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【末松広行・トップの決断】 国分グループ本社株式会社 國分 晃 氏

〝共創圏〟構想の導入

末松 では、現在の主な事業内容をご紹介いただければ。

國分 酒類・食品の卸売業として、生産者、メーカーの皆さまから商品を仕入れ、小売店に卸す、あるいはダイレクトに生活者にお届けしています。これまでは仕入れや販売など、食を扱う事業者の皆さまを対象として捉えてきましたが、スタートして3年目となる第11次長期計画においては、〝食の価値創造〟を図るべく、第一次生産者から生活者までの全てを、食のバリューチェーンの対象として、そのスコープをさらに広げました。現在は、農家の方々とも連携したり、缶詰の自社ブランド「K&K」の『缶つま』シリーズを中心に商品開発にも力を入れたり、グループ企業で惣菜の製造もおこなっています。また、大手小売業様から生鮮のプロセスセンターの受託をさせていただくなど、食のサプライチェーンのほぼ全域に携わっているところです。

 取り扱う商品の幅が非常に広く、仕入れ先企業は1万社を超え、登録アイテムは60万点、販売先はコンビニエンスストアからGMSチェーン、まちの酒屋さん、e-コマースの事業者、料飲店まで含め3万社を超えます。

 海外においては60カ国に日本食品の輸出を行っています。とくに中国、ASEANでは現地子会社を立ち上げ、卸売事業、物流事業を展開しています。

末松 川上の生産者から川下の消費者まで活動領域を広げておられるとのこと、一方でビジネスアイデアを公募されていると聞きました。

國分 はい、オープンイノベーションプログラムとして、2020年に第1回を、22年8月に2回目の公募を行いました。現在60件を超えるアイデアの中から数件に絞り込み、詳細を検討しているところです。

 私たちは〝地域密着 全国卸〟を標榜しています。日本は各地域に密着した独自の食文化が発達しており、地域の特性を理解することが必要です。全国卸はなかなか地域に根付いた事業活動ができないと見られがちですが、その中で全国を対象としながら地域に密着した活動ができているとの自負を持っています。その方針の下、現在は七つのエリアカンパニーを各地域に置いて、フルライン、フルファンクションの活動をおこなっています。

 〝地域密着 全国卸〟を掲げる以上、地域活性化促進も、私たちの重要な役割だと認識しています。それゆえ、2回目の公募では地域ビジネスのアイデアにより重点を置きました。

末松 このようなビジネスアイデア公募の構想、さらに遡って地域密着を打ち出した背景、趣旨はどのようなものでしょう。

國分 第11次長期計画では、〝共創圏〟という考え方を導入しています。食のバリューチェーンにおいてイノベーションを起こすには、やはり自社だけでなくいろいろなパートナー企業と協力し、お互いの強みを生かしていく方が、実現性が高いと思われ、幅広く共創していくことが重要と考えます。

 共創の活動では、自治体の皆さまといろいろな取り組みが始まっています。千葉市と「千葉市民の食習慣の改善に向けた連携に関する協定」を締結し、市民の減塩普及啓発事業を支援しています。また、秋田県横手市では、買い物難民の救済策として、既存の地域資源である公民館等を活用した「スマートテラスストア」を設置し、地域住民の小売店までの物理的な距離を短縮し、食料品アクセスを向上させる取り組みに参加しています。大阪府吹田市では、ふるさと納税の返礼品の開発・受注・発送など運営の一部を受託。地元小売店からの発送業務に関して国分の物流センターから直接配送を行うことで、運営コストの削減と地元小売業の売上げ支援を行っています。全国の地域食品メーカーの「隠れた名品」についても、国分グループの物流拠点が出荷業務を担うことにより、地域の事業者の出荷作業軽減、コスト削減につながります。私たちグループのインフラや商流ネットワークが地域活性化にお役立ていただけるのであれば、積極的に協業の機会を持っていきたいと思っています。

 私たちは会計上の連結にはこだわりません。会計上の連結によってサプライチェーンをコントロールするのではなく、必要に応じて出資することもありますが、共創の理念の下、ビジョンを共有してイノベーションを起こすことを優先しています。

