2024/07/29
この夏、「九州MaaS」のスタートによって、域内の観光周遊が新たなステージを迎えると期待されている。また“2024 物流問題”の対応にも、長距離フェリーの活用が注目される。人流・物流はさながら域内を循環する血液であり、地域の持続可能な発展に向けて欠かせない。吉永局長に、九州活性化に資する未来を展望してもらった。
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回復は堅調ながら偏在が顕著
――九州はコロナ禍以降、インバウンドをはじめとした域内観光が全体として急回復を見せる一方、物流では、いわゆる〝2024年問題〟の影響を受ける可能性があり、期待と心配、双方が内在している状況かと思われます。
吉永 運輸局の仕事である運輸と観光は、人に例えれば血管、血液とも言うべきで、人流・物流を支えています。どちらも滞留することなく円滑に循環してこそ、地域のくらしや経済の活性化に貢献できると思います。
コロナ禍以降、特に、将来に向けた持続可能性を強く意識して仕事をしています。人手不足、カーボンニュートラルなどの社会テーマの下で、地域のくらしや経済が、一時的な盛り上がりではなく、息長く活力を維持し続けるには、運輸や観光はどのようにあるべきかという問題意識を強く持って、日々の仕事に取り組んでいるということです。
――昨年5月上旬にコロナが5類に移行して1年余り経ちましたが、インバウンドによる観光はどのような状況、感触でしょうか。
吉永 いくつかの数字を出しながら、同時に課題にも触れてみたいと思います。まず、インバウンドの回復度合いを、外国人の延べ宿泊者数で見てみます。2023年は2019年と比較して、全国では98・9%と、つまりコロナ前の状況に戻りました。九州は92・7%と、全国平均より6%以上低く、回復まであと一歩です。ただ、一口に九州と言いましても、回復度合いに偏在が生じていまして、これが目下の課題です。九州7県のうち、福岡の111%、大分の106%、熊本の103%に対し、長崎は61%、佐賀は42%、鹿児島は41%、宮崎は36%と、二極化していると言えます。
続いて、空港や港の数字を見てみますと、7県それぞれに、国際空港や国際クルーズ港があります。外国人入国者数の回復度は、23年を19年と比べますと八つの国際空港の全体で105%と、つまり空路入国は既にコロナ前を上回っています。しかし、海路の入国、すなわちクルーズ船による外国人の入国者数は、22%しか戻っていません。クルーズ船による外国人の入国は、実は、博多港、長崎港、鹿児島港、佐世保港などを擁する九州が、もともと全国の半分程度を占めてきています。従って、全国的に考えても、クルーズ船については、九州における回復に相当程度かかっているとも思っています。
また、空路による外国人入国者数においても偏在が見られます。福岡空港が125%、熊本が97%ですが、それ以外の6空港は3割以下の回復に留まっています(北九州31%、佐賀27%、宮崎26%、大分25%、鹿児島15%、長崎1%)。
――空路における偏在の要因として、どのような点が考えられるでしょう。
吉永 やはり人手不足も要因の一つではないでしょうか。コロナ禍以降、九州に限らず全国の空港で、人手不足が課題となり、いわば、フルスイングできない状況にあると見ています。航空当局も、また、各空港の関係者や関係の各自治体も、人材の確保や育成に、あるいは、省力化や効率化にも尽力されておられます。九州内の各空港の人手不足の状況も徐々に改善されていくことが期待されます。
宿泊に関して別の数字を見てみます。俗に〝九州1割〟と言われます。全国に対して九州の占める比率は、例えば、人口にせよGDPにせよおよそ10 %を占めるということを指した言い回しです。インバウンドが日本のどの地域から入国するかを見てみますと、九州からが、23年は12・7%と10%を超えています。コロナ禍以前は15%を超えた年もありました。一方で、九州域内におけるインバウンドの延べ宿泊者数が全国に占める比率は、23年は7%に留まりました。つまり九州は、ゲートウェイの役割を大きく果たしながら、相応の宿泊数につながっていないのです。域内での滞在日数が少ないか、あるいは、九州から入国しながらも他の地域ブロックに流れて行ってしまうもどかしさがあります。従って、九州域内をいかに周遊してもらい宿泊にもつなげていけるか、同時に、宿泊単価を含め観光消費額アップをいかに図れるかも、九州の観光産業が持続可能性を持ち続けるためにますます重要になってくると思います。
インバウンドの回復は、コロナ禍前を超える勢いも感じられ、好機を迎えています。九州内で地域間の連携もさらに進展し、より広域的に魅力が発信され、周遊も促進されることが重要だと思います。