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財務省関税政策最前線/財務省関税局長 諏訪園 健司氏

不安定化する国際情勢下での関税政策・税関行政
  ―スマート税関の実現に向けたアクションプラン―

すわぞの けんじ/昭和39年7月28日生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。63年大蔵省入省、平成24年財務省主計局主計官(文部科学係)、25年金融庁保険課長、27年内閣官房まち・ひと・しごと創生本部参事官、28年厚生労働省大臣官房審議官(年金)、30年同(老健等)、令和2年財務省大臣官房審議官(理財局)、3年東京税関長等を経て、令和4年6月より現職就任。
すわぞの けんじ/昭和39年7月28日生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。63年大蔵省入省、平成24年財務省主計局主計官(文部科学係)、25年金融庁保険課長、27年内閣官房まち・ひと・しごと創生本部参事官、28年厚生労働省大臣官房審議官(年金)、30年同(老健等)、令和2年財務省大臣官房審議官(理財局)、3年東京税関長等を経て、令和4年6月より現職就任。

 国際情勢の不安定化に伴い、物流・人流の要である関税政策・税関行政の重要性がますます高まりを見せている。とくにデータ、デジタルを活用した「スマート税関構想」の推進は、日本の競争力を高めるためにも喫緊のテーマであり、昨年には新規施策を追加したアクションプラン2022も策定された。その実現に向けては官民の強固な連携が欠かせない。今回、諏訪園局長から、関税・税関に係る最新の動向と進捗の数々を語ってもらった。


 現在、北は函館から南は沖縄まで全国九つの税関が置かれ、約1万人の職員が日々業務にあたっています。さかのぼると幕末の安政6(1859)年、箱館(函館)、横浜、長崎の開港時に、当時は運上所と呼ばれた機関が各港に設置され、明治5(1872)年に税関へと呼称を統一、その後の海港、空港の発展にあわせて、各税関の配置や各管轄区域が変遷し、今に至ります。

 税関では組織のミッションとして三つの使命を掲げています。

 まず、「適正かつ公平な関税等の徴収」。令和3年度の関税・消費税等の収納額は約11兆円と租税および印紙収入の約1%に相当し、税関は重要な徴収機関となっています。

 次いで「安全・安心な社会の実現」。輸出入を最終的にチェックする機関として、銃器・不正薬物・テロ関連物資・模倣品等が持ち込まれないよう水際での取り締まりを行います。不正薬物のうち、覚醒剤については国内押収量全体のうち約97%を税関で押収しています。

 最後が「貿易の円滑化」です。例えば、民間企業との協力やIT化の推進などを通じ、通関手続きの迅速化等を図っています。ちなみに1991年当時、海上貨物の通関に26・1時間を要していたのに対し、2018年時点では2・1時間へと24時間、つまり丸1日分短縮しました。特にコロナ禍の時には輸入されるワクチンをいち早く確保するべく、「予備審査制度」の仕組みを活用することで、迅速通関を実施しました。

EPAの広がりと活用に向けて

 これらの使命に加え、現在は経済安全保障というテーマに取り組むことも税関の新たな役割になりつつあります。しかし、その前にまず貿易の円滑化についてもう少し説明いたします。EPA(経済連携協定)については、現在24の国・地域と21のEPA等が発効・署名され、特に近年は参加国の多いメガEPAを相次いで締結、これによりEPA等相手国との貿易額は日本の貿易総額の約8割を占めるに至っています。また3月、英国のCPTPP(環太平洋パートナーシップ)加入がほぼ固まりました。これらEPA等の利用機会はさらに拡大すると見込まれることから、関税局としてもHPを通じた情報発信や事業者向け説明会の開催、輸出支援としての相談窓口設置、など利用促進に向けた支援を強化しています。

 この他、2022年5月に米国からIPEF(インド太平洋経済枠組み)が新たに提唱されました。9月には①貿易、②サプライチェーン、③クリーンな経済、④公正な経済、の四つの柱に関する閣僚声明が発出され、現在は14カ国が参加しています。このうち関税局は、第1の柱における貿易円滑化を担当し、関係省庁とも連携しながらわが国の国益に資するよう議論を行っています。