 この考えは私どもが上場せず、自由度をもってさまざまな取り組みにチャレンジできるプライベート・エクイティであるが故にできるものです。現在、食に関わらず、さまざまなファンドが立ち上がっていますが、これらファンドへの出資者は当然、エグジット(投資に対する利益回収)することを求めていると思います。その中で私たちは、卸売業として食のバリューチェーンに対し、商流・物流の実ビジネスの中で応分の利益を分け合うことを前提に置いています。この点、サプライチェーンをコントロールすることもエクイティを売り買いすることも無く、共創の精神を形にして行きたいと考えています。

末松 資本的な系列を組むのではなく、各ステークホルダーともどもお互いにプラスとなる部分を探してビジネスを続けていく、という姿勢を貫いているわけですね。

國分 おっしゃる通りです。一方、地方の過疎地では競合の卸売業と配送トラックを共有するなど、地域によってはコ・ワークすることも行っています。また、当社が卸売業各社にお声がけして、商品マスター管理を共同で行う企業を共同出資で設立し、食品流通の業界標準マスターとなっています。

松阪市との包括協定締結式の様子(提供:国分グループ)
松阪市との包括協定締結式の様子(提供:国分グループ)

海外ビジネスの現場における成果と苦労

末松 冒頭お話のあった海外事業の動向について、より詳しくお聞きしたいと思います。

國分 貿易事業、中国事業、ASEAN事業の、三つの柱によって成り立っています。貿易は文字通り日本の食品を世界に輸出するビジネスで、目標としては2025年までに、対象輸出国を現在の60カ国から70カ国まで広げたいと考えています。22年は初めてアフリカの市場を開拓しました。

末松 農林水産省でも日本の農産物や食品の海外輸出に力を入れ、コロナ禍の中にあって順調に数字を伸ばしています。実際に現場の最前で事業活動している御社として、近年の手応えのほどはいかがですか。

國分 貿易事業は年々売り上げ増を記録しています。ウクライナ問題など突発的な事案によって地域的な差異は生じますが、一貫して2ケタ成長を維持しており、この傾向は今後も続くと予想しています。

末松 以前は、日本の食品・商品は元値が高いので海外市場では高価格帯となり苦戦するのではないかとの予測もありましたが、現地ではその不安も乗り越えているようですね。

國分 もちろん、苦労も多く、大変で、ひとかたならぬ努力をしております(笑)。海外で、日本食の展示会を開けば売れるというものではなく、実商売に深く入り込み、シビアな交渉をこなしていかねばなりません。中国やASEANでは現地に卸会社を設立して、私たち自ら商物流のネットワークを構築しています。また、22年末、中国でe-コマースに強い食品卸企業の「上海懿姿(シャンハイイーズ)電子商務有限公司」と資本業務提携契約を結びました。ASEANでは、日系企業と現地外資系企業、小売企業と丁々発止の交渉を重ね、それなりのリスクも取り、サプライチェーンが途切れないよう、国内のお客さまに接するとき以上のサービスレベルで商物流を整えています。

末松 伸びてはいるけど、その背景には事業者さんのご苦労が多いということですね。

國分 その点について実は昨年、食料・農業・農村基本法改正に向けた審議会にゲストで呼んでいただいたので、現場の苦労を有り体に吐露させていただきました(笑)。

末松 今年23年も含めて、これから力を入れていこうという構想や分野などはいかがですか。

國分 値上げへの対処が当面のテーマとなります。21年頃から、食品、酒類などすべてにおいて価格上昇がとどまらず、お取引先には事情・状況をきちんとお伝えして、適正な価格改定をさせていただいています。この点は事業者から生活者の皆さままで、広くご理解いただきたいと思います。

 また、業界全体では物流の人材確保が深刻な課題です。2024年4月に施行されるトラックドライバーの時間外労働規制によって、まさにモノが運べなくなる危機の到来が危惧されます。これについても価格と同様、川上から川下に至るまで、従前の多頻度・少量配送というきめ細かいサービスは、今後は叶わなくなる可能性があることを認識いただければと思います。業界全体でルールを決めて激変緩和を図る必要があります。

末松 ご指摘の部分は消費者教育の在りようにも関わる問題ですね。これは事業者に委ねるのではなく、国が主導して行うべきです。