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海事・海運分野におけるカーボンニュートラル実現に向けた取り組み/国土交通省 河合 崇氏

◆国土交通省海事政策最前線

かわい たかし/昭和46年12月生まれ、大阪府出身。神戸大学工学部、神戸大学大学院博士前期課程修了。平成10年運輸省入省。26年国土交通省海事局海洋・環境政策課技術企画室課長補佐、28年海事局海洋・環境政策課長補佐、30年独立行政法人日本貿易振興機構ジェトロ・香港事務所員、令和3年4月国土交通省海事局船舶産業課舟艇室長、同年7月海事局海洋・環境政策課技術企画室長、5年国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所企画部長を経て、6年4月より現職。
かわい たかし/昭和46年12月生まれ、大阪府出身。神戸大学工学部、神戸大学大学院博士前期課程修了。平成10年運輸省入省。26年国土交通省海事局海洋・環境政策課技術企画室課長補佐、28年海事局海洋・環境政策課長補佐、30年独立行政法人日本貿易振興機構ジェトロ・香港事務所員、令和3年4月国土交通省海事局船舶産業課舟艇室長、同年7月海事局海洋・環境政策課技術企画室長、5年国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所企画部長を経て、6年4月より現職。

 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、さまざまな産業分野が取り組みを進めている。当然、海事・海運分野も同様で国際海事機関(IMO)で合意した「2050年頃までにGHG排出ゼロ」の実現に向けては、「国際海運GHGゼロエミッション」プロジェクトや国産エンジンによるゼロエミッション船の開発・実証として「次世代船舶の開発」プロジェクトが進んでいる。今回、国土交通省海事局海洋・環境政策課の河合課長に海事・海運分野を取り巻く現状から、カーボンニュートラル実現に向けた二つのプロジェクトの概要と進捗、そしてアンモニア・水素燃料船の市場導入に向けた取り組みなど今後の展望について話を聞いた。

国土交通省海事局海洋・環境政策課長
河合 崇氏

海事・海運分野を取り巻く現状

――2050年カーボンニュートラル実現に向けて、現在、さまざまな産業分野が取り組みを進めています。もちろん海事・海運分野も同様で、国際海事機関は国際海運からのGHG排出削減目標である「2050年までにGHG総排出量を50%以上削減、今世紀中なるべく早期の排出ゼロを目指す」(18年採択)を、23年7月に「2050年頃までにGHG排出ゼロを目指す」と目標の前倒しに合意しています。改めて、近年のわが国の海事・海運を取り巻く状況、そして国際的な情勢についてお聞かせください。

河合 国際海運からのGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出削減においては、関係国が多岐にわたるなどの理由で、GHG削減対策が気候変動に関する国際連合枠組条約(United Nations Framework Conventionon Climate Change:UNFCCC)の国別削減対策の枠組みに馴染まないことから、本議論については国際海事機関(International Maritime Organization:IMO)での統一的な検討に委ねられています。

 そのIMOが2018年に採択した「2050年までにGHG総排出量を50%以上削減」は、一つの分野で世界各国が合意した削減目標としては非常に画期的な目標でしたが、その後、わが国も含めて2050年カーボンニュートラル目標を掲げる国が増加し、UNFCCCでも同様の議論の高まりもあって、国際海運の分野においても設定目標をもう一歩進める必要があるとの各国の認識のもと、23年7月に「2050年頃までにGHG排出ゼロ」という改訂に合意した経緯があります。

 23年の改訂によって目標の大枠が決まりましたので、現在は目標達成に向けた取り組みの中身、対策についてIMOで中期対策として議論を進めており、具体的には燃料GHG強度規制のような技術的手法とGHG排出量に応じて課金するなどの経済的手法の両面から検討しているところです。わが国は経済的手法において、課金収入をゼロエミッション船を建造する海運会社に還付する形で新造船の導入を促進するような制度を提案していますが、課金に対して反発の強い国もありますので、各国と協調して進めていく必要があると考えています。

 わが国自体もIMOの「2050年頃までにGHG排出ゼロ」という目標に向けて、これまで2050年カーボンニュートラル(GHG排出ネットゼロ)達成に向けた方針を議論する場として産学官公の連携による「国際海運GHGゼロエミッション」プロジェクトを立ち上げるとともに、船舶燃料を重油からLNG、アンモニア・水素などへ転換させるゼロエミッション船の導入に向け「次世代船舶の開発」プロジェクトを進めています。

「国際海運GHGゼロエミッション」・「次世代船舶の開発」プロジェクトとは

――では、GHGゼロエミッション達成に向けた具体的な取り組みについて伺います。まずは「国際海運GHGゼロエミッション」プロジェクトですが、プロジェクトの概要、そして現在の取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか。

河合 近年は、IMOでも燃料の転換に関する議論がなされていますが、国際海運で将来使用される燃料を予測するのは非常に困難です。「国際海運GHGゼロエミッション」プロジェクトでは、産学官公が連携して、例えば船舶燃料としてのゼロエミッション燃料の需給の方向性などを調査・検討することにより少しでも予見性を高めていくなど、GHGゼロエミッション実現に向けた取り組みを進めています。

 現在、欧州を中心に関心がありIMOでも議題となっている船舶燃料のGHG排出量に係る定義、つまりは船舶からのGHG排出量としてカウントする範囲について新しい議論が始まっています。これまで船舶からのGHG排出量は、船舶の燃料タンクから供給されエンジンで燃焼された時に排出されたGHG量をカウントしています。しかし本議論では、燃料を製造する過程を含めて、GHG排出量を計算するべきではないかといった主張がなされています。

 ライフサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれる考え方であり、燃料では燃料採掘から燃料精製・生産、燃料輸送など最終消費に至るまでの環境負荷(GHG排出量)を定量的に評価する手法になりますが、これを船舶燃料にも当てはめ、LCAで見たときにそれぞれの燃料のGHG排出量がどのくらいになるかといった議論がされているわけです。

――LCAを前提にするのであれば、これまでの計算・計画も根底から変わってくるのではないでしょうか。

河合 そうですね。LCAを前提とするのであれば、現行のLNGなどは液化・冷却のために大きなエネルギーが必要になりますので、その際のGHG排出量をどう判断するのか。これは今後実用化が進むアンモニアや水素も同様で、結局は重油の方がトータル的にはGHG強度が低いのではないか、環境負荷がかからないのではないかといった結論になりかねません。また、陸上側のGHG排出量まで船舶側の排出量とするのかなど、エネルギー企業や燃料共有事業者など幅広いステークホルダーを巻き込んで議論していくことが必要となります。GHG排出量を真に削減するというのが大前提なので、あまり複雑な議論にならないよう丁寧に続けていく必要があります。

 そういった意味で、まさに「(船舶)燃料の大転換」を迎えているわけですが、かつて石炭だった船舶燃料が重油に変わり、今、その燃料が新しいものに変わろうとしています。燃料が変わるということはエンジンなどの内燃機関、燃料供給システムが根本から変わるとともにタンクの配置など船舶構造も変更されますので、わが国造船業、舶用工業にとっては大きなチャンスともいえます。世界有数の海事産業国家(海運2位、造船3位)であるわが国としては、持てる技術力を十分に発揮し、さらなる産業発展に寄与できればと考えています。