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持続可能な発展に向けて新たな周遊、新たな物流を/九州運輸局長 吉永隆博氏

「九州MaaS」に寄せる大きな期待

――人手不足への対応としてDXの必要性が指摘されています。これは観光面においても、また運輸、物流においても同様の社会課題解決に資すると思われます。

吉永 本年夏から、いよいよ、「九州MaaS(Mobility asa Service)」がスタートします。観光における意義として、移動の円滑化、広域化、活性化を促進し、地域の活力創出の機会を提供するものとして大いに期待しています。九州内には、現在、10種類を超える多種多様なMaaS が地域別にありますが、九州MaaS で一本化されます。九州MaaSアプリ一つさえダウンロードすれば、九州全域のどこでも、交通手段の検索、予約、決済の負担が軽減され、デジタルチケットで移動、周遊できることを目標としています。観光施設、飲食店などの情報についても、提案や案内をタイムリーに受けたり、検索も手軽にできます。

 今夏の立ち上げ以降も機能を発展させ、例えば、混雑情報やお天気情報、トイレやバリアフリー設備に関する情報の提供なども、リアルタイムで受けられるようにすることも計画されています。

――これは移動の広域化、円滑化の面で非常に利便性が高い、画期的なサービスですね。

吉永 昨年5月に、九州地方知事会と九経連などの経済団体から成る九州地域戦略会議で、その導入が決定されました。デジタル化を核に官民一体で観光を推進するという構想に基づいたプロジェクトでして、特に、九経連が主導しています。九州運輸局としても積極的にサポートしてきました。地域ブロック全域で利用できるという試みは全国初で注目されます。事業者としてのメリットも大きいと思います。デジタルチケットですので、キャッシュレス決済の普及が促進され、割引商品の造成、改廃も容易になります。販売の広域化、営業広報の高度化にも資すると考えられます。移動データに基づいて、ダイヤの見直しなどの利便性の向上に向けた検討も容易になると思います。自治体にとっての意義も大きいと思います。地域の魅力を発信する機会を創り出し、交流人口の増大や、経済効果を創出するチャンスになり、自治体間で連携を促進する契機にもなるものと思われます。

 コロナ禍を経て、人のリアルな流れこそ経済を動かす原動力であると実感されている方々も多いのではないでしょうか。この九州MaaSを契機に、九州域内における人流が、より便利で快適に、そして、活性化して欲しいと期待しています。

長距離フェリー、RORO船の活躍が改めて注目される

――〝2024物流問題〟についてはどのように捉えておられるでしょうか。

吉永 九州は日本の食料庫です。毎日、九州の農水産物は、三大消費地をはじめ国内各地に届けられます。一方で、九州から消費地までは概して距離があり、足の長い輸送となります。食料庫としての役割を担い続けるために物流はどうあるべきか、分野、業種の枠を超え、消費者の皆さまにご理解頂くことも含めて、皆で考えて行くべきテーマです。期待されますのが、長距離フェリーなどの海運の活躍です。

――農水産物を旅客混載のフェリーで運ぶ、ということですね。

吉永 実は九州は長距離フェリーのメッカです。日本における長距離フェリー全12航路のうち、9航路が九州を起点とする航路でして、6社で計20隻を擁しています。ちょうど船体の大型化も進み、より多くの車両を海上輸送できる状況ともなっています。高速化も進み、新門司港と横須賀港を21時間で結ぶフェリーもあります。さらに、RORO船も5社7航路12隻あります。

――なるほど、陸路の場合、その間をトラックドライバーが走破したり、途中で引き継ぐにしても人員がより必要になるなど、いずれにしても負担が大きいですね。

吉永 フェリーに、トラックの車両とともにドライバーが乗船する場合は、乗船中の時間はドライバーにとって休息時間になります。また、トラックよりも海運の方が単位輸送量当たりのCO2排出量も少なく、地球にも優しいですね。トラックから海運へのモーダルシフトは、これまで幾度もテーマとなってきた訳ですが、今回こそは、まさに大きな転換のチャンスを迎えていると思います。同様に、海運だけでなく貨物鉄道へのシフトも大いに推進したいと思っています。

 政府としても、内航海運と貨物鉄道による輸送分担を10年間で2倍に増やすという大きな目標を立てたところです。モーダルシフトにあたっては、海運や鉄道を活用する際の運賃、ダイヤ、リードタイムなどの条件を、どのように乗り越えていけるか、荷主や消費者の理解も進んでこそ成し遂げられることだと思います。運輸局としましても、荷主、トラック事業者と、海運事業者、貨物鉄道事業者とのマッチングの機会を積極的に提供することなども通じて、関係者による協力や連携が促進されるよう、引き続き、旗を振り支援もしていきたいと思います。

 また、この2024年問題は、ドライバーの皆さまをはじめ運輸業に携わる方々がエッセンシャルワーカーとして、くらしや経済を支える役割を担っていることに、改めて注目が集まる機会ともなっています。2024年問題を乗り越えるにあたっては、同時に、運輸業に携わる方々の処遇を含めた労働条件の改善を進め、社会的地位も向上する機会になればと思いながら取り組んでいます。

――誌面を通じて各方面へのメッセージなどございましたら。

吉永 人材不足やカーボンニュートラルをはじめ社会的な制約がさまざまにある中で、運輸、観光がいかに持続可能たり得るかが、日々の仕事をする上でベースとなるキーテーマです。運輸、観光の業界をはじめとする産業界、自治体、消費者の皆さまなどあらゆる次元の方々が、このテーマを今まで以上に意識し、知恵を絞り、ともに向き合うことにより、課題が一つ一つ解消されていくものと思います。まさに共創が求められる時代です。九州地域において共創が促進されるよう、九州運輸局としても、日々、愚直に取り組んで参ります。

――本日はありがとうございました。
                                              (月刊『時評』2024年06月号掲載)