2024/09/11
分野横断的な取り組みでは「脱炭素先行地域」に注力しています。一定程度の面積を区切って地域を設定し、今ある技術で脱炭素化を実証し、他の地域でも展開していこうという構想です。
先述した「脱炭素先行地域」の実現に向け、2020年冬から21年6月末まで議論を進め、「地域脱炭素ロードマップ」をまとめました。キーメッセージは「今ある技術で、地域資源を最大限に活用し、地域課題の解決に貢献する」です。2030年に家庭部門で排出量を5割以上削減するため、イノベーションと並行し、今ある技術で採算が取れる形での実装化に取り組みます。
新たな遊休地が無い、森が多い、雪が多い、空き地はあるが人が少ない――地方・地域にはさまざまな課題がありますが、見方を変えれば資源でもあります。各地域の特色を踏まえて資源を活用し、脱炭素に取り組みつつ地域が抱える社会・経済的課題の解決にも貢献する。これが、これまでとは異なる取り組みとして強調しているところです。CO2削減のためにまちづくりや生活を大きく変えた場合に、住民にとってメリットがないことにならないよう、再エネ導入に対する国の支援を元に再エネ・省エネ設備を導入し、経済・雇用問題や公共交通機関の維持、防災・減災など地域の課題解決に活用するよう提案するなど、CO2削減と課題解決をセットで地方に働きかけています。各市町村内で自らエネルギーを作って使う、地産地消を行うことにより、事業者が市町村内にあればエネルギーの代金は地域経済に回りますし、行政自らが取り組めばエネルギー代金が収入となって課題解決に活用できます。また市町村別のエネルギー収支を見ると、大規模な発電所がある地域以外は大多数が赤字です。地方で再エネを導入し都市に流すなど、地方と都市の連携もしくは自ら使うことで官民どちらかに財政的な余裕が生まれ、課題解決に結び付きます。
各市町村内で設置される先行地域は、民生部門の電力需要に対して、再エネ等の供給量と省エネによる削減量が上回る地域となります。その際、その地域のすべての関係者に再エネへの変更を強制することはできないため、市町村で工夫して、さまざまなアイデアを採用して実現可能なエリアを選んでもらっています。さらに地域住民や事業者が脱炭素に賛成するような地域課題の解決を提案し、現実的な道筋をつけていきます。
30年までに100カ所の脱炭素先行地域を
環境省では2030年度までに少なくとも100カ所、脱炭素の先行地域を作ります。モデル地域が各地に波及し脱炭素ドミノが起き、2050年のカーボンニュートラル実現を目指します。今年1月に公募を開始したところ、5月下旬段階で共同提案を含めて102の市町村から79件の応募が寄せられました。複数の専門家からなる評価委員会で、先進性や地域の課題解決というストーリー性の有無などの面から評価し、実現可能性とともに北海道から鹿児島まで26件を選定しています。
その中で唯一、北海道上士幌町は町全域で取り組みを進めています。もともと酪農地域で、産業廃棄物として費用をかけて処理していた糞尿を燃料にしてバイオガス発電を行い、町内に電力を供給する形で進められます。酪農家が困っていた問題を逆手に取り、燃料代金が払われることで酪農家の活性化にも繋がり、かつ再エネを進める提案です。
また横浜市のみなとみらい地区は太陽光パネルを設置してもエリア内のエネルギーとしては量が全然足りないので、エリア外に太陽光パネル等の発電設備を設置し、事業者を通して企業に供給するオフサイトPPA(Power Purchase Agreement)という仕組みで再エネを導入し、それでも足りない場合は東北の市町村から電力を調達する仕組みで取り組みます。