 海外取引に関連して産業界から求められている事項の一つに、原産地証明の電子化(データ交換)があります。EPAを利用する際には製品がEPA加盟国で生産されたことを示す証明が必要となるのですが、ASEANを中心にその手続きを書類でやり取りする国があり、同証明のデータ交換を実現してほしいという期待が寄せられていました。21 年からこの件について対ASEAN等との協議を開始し、まさにこの6月、まず日本とインドネシアのEPAに関してはデータ交換の運用が始まる予定です。今後、ASEANとのEPAにおいても電子化を進めたいと考えています。

 さらに、国際物流の一層の円滑化とセキュリティ確保の両立に向け、AEO(AuthorizedEconomic Operator)という制度を設けています。これは貨物のセキュリティと法令遵守(コンプライアンス)が整備された事業者に対し、税関手続き上の迅速化、簡素化措置を提供するという仕組みです。現在、通関においてAEO事業者が関与する申告額の割合は、輸出で約8割程を占めており、貿易の円滑化を進める意味で大変重要な制度として定着しています。加えて、2国間でのAEO相互承認という仕組みがあります。日本、相手国双方において通関時のリードタイムが削減できるなどWin‐Winの関係を構築できるものです。今13の国・地域と相互承認を実施していますが、できるだけ多くの国に拡げていくつもりです。

簡素化と経済安全保障との両立を

 ただ近年、経済安全保障の要請が高まりを見せていることから、こうした輸出入税関手続きの簡素化、迅速化とどう調和させていくのかが重要なテーマになってまいります。税関行政としてはまず情報収集や分析の強化を進めており、本年7月に経済安全保障情報分析センター室を東京税関に新設するとともに、輸出事後調査部門をはじめ関連部門の体制強化を図ります。また軍事転用の恐れのある特定製品を対象に、関係機関と連携して審査・検査を強化します。同時に、前述のAEO取得事業者の法令順守の取り組みに、経済安全保障の観点をしっかりビルトインするよう求めています。

 また大学等の研究成果物を海外の研究機関とやり取りすることも輸出に該当するため、関係省庁から各大学の本部等に輸出管理のマネジメント部門を置くよう求めています。われわれも、この趣旨が各研究室レベルに理解され手続きが遵守されているかどうかなどについて、調査に携わっています。さらに、輸入に比べ輸出の場合、統計品目番号がやや粗めに設定されていることから、規制対象物品を含む輸出品目番号についてはより精緻化し、当該物品の輸出実績の把握と不正輸出防止の強化をしていきます。これら経済安全保障の推進についてもデータが重要です。税関には国境を通るヒト、モノ、カネの情報が蓄積されているため、これまで以上にデータを駆使して、経済安全保障という大きなテーマに取り組んでいきたいと思っています。

 経済安全保障と重なる面もあるのですが、22年2月のウクライナ侵略以後、G7各国を中心にロシア、ベラルーシに対し輸出入禁止措置が実施され、わが国も外国為替及び外国貿易法により各分野・製品の輸出入禁止措置を逐次講じてきました。ロシアに対する関税における最恵国待遇も同年4月に撤回されています。

 なお、日本経済に資する取り組みとしては、知的財産の侵害対策も重要な要素です。直近の事例としては22年11月、成田空港の輸出貨物に対する税関検査で、日本企業の商標権を侵害するエアバッグ12個を発見し、翌1月、東京税関が警視庁および群馬県警と共同して群馬県内の事業者関係先に対する捜索を行い、警察捜査員が商標法違反にて関係者4名を逮捕(2月には関税法違反(商標権侵害物品輸出未遂)にて再逮捕)しました。模倣品の問題はもっぱら輸入が主ですが、これは知的財産侵害物品の輸出事件を告発した初の事例となりました。このような形の水際対策にも努めていく所存です。

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