2023/01/20
末松 御社では現在、より大規模な、インパクト投資ファンド(LPS=投資事業有限責任組合)を構想されておられるとのことですが、この概要についてお願いできましたら。
小松 本LPSは「食」のインパクト投資ファンドとして、農林水産業から水産加工、酒造や飲食店、そして日本の「食」の輸出に取り組む事業者までを対象に、SDGs の達成に寄与する事業者を応援する、これが理念となります。投資対象となる業種としては生産者から始まり6次産業化の各過程に関わる事業者各位で、これから15年ほどの期間を想定しています。
基本的な構造は、前述の〝ブレンデットファイナンス〟の構図を生かし、投資家さんに対し経済的リターンに加えて、社会的リターンを提供することです。つまり、このLPSの運用によってどれだけ地域の課題を解決し社会貢献できるのか、それを〝見える化〟することを目指します。例えば当社では、酒蔵を支援することで地場産のお米をどれくらい調達できたのか、等の各種成果を定量化して投資家さんにレポートする仕組みを作っています。
末松 同事業の展開を目指すきっかけとなったのは。
小松 2021年8月に、「農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法」一部改正法が施行されました。改正前の投資対象は「農業法人」に限定されていたのに対し、改正後は「食品事業者」「外食・流通業者」等へ対象業種が幅広く拡大されたのです。これは素晴らしく良い法改正で、当社がこれまでインパクト投資プラットフォーム事業を通じて培ってきた実績やネットワークをさらに活用し、「食」に関して社会的インパクトの事業を営む農業法人や食品産業事業者をより多く、金融面で応援する仕組みを提供する契機となりました。つまり法改正を機に、一事業ごとに投資できるマザーファンドを作っていこう、と考えたのです。
より大きな額の資金を動かすことで「食」に関する幅広い事業者に資金をお届けし、一方、地域金融機関や漁業組合さんなど、平素はあまり投資にご縁の無い分野の方にも投資に参画していただく、同時に社会貢献、地域課題解決に資するサステナブルな投資プラットフォームの構築を目指す、これが本LPSのコンセプトとなります。
ただあいにく、前出の改正「特別措置法」の枠組みが基本的にエクイティーファイナンス、つまり株式出資を想定しているのが惜しまれるところです。
末松 さらなる改正が望まれると。
小松 やはり株式出資ですとベンチャーキャピタル的な性格が強まりますので、受け入れられる企業があまり広がりません。また匿名組合出資を募るという当社の強みが現行の枠組みでは生かしきれないのです。従って、本LPSも法改正とほぼ同時期の21年8月からの開始を想定していたのですが、今の段階ではまだ本格稼働に至っていません。大切な経営権や投資の出口戦略などの問題で、株式にすると出資する側も受け入れられる企業も限られてくるので、酒蔵さんなどは当社のような匿名組合出資の方が適すると考えられます。農水省さんにはここはぜひ、匿名組合を対象とするようさらなる改正をお願いしたいと思います。
末松 なるほど、伝統的な企業や地域の事業者さんを支援するようなファンドですと、株式出資ではなく匿名組合出資の方が投資しやすいでしょうね。使い勝手をより良くするという観点ではもう一歩、法律の改正が必要かもしれません。
小松 上場はしない、急成長もしない、しかし地道に事業を継続して地域経済においては欠かせぬ存在になっている、そんな企業さんは全国にたくさんあります。そうした方々がこの先も持続的に頑張っていけるためにも、リスクをとってくれる成長マネーをお届できるよう、応援しやすくなる仕組みが求められます。