
2025/02/21
こうした状況に対し、日本はどのような戦略を実行していくべきなのか。2024年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024改訂版」において、循環経済への移行が国家戦略として位置付けられました。その後8月に閣議決定された「第五次循環型社会形成推進基本計画」においても同じ表現が取り入れられ、サブタイトルに掲げています。さらに同年7月には新たに「循環経済に関する関係閣僚会議」が設置・開催され、循環経済への移行に関する政策パッケージの取りまとめなど政府一体となって政策を進めています。
前記、「第五次循環型社会形成推進基本計画」は過去4次に対しフルモデルチェンジを施しました。循環経済の実現による社会課題の解決として、「ネット・ゼロ・ネイチャーポジティブ等」「産業競争力強化・経済安全保障」「地方創生・質の高い暮らし」の3本柱を掲げ、国家戦略としての位置付けを前面に打ち出しています。令和7年度予算案においても、産業競争力強化や経済安全保障に力点を置いた施策を盛り込み、同時に地方創生もクローズアップしています。
資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律
このような流れの中、2024年の第213回通常国会で「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律」という新しい法律が成立しました。要諦としては、適正処理を大前提とした上で、脱炭素化と再生資源の質と量の確保等の資源循環の取り組みを一体的に推進するため、先進的な内容だと認められる再資源化事業等の高度化の取り組みを国が一括して認定するというものです。事業形態としては、①需要に応じた資源循環のために実施する再資源化事業、②廃棄物から高度な技術を用いた有用なものの分離および再生部品又は再生資源の回収を行う再資源化事業、③廃棄物処理施設に再資源化の実施の工程を効率化するための設備その他の当該工程から排出される温室効果ガスの量の削減に資する設備の導入の3類型があげられます。
高度で先進的な取り組みに対しては、適正処理を大前提とした上で、地方公共団体の許可手続きの特例として、国が一括で認定する制度を創設することで機動的なビジネスが可能になると思われます。国においても認定の実績により知見が蓄積され、それが地方公共団体にフィードバックされることで、地方公共団体単位でもスピード感のある許可手続きの実現が期待されます。また、国は必要な財政上の措置などを講ずるよう努めなければならないものとしており、既存の措置による支援に加え、必要な予算の確保等の対応を進めていきます。
自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム
この法律によって、前述したEUのELV規則案にも対応し得る可能性があると考えています。ELV規則案の要件を満たすためには、国内自動車産業において再生プラスチックを量と質、両面で確保する必要がありますが、現実には国内のプラスチックの約7割は焼却処分されています。ELV規則案をベースにした場合、国内で再生プラスチックを約25万トン確保すべきと試算されていますが、自動車における再生プラスチックの利用はほとんど無いのが現状です。また再生プラスチックは品質面でも課題があり、自動車部品に求められる耐久性等の要求をクリアするためには、高度選別装置による異物除去や懸念化学物質を検出する分析装置に多額の投資が必要となるなど、課題が山積しています。
それに対し同法の下では、再生プラスチックが集めやすく、かつリサイクルしやすくなり、早ければ2031年から義務化が始まるELV規則に対し、わが国が戦略的対応を取っていくためのインフラ基盤の構築に資するものと期待されています。しかし商品企画から量産までおおむね5年かかることを考慮すると、残されたリードタイムは決して長いとはいえないため現時点からの対応が必要となります。
そこで環境省では経済産業省と連携し、自動車向けプラスチックの再生プラスチックの市場構築のための産官学コンソーシアムを11月に設立しました。さらに、今後、製造業とリサイクル業の連携に基づくアクションプランを取りまとめる予定です。具体的には自動車解体時における樹脂部品等の回収により自動車の水平リサイクルを促進する資源回収インセンティブ制度(令和8年4月開始)の推進や精緻解体等の技術実証、廃プラスチックの発生源・量・流通を把握するための使用済みプラスチックのマテリアルフロー分析などが検討されています。そしてこのコンソーシアムをモデルとし、他の産業にも横展開し、動脈・静脈双方をつなげて日本のモノづくり産業の循環経済化を進めていきたいと考えています。
さらに内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期の課題として「サーキュラーエコノミーシステムの構築」が採択されたことから、独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)が事務を担い、循環市場における情報を可視化するプラスチック情報流通プラットフォーム構築や再生材データバンクの構築を進めているところです。
また、資源循環ネットワーク形成およびリサイクル拠点の戦略的構築も構想しています。現状として日本のリサイクル事業者のネットワークは、物流も含め地域々々で限定されており、広域的なネットワーク形成は限定的です。従ってメーカーサイドとしては求める再生材を安定的に供給できるリサイクル事業者を探すのに労力がかかり、リサイクル事業者も自身が製造できる再生材の供給先の見通しが立たないという状況が起きています。そこで需給双方の主体をネットワークでつなぎ、再生材の効率的な供給体制整備を図るべく、令和6年度補正予算案にそのための調査検討費を盛り込みました。
循環経済への移行は日本の勝ち筋
その他、われわれがいま注力している施策の一つが、太陽光パネルのリサイクルです。各地で大量に設置されている太陽光パネルは、2030年代半ばから排出量が顕著に増加し、自動車の年間シュレッダーダスト量とほぼ同じ年間最大50万トンに達する見込みです。これを埋め立て処分するのは大変なことですから、これを何とかリサイクルすべく、本年9月から経済産業省と合同の審議会で議論を行っており、今冬を目途に結論を得る予定です。また最近では、金属スクラップ等の不適正な保管や処理により騒音や悪臭、土壌汚染などを引き起こす不適正ヤードの問題が顕在化しており、生活環境保全上の支障が生じるだけでなく、不適正業者を通じて廃鉛バッテリーなどの金属資源等が海外に流出しているとの指摘があります。従って実態調査と併せ、廃棄物処理法に基づく有害使用済機器保管等届出制度等の見直しなど、必要に応じた制度的措置を検討しているところです。
付言すると、不適正事例でなくてもアルミニウムなど他の金属資源、さらにはSAF(持続性航空燃料)の原料となる廃食用油も収集分の約3割が海外に流出しているとも言われています。すなわち、日本国内で資源循環の環が明確に構築されていないがために中途での流出を招いていると言えるでしょう。繰り返しになりますが、こうした点が、国内資源循環の構築が急がれる所以です。
他方で日本は、OECD内でe-scrap(廃電子基板や端材等)のリサイクル量がトップクラスです。リサイクル量に占める輸入量が年々増加傾向にあり、そのうち約半分をEU各国からの輸入が占めています。すでに申した通り近年ではEUのe-scrap輸出規制が強化されつつあるので、日本としてはリサイクル体制の充実、迅速な輸入手続きの確保等をもとにe-scrapの輸入・調達を進めていきたいと考えています。
もう一つ、日本が弱いとされてきたのが国際社会におけるルール形成の部分です。気候変動分野ではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のグローバルスタンダ―ドが概成されていますが、資源循環に関する情報開示はまだ国際標準が形成されるまでに至っていません。それ故、日本として積極的に関与し、日本の取り組みが反映されるよう国際ルール形成を主導したいと思います。
最後に、循環経済への移行は、まさに日本の勝ち筋だとわれわれは捉えております。日本には動脈、つまりモノづくりの全工程が残るとともに、各地域には先進的な取り組みを行う静脈企業が存在します。地域に密着した資源循環はわが国の強みであると同時に、地域活性化・地方創生の観点からも推進すべき重要な政策課題です。従って、動静脈が一体となったすり合わせこそが、世界の追随を許さない日本の勝ち筋を確立する手立てになると確信しています。
(月刊『時評』2025年1月号掲載)