お問い合わせはこちら

戸籍の氏名にフリガナ記載、その意義と対応について/法務省 櫻庭 倫氏

◆法務省戸籍改正政策最前線

さくらば ひとし/昭和46年10月生まれ、青森県出身。東京大学法学部卒業。平成8年法務省入省、令和2年法務省民事局総務課民事調整官兼民事監査官、令和3年同登記情報管理室長を経て、令和4年4月より現職。
さくらば ひとし/昭和46年10月生まれ、青森県出身。東京大学法学部卒業。平成8年法務省入省、令和2年法務省民事局総務課民事調整官兼民事監査官、令和3年同登記情報管理室長を経て、令和4年4月より現職。

 本年5月26日より、それまで漢字で表記することがほとんどだった戸籍の氏名に、カタカナでフリガナが記載されることとなる。これは一昨年6月2日に成立した改正戸籍法に拠るもので、戸籍管理、そして国民生活上、歴史的な転換点であると言えよう。ことに〝名前〟の読み方はわが国特有の文化に深く根差すだけに、フリガナの意義は大きい。今回、櫻庭課長に改正に至る主要論点等、概要を語ってもらった。

民事局民事第一課長 櫻庭 倫氏

国民に供される数多のメリット

――これまで公証されていなかった氏名のフリガナが、これからは戸籍の記載事項として新たに追加されるとのこと。そもそも戸籍は、出生や相続などライフステージの折々に取得や確認する機会があるものの、日常的に関わるものとは言い難かったかもしれません。その戸籍にフリガナが振られることにどのような意義や重要性があるのか、ご解説をお願いします。

櫻庭 戸籍は、基本的には親族的な身分関係を登録・公証する唯一の制度です。これまで出生届にはフリガナが振られていたものの、戸籍の表記はほとんどが漢字のみでフリガナは振られていませんでした。しかし表記される漢字は約6万字にのぼり、特定の漢字には複数の字体、例えば斉・齊・齋や、辺・邊・邉などが存在し、データベースで検索を要するときに非常に時間がかかるなど、管理上の利便性を欠く場面もありました。

 その戸籍に今回、フリガナが振られることで、ある種〝一意〟に読み方が決まることとなります。カタカナですと、検索に使用する字数は拗音、濁音、半濁音のほか長音記号を含めても約80字程度に集約することが可能です。このように本人特定がスムーズに行われることで、行政上はもちろん、金融機関等の民間の取り扱いにおいても情報管理が大きく効率化されるだけでなく、都合良く読み方を変え、別人を装うといった不正防止にも役立つと想定されます。現代社会では個々人の情報をデータベースで管理している場合がほとんどでしょうから、戸籍にフリガナが振られれば、それをもとに事務の円滑化や高効率化が広く波及していくものと期待されます。

――戸籍へのフリガナは社会的に要望されていた部分もあろうかと思います。

櫻庭 はい、戸籍にフリガナを振った方が便利だろうという議論は前々からありました。かつて1975年、81年の民事行政審議会においても議論の俎上に上ったことはあるのですが、当時はまだ氏名の読み方に関するルールが定まらず、公簿たる戸籍にルールが無い状態でフリガナを載せるのは混乱を生むという懸念が示され、今般まで積み残された課題の一つとなっていました。

――それが今回、実施に踏み切った背景としてはどのような要因があるのでしょう。デジタル化の推進によって、技術的対応が以前より容易になったことも確かだと思われますが。

櫻庭 政府が推進するマイナンバー施策の一環に位置付けられると思います。もともと2024年を目途に海外でもマイナンバーカードを利用できるようにしよう、という政策課題がありました。マイナンバーカード自体にはフリガナが記載されていないのですが、海外で使う場合にはローマ字表記が主体となるということで、氏名の読み方をローマ字で正しく表記するためにも、戸籍にフリガナがあった方がやはり至便だろうということになりました。

 最初はローマ字表記も選択肢の一つとして捉えられていたのですが、途中からマイナンバーカード自体にフリガナを振る方向で議論が進み、2024年の通常国会で改正マイナンバー法の一部として戸籍法も改正されました。これによって戸籍の氏名にフリガナが振られ、かつその内容が移行されて住民票にもフリガナが付き、そのデータをもとにマイナンバーカードにもフリガナが振られていく、という仕組みが作られました。