そのほか、松本市の乗鞍高原は小水力発電所を作り、地域の観光事業者、また観光に使う乗り物や個別住宅も含めてエリア全体をカーボンゼロにしていく構想です。米原市は企業と共同で駅前の再開発と再エネ化を図ります。周辺の耕作放棄地に、営農しながら太陽光発電を行うソーラーシェアリングを設置し、地域の活性化と再エネをセットで進めます。姫路市は国宝・姫路城を中心とするエリアにオフサイトPPAで再エネを導入する「ゼロカーボンキャッスル」に取り組みます。沖永良部島が取り組むマイクログリッド等の導入は非常時の電源確保として有効であり、台風による停電などのリスクが高い離島ならではの構想です。東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県東松島市は、住民が集団移転した跡地に太陽光パネルを設置し、脱炭素×復興というセットで取り組む構想です。秋田県大潟村は米どころという特性を生かし、未利用もみ殻を活用したバイオマス熱供給事業にも取り組んでいます。秋田県と秋田市は共同で、再エネで経費削減し、下水のコスト、住民負担を軽減する取り組みです。岡山県真庭市は、山の林地残材をバイオマス発電の材料として売れば、洪水など災害時の危険要因が減り、さらに代金が森林組合や山の持ち主に入って山の育成につながるという構想で脱炭素×林業の活性化に取り組みます。
環境省のホームページに選定結果と資料等を掲載しており、すでに周辺市町村が視察に訪れ、相談が寄せられているそうです。また共同提案者には民間企業が多く参加していますが、事業にはもっと多くの企業が関与しています。脱炭素をビジネスとして捉える視点が浸透していることの表れでしょう。
脱炭素先行地域は今秋の第2回目採択に向けて7月26日から公募を開始する予定です。また、脱炭素先行地域の創設までは届かなくても、再エネ導入等に積極的に取り組む自治体には重点対策加速化事業で支援します。現在13地方公共団体を採択しており、今後も追加する予定です。
予算としては、脱炭素先行地域と重点対策加速化事業あわせて令和4年度で200億円を用意し、再エネ・省エネ設備や基盤インフラ設備すべてに使える総合的な交付金として、最大で5年支援します。こうした取り組みは1年ですべて出来るわけではないため、計画の進捗に合わせて柔軟に対応します。ただし2030年には排出ゼロを達成できる確実な実施計画であることを審査しました。
こうした交付金による支援以外にも、災害時に住民の避難所となる公共施設に蓄電池等の再エネを導入する等のレジリエンス強化にも支援を行います。また計画策定支援事業として、専門家や事業者と話して勉強したい、住民と対話したいといったソフト面の支援も行います。ステップを踏んで徐々に取り組めるよう予算を組んでいます。
民間企業の取り組みも支援していく必要があります。環境面でのリスク評価の難しさから資金を集めにくい、民間の脱炭素事業へ資金供給を行う支援の仕組みとして、株式会社脱炭素化支援機構を今年の秋に設立する予定です。新会社がリスクマネーを供給することで、他の金融機関が協調融資をしやすくなり、その過程で、環境プロジェクトに対する民間金融機関のノウハウも蓄積されていくことを期待しています。
地域で脱炭素に取り組む際にはさまざまな行政機関の補助金の活用が重要です。例えば環境省の支援でバイオマス発電所を作るとしても、伐採した木材の木質チップ化には農林水産省の支援が大きな役割を担っています。こうした連携を、地域ブロック毎に横断的な相談窓口体制を整備して、オール霞が関で支援できる体制作りも進めています。
脱炭素化を進めるにはイノベーションと社会の転換が必要であり、官民一体となって進めていかなければなりません。環境省もその一端を担う立場として取り組みを進める考えです。
環境省では、カーボンニュートラルで地域の活性化を、ではなく地域の活性化をカーボンニュートラルで、と呼び掛けています。地域の課題をカーボンニュートラルと結び付け、国の枠組みを使って解決し、住民や事業者の方に喜んでもらおうという姿勢で地方の環境事務所が皆さまを支援します。ぜひご相談に来てください。
企業の方々はCSRの面だけでなくビジネスとして、どんどん地方に営業をかけていただいて、経済×脱炭素、社会×脱炭素という形で理解と地方活性化が進むことを期待しています。
(月刊『時評』2022年7月号掲載)