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【末松広行・トップの決断】 国分グループ本社株式会社 國分 晃 氏

過去の「帳目」に既にSDGsの理念

末松 環境に対する取り組みはいかがでしょう。

國分 環境も含めて広くSDGs への対応が求められる現在、当社も何らかのステートメントをつくるべきか検討したところ、実は創業以来、その時代々々における社訓や心得を記した「帳目」に、今日のSDGs的な理念が織り込まれているのを再認識しました。現在は第12代の時に書き換えた「平成の帳目」が最新なのですが、その内容とSDGs で求められる本質とがほぼ同義なのです。この「平成の帳目」をSDGsのフレームワークの中で改め直す形で、2020年9月にSDGsステートメントを作成しました。言わば「令和の帳目」に位置付けられると言えるでしょう。

          国分グループ社員が常に携帯している「平成の帳目」(国分クレド)二つ折りで中面には英語表記も
          国分グループ社員が常に携帯している「平成の帳目」(国分クレド)二つ折りで中面には英語表記も

末松 長い歴史を有する企業は、SDGsに通じる理念をすでに取り込み実践されてきた、ということですね。その温故知新をもって今日的なステートメントへと昇華されたと。

國分 はい、SDGsへの国際的な潮流の中で、当社も一度考え方を整理する好機になったと思います。ちなみに、ステートメントには、〝300年間紡いだ商いを次世代に繋げていく。私たちは食を通じて世界の人々の幸せと笑顔を創造します。〟となっていますが、この部分を企業理念のサブワードと合わせることで、企業としての姿勢を改めて内外に明らかにしています。

 特に卸売業の立場からは、サステナブルな食品を販売していくべく、〝サステナブルカテゴリー〟という、私たちなりの定義を提唱しています。この定義に沿う商品の販売を拡充させていくことにも取り組んでいます。

末松 それは文字通り、環境負荷が少ない、持続可能性が高い食品をカテゴライズされているのでしょうか。

國分 そうですね、当社独自の基準を設けてそれをクリアする商品のラインアップを増やしていきたいと考えています。

末松 事業者のそういう努力を消費者が理解すれば、世の中がよりサステナブルな方向に移行していくのですが。どうしても環境対応の商品類は価格も比較的高くなりがちですから、そこがどこまで消費者に受容されるか難しいところです。

國分 ご指摘の点、私たちの調べでは、平均価格の1.3倍程度までであれば購買される許容範囲であるようです。

末松 消費者ニーズがSDGsの方向へ強まれば、それに沿った商品開発・陳列となるわけですから、まずはカテゴライズされた商品への指向が高まれば何よりですね。

國分 加えて、地域社会がサステナビリティをどう支えていくか、も重要なポイントだと思います。

改めて問われる、消費者教育の必要性

末松 国に対するご意見、ご要望、また誌面を通じたメッセージなどいかがでしょうか。

國分 繰り返しになりますが、値上げを忌み嫌う企業体質と生活者意識が、続いています。産業界も、値上げをしないという姿勢を打ち出して生活者から支持をいただいてきた面があります。その結果、日本経済は世界から取り残されてしまったように思います。こうした状況についてどうあるべきか、国全体で考えていく時期に来ているのではないでしょか。

末松 国は、安く買うことばかりが必ずしも社会を良くすることにはつながらない、良いものは正しくその価値を認めて評価し、適正価格で購入することが、良いものをさらに育てるのだと、消費者全体に分かってもらう努力をすべきですね。

國分 実は、酒類に関しては数年前に法改正され、原価割れして販売してはならないという極めて当然な法律が施行されたため、現在は販売時の適正価格が担保されています。今はさらに厳しくリベートや販管費の管理などが課されるようになりましたので、そういう意味では、現在は大変まっとうな業界になりました(笑)。

末松 食品業界を過度に規制すると産業の活力を阻喪するおそれがあると思います。それゆえ規制はかけないものの、無理やり価格帯を維持することが問題視される点についてはそうならないようにしなければなりません。今後さらに議論していく必要があると思われます。

國分 22年秋には、ビールの値段が14年ぶりに10%上がりましたが、未だかつてなく円滑に値上げが出来たと業界ではもっぱらの評判です。小売業の店頭で値上げを行うことを積極的に事前告知し、生活者のご理解をいただく活動を行ってきたことが大きな要因ではないかと思います。

末松 プレミア商品と言うか、付加価値の高い商品を開発し、値が高くても購買する消費者層を育成してきたのも大変立派ですね。本日はありがとうございました。

インタビューの後で

 國分社長のご指摘通り、近年は短期的な利益を求める投資が増え、また企業にしてもファンドにしても預かった資金を最大限に運用することが第一目的となる傾向にありますが、國分社長のお考えのように実ビジネスの中でお互いに利益を出し合う、その基本理念をもとに長期的な視点で事業を進めていくことは、今の時代において非常に特色あると言えるでしょう。また、その方針を貫徹できる体制にこそ、生産者から消費者までを大切にする国分さんの本質が表れていると思います。

 また國分社長が食品の海外輸出に注力されているのは心強い限りです。農林水産省では、2025年に2兆円、2030年に5兆円という目標は設定しつつも実際にそれを担う事業者さんの協力が得られるかどうか、当初は不安に感じる部分もありました。が、実際に輸出事業に携わり、十分な手応えも感じておられるとのこと、ぜひこの勢いをさらに発展させていただきたいところですが、もちろん、多大なご苦労の結果としての数字ですので、その現状を多くの人に認識してもらいたいと思います。

 同時に、価格上昇による値上げについても苦しい様子が窺えました。これは生産者から消費者まで全ての過程で、等分に値上げを負担すべきです。サプライチェーンのどこか一部分にしわ寄せがいくと、その部門の事業が立ち行かなくなり、どこかが寸断すれば結果としてサプライチェーンの瓦解につながります。価格上昇は未だ頭打ちの傾向が見えませんが、流通が変わらず維持継続されるよう、あまねく値上げについて理解する必要があります。物流の〝2024年問題〟についても同様で、これらはつまるところ、国による消費者教育の問題でもあります。必要性の乏しい負担を事業者にかけるばかりでは、その影響は最終的に消費者に跳ね返ってくることを、より広く発信、深く周知していくべきです。
                                               (月刊『時評』2023年3月号掲載)







すえまつ・ひろゆき 昭和34年5月28日生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部卒業。58年農林水産省入省、平成21年大臣官房政策課長、22年林野庁林政部長、23年筑波大学客員教授、26年関東農政局長、神戸大学客員教授、27年農村振興局長、28年経済産業省産業技術環境局長、30年農林水産事務次官。現在、東京農業大学教授、三井住友海上火災保険株式会社顧問、等。