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外国人材の受け入れについて/出入国在留管理庁 永田雄樹氏

新制度創設へ、有識者会議の最終報告書の提言

 現在、政府では技能実習制度と特定技能制度について、制度の在り方の見直しを行っています。両制度とも法律の規定に基づき、制度内容への検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるとされており、2022年11月に有識者会議を設置してから約1年間議論を重ね、23年11月に最終報告書が提出されました。1月中旬現在、同報告書を踏まえ関係府省庁において今後の政府の方針について協議・検討を進めているところです。順調に進めば、今度の通常国会での法改正を目指しています。

 では、最終報告書における見直しに向けたポイントをご紹介します。

 最終報告書では、基本的な考え方として、まずはビジョンとも言うべき三つの視点が明示されました。国際的にも理解が得られ、わが国が外国人材に選ばれる国になることが見直しにおいて重点を置く点です。すなわち、「外国人の人権保護」、外国人の人権が保護され、労働者としての権利性を高めること。「外国人のキャリアアップ」、外国人がキャリアアップしつつ活躍できる分かりやすい仕組みを作ること。「安全安心・共生社会」、全ての人が安全安心に暮らすことができる外国人との共生社会の実現に資するものとすること、の3点です。

 このような観点に立って、見直しにおける四つの方向性が示されました。

一 、「技能実習制度を人材確保と人材育成を目的とする新たな制度とするなど、実態に即した見直しとすること」。人手不足であり人材確保が必要であることを正面から認め、これを目的として掲げた上で技能の修得のための人材育成もしっかり行う、こういう観点で見直しを図るべきであるとされました。

二 、「外国人に我が国が選ばれるよう、技能・知識を段階的に向上させ、その結果を客観的に確認できる仕組みを設けることでキャリアパスを明確化し、新たな制度(技能実習制度が発展的に解消された後に創設される制度)から特定技能制度への円滑な移行を図ること」。

三 、「人権保護の観点から、一定要件の下で本人意向の転籍を認めるとともに、監理団体等の要件厳格化や関係機関の役割の明確化等の措置を講じること」。議論が多い点だと思いますが、本人の意向に基づく転籍を認めること、そして中にはうまく機能していない監理団体もありますので、こうした面を改めていくことが提言されています。

四 、「日本語能力を段階的に向上させる仕組みの構築や受け入れ環境整備の取組により、共生社会の実現を目指すこと」。加えて、重要なポイントとして次の留意事項が提言されています。①現行制度の利用者等への配慮。見直しにより、現行の技能実習制度および特定技能制度の利用者に無用な混乱や問題が生じないよう、また関係者が不当な不利益や悪影響を被らないよう、きめ細かな配慮をすること。現行制度を利用している方々が、急な制度変更によって不測の不利益等の悪影響を受けないよう配慮することです。②地方や中小零細企業への配慮。とりわけ人手不足が深刻な地方や中小零細企業において人材確保が図られるように配慮すること。この点は自治体も含め不安を有する関係者の声に配慮し、きちんと人材を確保できるような仕組み・運用が必要ということです。

(資料:出入国在留管理庁)
(資料:出入国在留管理庁)

転籍を認める方向へ

 さらには、前記の考え方を前提に10項目の提言が示されています。まず、「新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等」の提言において、基本的に3年間の育成期間で、特定技能1号の水準の人材に育成するという新たな制度の枠組みが示されています。

 また、「新たな制度における転籍の在り方」においては、現行の技能実習制度の下でも認められている「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大・明確化し、その手続きを柔軟化するとともに、一定の要件のもとに本人の意向による転籍を可能とすることも提言されました。これまで、場合によっては雇用主との力関係で外国人の人権が侵害され、結果として失踪につながるなどの課題が指摘されておりますので、有識者会議では、これらを解消するためにも本人の意向に基づく転籍を認めていく必要がある、との方向性となりました。

