お問い合わせはこちら

激甚化・頻発化する自然災害への備えとしての港湾政策/国土交通省 上原修二氏

能登半島地震の港湾への影響

――そうした港湾・臨海部における防災・減災対策を進める中、本年1月に「令和6年能登半島地震」が発生しました。被災による港湾への影響についてお聞かせください。

上原 港湾における被害状況ですが、新潟、富山、石川、福井の22港で被災が確認されました。多くは地盤液状化に伴う陸上部の陥没、段差といった被害であり、石川県以外では船舶の着岸ができなくなるといった施設被害はありませんでした。他方、石川県能登地域では、岸壁そのものの崩壊に加え、岸壁背後用地が沈下したり、液状化したりといった被害があった点が特徴です。

 また、津波による被害のあった飯田港では、防波堤の倒壊や陸上に打ち上げられた船舶の散乱、沈没した船舶や漁具などによる航路閉塞が見られたとともに、地盤変動により海底地盤が隆起した輪島港では、港内の水深が浅くなり、停泊していた漁船が座礁し、操船不能になるといった被害もありました。

――被災した港湾の復旧・復興、また港湾を活用した支援活動についてお聞かせください。

上原 地震発生直後、まずはTEC-FORCEが現地に入り、詳細な点検や被害状況の確認を行っています。ほぼ同時に、被災した港湾のうち即座に、あるいは多少の修復により使用できる岸壁がどこかを判断する「利用可否判断」を行いましたが、緊急物資の海上輸送のため、この利用可否判断の重要性が再認識されました。こういった災害時の港湾の利用・活用という点に関しては、先述した通り、港湾の一部を国が管理することで、効率的な応急復旧や緊急物資輸送を実現しました。この制度は、非常災害時などに港湾管理者からの要請に基づき、国が港湾の一部を管理できるよう、2016年の熊本地震を契機に港湾法に規定が追加されたものです。今回も石川県からの要請に応じて、七尾港、輪島港をはじめとする六つの港で国土交通省が港の管理を実施し、利用可否判断で使えるとされた施設を通じて被災地への緊急物資輸送を支援しました。

 具体的な緊急物資輸送としては、国土交通省地方整備局の所有する船での飲料水の支援や海上保安庁の船による住民への給水支援、また一部民間船による緊急物資の輸送などもありました。また、自衛隊がチャーターした民間フェリー「はくおう」「ナッチャンWorld」は、七尾港に停泊し、避難者などの休息に活用されたりもしました。

能登半島地震を踏まえた港湾の防災・減災対策

――では「令和6年能登半島地震」を踏まえた今後の港湾の防災・減災対策についてはどういった議論が進んだのでしょうか。

上原 今回の能登半島地震を踏まえ、港湾の防災・減災対策を改めて検討するため、本年3月より交通政策審議会港湾分科会防災部会で議論を行い、7月には答申が取りまとめられました。

 本答申では、被災地支援のための人員・支援物資を輸送する船舶や、ホテルシップなどの支援船が利用できるよう、港湾における地域防災拠点の確保が提言されています。今回の地震では、岸壁そのものの被害に加え、岸壁背後の沈下や液状化により支援物資の輸送に支障が生じたといった例がありましたが、地域防災拠点では、こういった教訓を踏まえ、岸壁に加えて、その背後の液状化対策や、航路・泊地や接続道路も含めた一気通貫の海上支援ネットワークを構築することが重要です。また、緊急物資を、被災地から遠く離れた場所から被災地の港に直接輸送するより、被災地近隣の港に一度物資を集約し、そこからピストン輸送するほうが効率的であるとの教訓も得たので、こういった一次集約拠点として、広域防災拠点を位置付け、そこから地域防災拠点に向けて「熊手の爪」のように放射状に広がる海上輸送を実施することも提言されています。

 また、こういった防災拠点では、迅速な応急復旧のため、砕石や敷鉄板といった資材やバックホウなどの機材などを平時から準備、備蓄しておくことも必要です。

 さらに、先ほど災害時の港湾の一部管理に触れましたが、緊急物資輸送の際には、被災側だけではなく支援側、今回でいえば富山県などでも国が利用調整をしたほうが効率的といえる場合もありましたので、そうした広範囲における管理の必要性についても盛り込まれています。

 それ以外にも、民間リソースの活用として、港湾内に立地する備蓄倉庫などの支援物資仮置き場としての活用や、災害当初において岸壁や施設の迅速な点検、利用可否判断が求められることを踏まえ、夜間や悪天候、津波警報などが発令された状況でも点検が可能な遠隔監視カメラやドローン・人工衛星などのリモートセンシング技術の活用とそれによって得られた情報の共有化など、関係者が迅速に状況を確認・把握し、また活用できるようなプラットフォームの構築なども示されています。

    海上支援ネットワーク・防災拠点のイメージ(資料:国土交通省)
   海上支援ネットワーク・防災拠点のイメージ(資料:国土交通省)

――自然災害が激甚化・頻発化し、また首都直下地震や南海トラフ地震などの発生リスクも高まる中、港湾・臨海部の防災に向けた取り組みの重要性はますます高まっています。最後に施策・取り組みの実現に向けた意気込み、また今後の展望についてお聞かせください。

上原 まず気候変動適応については、多くの方が「必要性・重要性は理解するが、今すぐやらないといけないのか」と感じています。しかし、問題を放置すれば「茹でガエル」になってしまいます。インフラ整備は時間のかかる取り組みですので、自然災害が続けて起こってから始めたのでは間に合いません。いかにヤル気になってもらうか、関係者が自分ごととして捉え、連携して進めていけるよう、啓発活動を含めて取り組みを推進していきたいと考えています。

 一方、能登半島地震に関しては、港湾局のみならず各局が、今まさに防災・減災対策を進めていますが、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ということのないように、今回の教訓を無駄にしないよう、答申で示された政策を、予算や各種制度などの政策ツールとして着実に具体化していく必要があります。

 よく災害は「忘れた頃にやってくる」と言われますが、最近では「忘れる前にやってくる」ほど災害が頻発しています。また、災害は「忘れずにやってくる」ものでもありますので、いつか必ず来る災害に対し、常日頃から危機意識を持ち、手を緩めることなく対策を講じていきたいと思っています。

――本日はありがとうございました。
                                              (月刊『時評』2024年8月号掲載)