2023/01/20
クラウドファンディングの先駆との評もあるミュージックセキュリティーズは、今や音楽ファンドの枠を超え、農と食、さらには地域経済活性化へとその活動領域を年々拡大している。地域における資金の円滑な流動と、社会貢献リターンを交えたブレンデッドな仕組みが数多くの法人、投資家の共感を呼び、その発展はさらにグローバル化の兆しを見せつつある。小松社長に、その原点から遡って理念を語ってもらった。
ミュージックセキュリティーズ株式会社
代表取締役社長 小松 真実氏
〝自由な音楽づくり〟を目指して
末松 御社は現在、多彩なファンド事業を展開されていると聞き及んでおりますが、社名からしてもともとはやはり音楽関係からご出発を?
小松 はい、私は中学のころからドラムをたたき作曲も独学して、将来は音楽を生業にしたいという大望を抱き、学生の頃は大手の音楽会社に多くのデモテープを送る、という毎日でした。しかしメジャーの担当者からは、私が作る楽曲に対して自社の方針に沿うような注文や修正が多く指摘され、若気の至りではありますが当時の私は、これでは自由な創作、音楽活動はままならない、と強く感じたのです。
やはりミュージシャンが思い描く音楽を作るには独自の資金を確保しなければならない、資金が調達できないために出資元からの要請に沿った音楽しか許されずクリエイティブなインディペンデント性が発揮できない、ならば音楽を志すアーティストに資金を調達するファンドを設ければよいのではないか――そう考えて2001年に設立したのが弊社ミュージックセキュリティーズです。
末松 創作の自由度を確保するためには、まず資金面で大手に依拠しないようにすべきであると。
小松 はい、〝音楽家のための証券会社〟とも言うべき、金融機能を有した会社を立ち上げたい、それが出発点でした。逆にアーティストが自分で資金調達できれば、当人が作りたい音楽に共感してくれる投資家からさらなる出資が期待され、ますます自分が目指す音楽の創作につながるかもしれません。
また学生時代は、音楽活動と同時にマイクロソフトでインターンをしていたのですが、ちょうどインターネットやパソコン通信が急激に普及し始めた頃で、音楽の楽しみ方が大きく変わっていくだろうとの予感を抱いていました。と同時に、個人のインターネット証券が相次いで立ち上がった時期でもあり、ならば音楽創作の自由度を確保する方策として、ネットを通じてミュージシャンのファンから小口投資を募る仕組みを作ってみよう、と思ったのがそもそもの始まりです。
末松 音楽業界の〝産直〟みたいな発想ですね。
小松 はい、まさにご指摘の通りだと思います。設立後しばらくは音楽ファイナンスに特化していたのですが、次に転機となったのが2006~7年にかけてです。政策投資銀行さんとご縁を持ち、当時力を入れていた日本酒の蔵元、つまり酒蔵のファイナンスに関与してみないかとお誘いを受けました。われわれが行っている音楽系のファンドは酒蔵のファンドにも当てはまるのではないかと。
末松 一見すると分野同士、全くつながりが無さそうですが。
小松 お話を受けて私も酒蔵の状況をリサーチしたところ、実に多くの酒造さんが、お米づくりからこだわった酒造りをしてみたいがいかんせん資金が無く、もっぱら銀行借り入れだが早期に返済せねばならないため、例えば熟成酒づくりの成果が出るまで返済を待ってもらえない、結果として独自の酒造りが自由にできない、という声が数多く寄せられたのです。なるほど、出資元の都合に応じざるを得ないために自分の求める活動に取り組めない、これは音楽も日本酒も同じ構図だと実感し、純米酒ファンドを立ち上げた次第です。
〝ブレンデットファイナンス〟を提案
末松 確かにファンドであれば、出資者はもともとその蔵元のお酒を還元してもらうことに価値があり、蔵元としては仮に市場で売れなくてもその前段階としてお酒を造ることに意味がありますので、これは双方に利益をもたらす仕組みですね。
小松 最初に取り組んだのが埼玉県の神亀酒造さんでした。ちょうど神亀さんら全国の酒蔵さんが〝全量純米蔵を目指す会〟を立ち上げた頃で、それにはまずお米を大量に仕入れねばならず、資金が足りない、そこでファイナンスを当社に依頼された、という次第です。言わばお米を買うためのファイナンスとしてスタートした形ですが、以後その会に加入している酒蔵さんに相次いで当社の仕組みを使っていただくようになりました。皆さん酒造りには地元のお米を使いたいという志向が強く、一方、仕入れたお米代を先に支払ってくれるので、地元農家さんにもこのファンドは喜ばれ、地域貢献としても非常に助かる、という声を数多くいただきましたね。また投資する方は個人が多いため、消費者として日本酒、すなわち出来上がった商品のファンになる、という好循環につながりました。
末松 その過程で2011年東日本大震災が発生し、御社はファンド面から復興支援を図られたとか。
小松 当社の資金を復興のための資金に活用してもらうべく、半分寄付、半分投資という構造の〝ブレンデットファイナンス〟を打ち出しました。被災地からすると、寄付金と長期ファンドが混在しているため長期事業再建計画を立案する基盤になる、という面があります。実際に多くのニーズがあると実感しましたし、新たな投資を呼び込む一つのきっかけになったと思います。
末松 一連のファンド事業がビジネスとして順調に成長したポイントなどはいかがでしょうか。
小松 一つにはウェブベースのビジネスにすることで費用を固定化でき、物理的な窓口を多数設けなくても投資家を集めることができました。また早い段階から地域金融機関や自治体との連携を強め、地域金融機関は現在81社業務提携を結んでいます。銀行や信用金庫等からの融資は基本的にコーポレートに対し貸し出すので、事業承継した場合にはその返済義務も継がねばなりません。しかしわれわれが提供している資金はプロジェクトベース、企画案件ベースが多く、その場合は地域金融機関からの追加調達が有効に機能したという側面があります。
こうした活動をベースに、当社ではこれまで1000本程度の各種ファンドを立ち上げてきました。当社が作ったファンドは現在、楽天証券さんでも販売されており、上場するような事業でなくても楽天証券さんなどを通じて資金調達できたら、それは資金調達の新しい枠組みになるのでは、と期待しています。