――コロナ禍の時に個人の特定ができず、各種業務が滞ったのは記憶に新しいところです。

櫻庭 はい、当時はフリガナが管理されていなかったことも影響し、特定給付金の給付に時間を要したと聞いています。今後、特定の方の口座に給付を要するような事態が発生した時、フリガナがあることで誤払いやひも付けの誤り等の問題が大幅に解消できると期待されています。

――今後再び給付を要するような不測の事態発生時に、円滑に対応し得るだけでも、国民にとって大いに意義がありますね。

櫻庭 そうですね、従前よりコンピュータ上で本人を特定、抽出しやすくなると思います。

市区町村から確認用の通知を発出

――では、今後の作業行程について教えてください。実際にオペレーションの主体となるのは、戸籍の受付窓口となる市区町村になるかと。

櫻庭 当初、法制審議会戸籍法部会においては、まずは国民の皆さまに自身の氏名のフリガナについて届け出をしてもらうのがよいだろう、という議論がありました。ただ、戸籍法上は一定の届け出期間を過ぎると過料がかかることになるため、フリガナの届け出を義務化するのは行き過ぎという意見が多数を占め、最終的には5月26日の施行日から1年以内は届け出ることができる、という期間を設定し、届け出を促すこととなりました。

――なるほど、義務ではなく住民が自発的に届け出ることが可能、という考え方ですね。

櫻庭 その1年間の届け出期間を過ぎた後も届け出が無かった場合は、あらかじめ戸籍に記載する予定の氏名のフリガナを通知した上で本籍地の市区町村が戸籍にそのフリガナを記載する、という段階的な仕組みをとっています。

 もっとも施行を半年後に控え、市区町村から、1年間という限定された期間に全国民が一斉に届け出をすると相当の事務負担となるという意見が出て、2024年11月8日、牧原秀樹法務大臣(当時)から、方針変更の発表がされました。

――どのような変更でしょう、まさに重要なポイントですね。

櫻庭 届け出を促すことは止め、市区町村から国民の皆さま宛てにする通知に誤りがあれば届け出をしていただき、正しければそのまま戸籍に記載されますので安心してくださいというアナウンスがされました。つまり、個人に届け出の労を課すのではなく、まずフリガナに誤りが無いかどうか確認してもらう、というところからスタートするわけです。

――確かに、間違えやすかったり難読だったりする氏名があっても、全国民の母数から比するとそれほど多数ではないでしょうから、多くの人にとっては、このフリガナで合っている、という一瞥で済むことになりますね。あとはその内容が自動的に戸籍に記載されて、通知段階で違っていた場合は届け出するという流れですね。

櫻庭 はい、通知の表記が正しい場合は、その内容が戸籍に振られるということで、届け出件数は相当絞られるのではないかと考えています。

――通知に記載するベースとなるフリガナはどこから参照を?

櫻庭 住民票の事務において、検索のために集めているフリガナ情報があり、それを参考にして通知に活用します。より詳しくお話しますと、出生届には読み方を記載する「よみかた」欄が設けられており、その読み方自体は戸籍には記載されませんが、住民票の処理上必要という留保を付けて記載を求めていますので、その情報が住民票の方で活用されています。また、成年者については選挙の際に行う本人確認などで適宜修正されていると聞いています。そのフリガナ情報を参考とするため、相当程度正確性の高いフリガナが通知されることになるのではないかと考えています。

――もし、通知のフリガナが違っていて、その修正を届け出るときはオンラインでも可能でしょうか。

櫻庭 はい、窓口に直接届けていただくことや、郵送によることも可能ですが、マイナポータルを使ったオンラインの届け出が可能となっており、マイナ
ンバーカードをお持ちであれば、このマイナポータルの利用が簡便で、お薦めです。オンラインの場合は、フリガナの届け出に係るデータを、そのまま本籍地に送って本籍地の市区町村で対応させていただきます。戸籍は最終的に本籍地で記載するのに対し、届け出は住所地にも届け出することができるようになっているのですが、その場合、住所地の市区町村と本籍地の市区町村、二つの自治体で対応を要することになるため、事務負担軽減の観点からも、われわれとしてはオンラインによる届け出をお薦めしています。