交渉の交渉官を務めた総合外交政策局審議官の有馬裕氏(平成3年、東大法)も重要ポストへの起用が取り沙汰されている。
エースの繰り上げにサプライズなし 最大の焦点は官房長人事
財務省人事では矢野康治事務次官(60年、一橋大経)の退任が濃厚だ。省内きっての財政再建論者だった矢野氏。省内主流派である主計局での経験は浅く東大卒がほとんどを占める中で一橋大の出身者であるなど「異例」の事務次官だった。就任当初も話題を呼んだが、その名が一般に広く知られるようになったのは昨年10月発売の文藝春秋11月号に「このままでは国家財政は破綻する」と財政悪化を懸念する論文を発表したことだ。「ばらまき合戦」のような議論を続ける与野党に懸念を示す内容で、現職の官僚が実名で政策の是非について商業誌に投稿することは異例中の異例。岸田政権発足後のタイミングで衆院選を控えた政治の議論を率直に批判したことは、与野党問わず政治の側の反発を招き、国民の間にも財政や官僚の在り方について議論を巻き起こした。
そんな矢野氏の後任人事ではサプライズはなさそう。茶谷栄治主計局長(61年、東大法)が順当に事務次官に繰り上がる見通しだ。茶谷氏は主計官、主計局次長などの王道コースを歴任してきた「エース」で早くから事務次官候補と目されてきた。異例の次官として目立つことの多かった矢野氏の後任となるが、手堅い仕事ぶりをするのではないかと言われている。
ただ、財務省をとりまく環境はますます厳しさを増している。新型コロナウイルスは先行きがまだ見通せない状況が続いているが、コロナ対応を名目に多額の公金が投入されてきたことへの検証は不可欠だ。さらに、ロシアのウクライナへの侵攻とそれに伴う西側諸国の経済制裁もあって、資源価格の高騰など世界的に物価上昇が進行している。輸入物価の上昇を後押しする円安も絡んで生活苦が拡大すれば、さらなる財政出動を求める声が今後も拡大していくのは必至だ。人々の暮らしを守りながら、中長期的な国家像をどう描いていくか。茶谷氏の手腕が問われることになりそうだ。
後任の主計局長には新川浩嗣官房長(62年、東大経)が就任予定とみられる。新川氏も早くから省内の中枢を歩む人材と目されており、安倍元首相の秘書官も経験するなど政治との距離感も心得ている。茶谷氏らと共に、山積する内政の課題でどうかじ取りを担っていくかが注目される。
新川氏が動いた場合には後任の官房長人事が今回の財務省人事の最大の焦点。候補者として、岸田文雄首相の秘書官を務めている宇波弘貴氏(平成元年、東大経)の名が挙がるが、岸田総理がすぐ手放すとは思えず、秘書官を続投する公算が高い。来年以降の幹部人事に影響するだけに、大きなポイントとなりそうだ。
主税局長は住澤整氏(63年、東大経)の留任が有力視される。国際金融部門はウクライナ情勢への対応で継続性が重視されそうだ。神田眞人財務官(62年、東大法)はロシア制裁で海外当局や各省との調整を最前線で担っており、続投の見通しだ。
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異例の旧文部2代連続から脱却? 不祥事の影は払しょく、徐々に「平時」に
今夏の人事では、昨年9月に就任した義本博司事務次官(59年、旧文部、京大法)の去就が焦点だ。留任する可能性が残る一方、退任するケースでは、後任として元文部科学審議官で内閣府科学技術・イノベーション推進事務局長の松尾泰樹氏(62年、旧科学技術庁、東大院理)の名前が挙がっている。
次官は、旧文部と旧科技が交互に就く「たすき掛け」が続いてきた。昨年の人事では、ともに旧文部出身の藤原誠前次官(57年、東大法)から義本次官へバトンタッチ。旧文部が2代続いたのは、初代・2代目次官以来となる異例の人事だった。今回は交代となれば旧科技の就任が有力だ。
文科審議官は次官に次ぐ事務方ナンバー2に当たり、丸山洋司氏(57年、旧文部、法政大院)と柳孝氏(62年、旧科技、立命館大法)の2人が就いている。ノンキャリアとして初めてこのポストに就任した丸山氏は今夏で丸2年になる。現在60歳で、退任の可能性が濃厚だ。省内には「霞が関初のノンキャリア次官を文科省から誕生させてほしかった」と惜しむ声もある。
初等中等教育局長から文科審議官に昇格するケースが多いため、丸山氏が退任する場合、後任は伯井美徳初等中等教育局長(60年、旧文部、神戸大法)が有力だ。藤原章夫総合教育政策局長(62年、旧文部、東大法)は、伯井氏の後の初中局長のほか、現在は旧科技出身者が務める高等教育局長への横滑りなどが考えられる。
官房長は、次官と異なる省庁出身者が就く慣例がある。現在は義本次官と同じ旧文部の矢野和彦氏(平成元年、青山学院大法)が務めているが、松尾氏が次官になった場合、串田俊巳スポーツ庁次長(平成元年、旧文部、京大文)の就任などが考えられる。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は6月に解散予定で、出向している伊藤学司氏(平成3年、旧文部、早大法)が同省に復帰する見通し。スポーツ庁次長など局長級の処遇が予想される。
課長級では、望月禎人事課長(平成3年、旧文部、早大政経)の処遇に注目が集まる。2020年10月に官房総務課長から横滑りし、人事課長を2年近く務めているのは省内では珍しいため、一気に局長級へ昇格する可能性もある。
省内で近年相次いだ不祥事で多くの幹部が処分を受けた後遺症がある中、人事が見通しにくい状況が続いてきた。義本次官は17年に組織的天下り問題で訓告処分を受けた上、18年には私大支援をめぐる贈収賄事件で減給され、その後大学入試センター理事に出向した経歴を持つ。文科審議官の有力候補である伯井氏も処分歴がある。
ただ、省内には「義本氏が次官になった時点で不祥事の影響は払拭された」という声や「影響はまだ残るが、過去の処分と人事は別ものだ」という指摘もあり、徐々に「平時」に戻りつつあるようだ。
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