2023/07/07
――わが国の総力を結集・統合し、防衛力の抜本的強化を図る以上は防衛技術を開発する産業界の存在も欠かせません。防衛産業の現状と、今後に向けた協力体制のありようについてはいかがでしょうか。
鈴木 今回の三文書において、防衛生産・技術基盤は、いわば防衛力そのものであると位置付けました。しかし、それほど重要でありながら、現状では課題があるのも事実です。
実際のところ防衛事業はなかなか利益が出ないという声も寄せられています。この分野における企業の撤退が進み、新規投資や参入が望めないままではわが国の防衛生産基盤はやがて失われてしまうでしょう。
一方で、サイバー攻撃などさまざまなリスクに防衛産業は日々晒されています。これらの課題に対応していくため、力強く持続可能な防衛産業の構築、さまざまなリスクへの対処、そして防衛装備移転の推進、早期の防衛力抜本的強化につながる研究開発、民生の先端技術の積極的な活用、等々を講じることで防衛生産・
技術基盤の強化を図っていきたいと考えています。
民生の先端技術の積極的活用に関しては、内閣府で行った自衛隊・防衛問題に関する世論調査結果が今年3月に公表されました。同調査において、大学などの研究機関や民間企業などにおける先進的な科学技術を防衛用途に転用することへの賛否を問うたところ、「賛成」が41・7%、「どちらかと言えば賛成」がほぼ同じく41・9%、合計すると83・6%の回答者から賛意が寄せられました。
――事実上、先端技術の防衛用途転用にほぼ賛成、と捉えてよい割合だと思います。
鈴木 これも、わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している、防衛力強化のために民間技術の転用が必要である、という認識の表れだと思います。こうした調査結果が出た以上、われわれとしても民生の先端技術の積極的な活用に力を入れていかねばなりません。
――このうち、防衛装備移転に関しては5月中旬段階で、法律案を国会で審議しています。
鈴木 はい、正式には「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」です。防衛産業の位置付け明確化、サプライチェーン調査、基盤強化の措置、装備移転円滑化措置、資金の貸付け、製造施設等の国による保有、装備品等契約の秘密保全、等の項目から構成されています。
法案では、防衛生産基盤についてその重要性が一層増していることを明確化した上で、その強化に関する基本方針を防衛大臣が定めて公表していくことを明記した内容になっています。従って成立の暁には、わが国の防衛生産・技術基盤の強化に十分資する内容であると捉えています。
人的基盤の強化に関する検討会を設置
――ここまで主に装備品についてご解説いただきましたが、人についてはいかがでしょう。実際に防衛任務にあたる自衛隊の人員確保、あるいは防衛技術に携わる研究者の育成などは。
鈴木 ご指摘の通り、どれだけ高度な装備品を揃えようとも、それを取り扱う人が居なければ本来の防衛能力は発揮できません。防衛力を人の面から強化することも重要なファクターです。ことに少子化人口減が進む現在、自衛隊にとっては若い世代が一番のリクルート先となりますので、募集源が減少していく中で優秀な人材を継続的に確保していくのは確かに難しい、しかも今後より困難さを増していくと予想されています。
そのため、自衛隊の隊員募集を強化するのはもちろん、サイバー攻撃など安全保障に対する脅威が多様化する中で、その分野の専門的知見を有する人材、それは最初から防衛関係を指向しなくてもいい、別の分野から防衛関係に協力を得られるような人材を確保したり、あるいは育成する努力が求められます。
こうした問題意識に基づき、本年2月に防衛大臣の下に「防衛省・自衛隊の人的基盤の強化に関する有識者検討会」を立ち上げました。ここで多様なご議論をいただきながら、人の面からの防衛力強化に向けて取り組みを進めているところです。
――人材の確保、育成には時間も要するので、長期的視点に立った対応が必要となりそうですね。
鈴木 確かに自衛隊隊員には年齢上の制約もありますが、一方で体力だけが求められる時代でもなく、サイバー関連など多様な知見や専門性が防衛に役立つ面も多々ありますので、そうしたスキルを有した人材をどう維持していくか、ということも重要なポイントです。率直に申せば、人の問題こそ最もチャレンジングな課題だと思っています。とはいえヒトとモノ、両面揃って確固たる防衛が成り立ちますので、しっかり注力していかねばなりません。
――そのためにも、防衛力強化の必要性や自衛隊の活動について、国民に広く啓発していく必要がありますね。
鈴木 防衛省では毎年『防衛白書』を作成し、防衛省の取り組みについて広報していますが、それとは別に、年末の三文書策定を機に、その内容をご紹介する『なぜ、いま防衛力の抜本的強化が必要なのか』というパンフレットも作成いたしました。できるだけいろいろな年代の方、そして防衛分野の専門家ではない一般の方々に読んでいただきたいと思います。また、安全保障上のさまざまな問題について、防衛省の組織である防衛研究所の研究員が個々の研究成果を積極的に発信していますので、以前に比べ国民の皆さまに防衛問題の最新研究に触れていただく機会が増えています。
さらに『防衛白書』刊行に加え、小学校高学年以上を主たる対象に、より平易な表現で記した『はじめての防衛白書』を作成しています。また、当省のホームページやSNSを通じた情報発信に加え、全国の各自衛隊施設では各種装備品等の資料を展示した広報施設を運営しています。自衛隊音楽まつりやブルーインパルスの展示飛行などさまざまなイベントを通じ、幅広い広報活動も実施しています。これら広報を通じ、国民の皆さまの安全保障に関する関心を高め、防衛省・自衛隊の活動に対する理解を深めていただくきっかけとなれば何よりです。
――イベント等に関しては、長らくコロナ禍により制約を余儀なくされていましたので、安全保障環境が厳しさを増す現在、今こそさまざまな展開を打ち出すべき時機ですね。
鈴木 はい、制約が多い期間ではありましたが、そういう中であっても訓練や演習の光景をネット配信するなど、さまざまなツールを駆使して情報発信に努めてきました。現場で見てもらうことも重要ですが、オンラインによって解説付きの紹介をすることも一定の効果があったと手応えを得ています。現場の見学とオンライン解説のハイブリッド方式で、新たな時代にふさわしい情報発信を進めていきたいと思います。それによって国民の皆さま、特に次世代の若い方々に、自衛隊への関心が高まることを期待しています。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2023年6月号掲載)