 とはいえ、全く自由に転籍を認めることは人材確保・人材育成にも支障が生じかねないため、同一機関での就労が一年超、技能検定試験基礎級等・日本語能力A1相当以上の試験の合格、転職先機関が適正であること、かつ転籍は同一業務区分に限定すること、等の要件を満たすことが本人の意向による転籍の条件とされています。また、受け入れ企業にとっては、せっかく人材を育成してもすぐに転籍されてしまうのでは大きな損失となるため、転籍前の受け入れ機関の初期費用負担につき、正当な補塡が受けられるよう措置を講じるべき、とも提言されました。

 また、監理団体に関しては、従来以上に許可要件を厳格化していくべきとの議論がなされました。特に受け入れ機関と密接な関係を有する役職員の監理への関与の制限、外部監視の強化による独立性・中立性の確保を図り、さらに適正な職員の配置や相談体制の充実など、受け入れに係る体制の在り方も指摘されています。他方、優良な監理団体に対しては、手続きの簡素化といった優遇措置を講じるなど、許可要件の厳格化と優遇措置の付与を共に進めていくことが基本的な方向性として示されました。さらに、送出国からの人材の送り出しにあたって、二国間取り決め(MOC)に基づく送出機関の取り締りを強化し、送り出し・受け入れ双方の機関に関する情報の透明性を高めるなど、適正な送り出しの確保を図るべきであること、特に送出機関に支払う手数料等に関連して、送出国で借金を抱えながら来日し、日本で返済できなくなって失踪につながる可能性もありますので、当該手数料等が不当に高額とならないようにするとともに、外国人と受け入れ機関が適切に送り出し費用を分担する仕組みを導入することなどが提言されました。

 最後に、外国人が日本で円滑に生活するため、そして自身の権利を守るためにも日本語能力の向上は大変重要ですが、これを試験合格等によって一律に就労の要件にすると、来日のハードルが高くなり、分野によっては就労先として選択されなくなってしまうとの意見もありました。結果的には、就労開始前からの継続的な学習によって段階的に日本語能力の向上を図るべきとの提言となりました。

 以上、有識者会議の最終報告書で示されたこれらの提言等を踏まえて、政府において制度の見直しを進めているところです。そして新たな制度に向けては、移行期間を十分確保し、丁寧な事前広報を行うべきであることにも留意してまいります。

(資料:出入国在留管理庁)
(資料:出入国在留管理庁)

外国人との共生社会の実現に向けた取り組み

 政府においては、外国人との共生社会の実現を図るべくこれまで各種施策を展開してきましたが、最近では、2023年6月に、中長期的な課題に対応する「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」(令和5年度一部変更)と毎年度の施策として実現を図る「外国人材の受入れ・共生のための総合的対策」(令和5年度改訂)を決定し、関係府省庁が連携して取り組みを進めております。

 「ロードマップ」では、目指すべき外国人との共生社会のビジョンとして「安全・安心な社会」「多様性に富んだ活力ある社会」「個人の尊厳と人権を尊重した社会」の3点をもとに、その上で取り組むべき中長期的な課題として「円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育等の取組」「外国人に対する情報発信・外国人向けの相談体制の強化」「ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援」「共生社会の基盤整備に向けた取組」の、四つの重点事項を掲げており、これらの重点事項に対応する各種の施策について、それぞれの担当府省庁が連携しながら取り組みを推進しているところです。

 出入国在留管理庁では、関係機関とともに、外国人在留支援センター(FRESC)を東京・四谷に設けて各種相談対応や留学生向けの就活セミナー、就労マッチングなどの取り組みを多角的に実施しています。その他、生活・就労に関する情報提供、税や社会保障関係などについて一元的にアクセスできる外国人生活支援ポータルサイトの運営、やさしい日本語の普及促進等々にも取り組んでいます。外国人材受け入れの仕組みづくりは出入国在留管理庁の使命となりますが、受け入れ後の共生社会の実現に向けた環境整備についても、関係省庁や幅広い関係者の皆さまと連携してきめ細かく丁寧に対応していきたいと考えているところです。
                                                 (月刊『時評』2024年3月号掲載)

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