2023/07/13
では、2020年6月に公表した、「スマート税関構想2020」の内容と、現在の進捗について解説したいと思います。これは、AIなどの先端技術を活用し、世界最先端の税関を実現していくための中長期ビジョンです。ソリューション、マルチプルアクセス、レジリエンス、テクノロジー&タレントの四つの観点から、チャットボットやドローンの導入、ビッグデータの活用、などに取り組むことを明らかにしました。
さらに22年11月、その後の新たな環境変化やニーズへ対応するため、新規施策を追加した「アクションプラン2022」を取りまとめました。以下、いくつかポイントとなる点を申し上げます。
まず第1に、e-コマースの拡大に伴う輸入小口急送貨物の急増への対応が挙げられます。日本の航空・海上貨物の輸入許可件数は19年時点で約4000万件だったのが、22年段階で約1億1300万件へと、3年で実に3倍近くにまで急伸しました。今後、距離の近さを生かした東アジアからの海上通販貨物の増加、また事前に日本の倉庫に通販貨物をストックし、ネット注文を受けるとすぐに配送するというフルフィルメントサービス(FS)の広がり等によって輸入申告数はさらに伸長すると見込まれます。増大する輸入申告をどう捌いて有効な検査につなげるかという問題に加え、FSの場合、輸入の時点では売買が成立しておらず取引価格が存在しないため、インボイスに記載した不当に低い価格で輸入申告し関税等を逋脱(ほだつ)する事案への対応も課題です。
これに対処するには、何より通関業者、e-コマースのプラットフォーマー等との連携が不可欠です。令和5年度関税改正において、二つの制度改正を行いました。一つは、輸入申告項目の追加です。通販貨物かどうか、どのプラットフォーマー経由か、国内配送先はどこか等の情報を追加し、これらを多角的に分析してメリハリある審査・検査の実施につなげていくというものです。もう一つは税関事務管理人制度の拡充です。主にFSにおいて、輸入者である国外の非居住者に対し、税関事務管理人の届け出を要請し、期限までに届け出がない場合、税関長が非居住者の国内関連者を税関事務管理人として指定できる等の規定を整備するものです。これにより、輸入者である非居住者に対する通関時の審査や事後調査の実効性を高めることが可能となります。
第2に、出国旅客への対応です。外国人旅行者の利便性向上および免税店の手続き効率化等を図る観点から、21年10月に購入記録票の作成等、免税販売手続きの完全電子化を実現しました。これにより、国税当局を通じてわれわれも購入実績を把握できるようになり、外国人旅行者が免税ショップにおいて購入した物品の日本での転売が疑われる行為など、不正事案の確認・把握が可能となりました。現在は出国時に免税購入品と購入記録情報を突合し、その結果、徴税を行うこともあります。が、結果的に滞納となってしまうケースもあり、チェック機能の効果が乏しい、あるいは諸外国のように出国時にリファンドすべきと報道されることもありました。これについてはまずは厳正な執行に取り組み、その上で、必要な制度改正等を検討したいと考えています。
また先般、フィリピンに本拠を置く特殊詐欺グループが摘発される事件がありました。海外への不正な現金の携帯を阻止するためにも、警察ほか関係機関との連携はもとより、海外で導入されているカレンシードッグ(紙幣のにおいを嗅ぎ取る紙幣探知犬)といった新たな取り締り手法も研究しています。
第3に、知的財産侵害防止の取り組みも多角的に進めています。
知的財産侵害物品については、過去3年連続で年間2・5万件以上の輸入が差し止められるなど高止まりが続いており、権利者から認定手続に係る負担軽減の要望が寄せられてきました。そこで令和5年度関税改正において、商標権等と同様、特許権、実用新案権、意匠権等についても輸入差止申立てがなされている場合には、簡素化手続きの利用を可能としました。
またこれまで、個人使用目的であれば模倣品でも郵送等での国内持ち込みが認められていたところ、22年10月に改正関税法を施行し、海外事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品は、個人使用目的であっても税関での水際取り締りの対象とすることとしました。まだ施行後ほどないのですが、10-12月期の輸入差止件数が前年同期比20%増加する中、逆に争う旨の申し出は60%近く減るなど、相応の手応えを感じています。
こうした知的財産侵害物品の国内持ち込み防止についても官民連携を強化することが重要です。22年6月、アマゾンジャパン合同会社さんと「水際取締りに係る協力に関する覚書」を締結しました。内容は、①税関とアマゾンとの協力関係の強化方法について共同して検討していくこと、②税関およびアマゾンが抱える課題と問題点の相互理解に努め、両者の有意義な情報交換を促進することの2点です。
DXに不可欠な官民連携
最後に税関におけるDX化への対応についてです。第1に貿易情報に関しては、日本では、NACCSという、船舶・航空機および輸出入貨物について、税関その他の行政機関への手続きおよび関連する民間業務をオンラインで一元的に処理するシステムを整備しています。1978年にスタートし、現在2万社を超える企業と税関、入管、検疫、港湾管理者等がいわばワンストップでつながっています。とはいえNACCSに参加している物流各社さんは荷主さんとの間での紙ベースのやり取りがかなり残っているとの課題を抱えており、これら貿易関係書類の電子化、標準化を進められています。さらにはブロックチェーンなどを活用した、貿易連携プラットフォームの構築なども動き始めています。税関としても連携の可能性を探っているところです。
前述のように、税関には人流・物流等の膨大な情報が集まります。セキュリティに十分配慮しながらこれらビッグデータを活用して税関業務の高度化・効率化を図る、さらにはアカデミアとも連携し将来の貿易・関税政策に役立てることなども検討しています。
第2に、審査・検査業務に新たな技術や機器を導入して効率化を図ることも重要な使命です。特に成田空港では、新貨物地区や新ターミナルの整備等により世界最先端の国際ハブ空港を目指す検討が進んでいます。われわれもまた最先端の技術・機器を活用し、関係者と連携しつつ、円滑な通関と厳格な取り締りを両立した世界最高水準の税関を目指す所存です。
このコロナ禍の間、従来の書類申告に加えて電子申告手続きの導入を進めました。申告内容をスマホに入れ、空港到着後にQRコードをかざしていただくことで電子申告を利用できる仕組みです。
また、コロナ禍の期間を通じ、輸入貨物と同様、国際郵便での不正薬物摘発が急増していますが、郵便物に紛れて不正薬物等が輸入されないよう、AI-X線検査装置を導入しました。これまで郵便物をX線検査機器に通すとき、職員が目視でチェックしていましたが、同装置はAIに画像を学習させることにより、異物が封入されている高リスクのものを自動仕分けする機能を実現したもので、職員が逐一確認を要する数が激減しました。次なるターゲットはX線CT装置とAIを融合し貨物の中から不正薬物を検知する機能の開発で、現在、事業者さんとともに開発に取り組んでいます。
このようなシステムは、日本国内だけでなく、世界各国の税関に向けてセールスすることも考えられます。昨年秋、WCO(世界税関機構)が年1回開催するテクノロジーカンファレンスに、税関当局のほか、検査機器メーカー、システムベンダーさんら官民合わせて1000以上の参加登録がありました。
税関のDX化を進め、スマート税関を実現していくためには、われわれの知らない解決策や要素技術をお持ちの民間企業との連携が不可欠です。連携というよりも、実際のところ、先端技術を有する企業の方から教えていただくということだと思っています。具体的な機器の開発だけでなく、業務改善のアイデア、新技術の活用構想など、いつでもご連絡、ご提案等お声掛けをいただければ幸いです。
止まらない税関の進化。官民連携による挑戦が生む未来
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(月刊『時評』2023年6月号掲載)