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2024年を「物流革新元年」に/国土交通省 鶴田 浩久氏

「自主行動計画」などの取り組みを開始

 他方、この法案が成立しても施行まで一定期間を要しますので、その間にも、具体的な対応に取り組んでいます。

 まず、昨年6月段階で農水・経産・国交の三省共同でガイドラインを作成し、これに基づき各事業者には24年度に向けた業界・分野別自主行動計画の作成をお願いしました。3月中旬現在で100団体以上に作ってもらっています。同ガイドラインにおいては、荷待ち・荷役時間の把握と、同時間を現行の3時間から2時間へ、可能なら1時間へ短縮するルール作りなどを要請しています。

 また、23年夏に「トラックGメン」を立ち上げました。悪質な荷主や元請け事業者に対し、国交大臣からトラック事業法に基づく「働きかけ」や「要請」を行います。そして同年11、12月を集中監視月間に位置付け、過去に「要請」したにも関わらず依然として違反原因行為をしている事業者に対し、初めて「勧告」を2件発出しました。「勧告」事案は公表され、以後、対象となった事業者は改善に向けて取り組んでいます。

 さらに、運賃の見直しも行っています。トラック事業には国交省が告示する「標準的運賃」という法律上の制度があり、本年3月、近年の物価高騰を鑑みてこれを引き上げるのと同時に、荷待ち・荷役等についても新たに料金項目にすることとしました。多重下請構造を是正するため、運賃の10 %を別に収受する「下請け手数料」も新しく設けました。これは荷主から元請けの間で設定された運賃が、下請け孫請けへ降りていくとき段階的に〝中抜き〟されることの防止を目指しています。他にも「速達割増」など多様な運賃・料金設定を行いました。

 これらの前提となっているのは、「働き方改革関連法」が成立した2018年と昨年、議員立法で行われたトラック事業法の改正です。この改正では、荷主対策を深めるため、国交大臣が悪質荷主等に「働きかけ」「要請」「勧告・公表」を行う仕組みと、適正運賃の収受に向け、国交大臣が「標準的運賃」を告示する仕組みが設けられています。昨年の措置は、いわば仏に「魂を込め」たものです。

 その他、関係閣僚会議では、前述した「物流革新に向けた政策パッケージ」に盛り込まれた施策のうち、令和5年度補正予算も活用して緊急に進めるべきものについて、23年10月に「緊急パッケージ」を策定しました。そこでは、モーダルシフトの推進として、荷主を含む官民での議論を踏まえ、鉄道(コンテナ貨物)、内航(フェリー・RORO 船等)の輸送量・分担率を今後10年程度で倍増することなどを決定しています。

 また、本年2月の関係閣僚会議では、以上の施策について、政府の中長期計画として2030年度までのロードマップを作成しています。これにより、冒頭に申し上げた、施策を打たない場合に30年度時点で見込まれる、34%の輸送量不足を補うことを目指します。そしてこの中長期計画は、取り組みごとに目標値を定めつつ毎年度フォローアップして、26~30年度にあたる次期「総合物流政策大綱」を閣議決定するタイミングで見直しを図ります。

法案における三つの柱

 その上で、今国会に提出している法案の柱は三つあります。一つ目が、荷主さんを含めた規制です。これも先述の2018年と昨年の議員立法をさらに深めるもので、今回は着荷主を含めて存在を明記した上で具体的な枠組みを導入します。商慣習の見直しも物流の効率化も、荷主さんの協力なくしては不可能だからです。まず関係事業者全般に、物流効率化に向けた努力義務を課します。荷役を自動化するべくフォークリフトを使えるようパレットを導入する、などがその一例です。これを含め努力義務の内容は、事業所管大臣が「判断基準」として示した上で、これに基づき事業者の取り組み状況について指導・助言、調査・公表を行います。今後は個社名を含めてどのような項目を調査し公表するのか、検討していきたいと思います。

 さらに大手事業者には、5カ年の中長期計画を作ってその実行状況を定期的に所管大臣に報告する義務を課し、場合によっては所管大臣から勧告・命令も発出させていただくことがあります。大手の荷主さんには、物流統括管理者を役員クラスの中から選任することも求めています。これにより、物流の問題を、調達、生産、営業等と総合した企業戦略に組み込んでもらうことが期待されます。

 二つ目、トラック事業者に対しても多重下請構造の是正を求めています。元請け企業に「実運送体制管理簿」の作成を義務付け、実運送事業者の名称や下請けの次数等を記載してもらいます。これにより、下請けの実態を元請けが知らないという現状から脱却します。併せて、至極当然のことながら、契約は口頭ではなく書面か電子で行うことを義務付けました。価格を含め交渉内容の記録が残っていないようでは国としても対策の打ちようがないので、まずは取引内容等の〝見える化〟が第一歩です。この一つ目と二つ目の措置を活用して、実運送を行う事業者の適正運賃収受とドライバーの賃上げを目指します。

 三つ目、Eコマースの需要増により軽トラックによる配送が増えているのですが、同時に事故もまた増加し、ここ6年で死亡・重傷事故が2倍になるなど深刻な状況です。軽トラック事業は一台から参入できて個人事業主として運営可能という、トラックに比べて軽い規制になっていますが、改めて調査してみると、事業主が本来順守すべきルールを把握していないケースが多いことが判明しました。そこで、安全管理者を選任して2年に1回講習を受けるよう義務付けたほか、事故発生時の報告義務も新たに設けました。

Win-Win へ、さらに〝三方よし〟へ

 最後に1枚のグラフをご覧ください。折れ線グラフの実線はトラック側のドライバー時給水準、点線は荷主側の売上高に占める物流費の比率を表しています。これまで両者の間には相関関係があって、右肩下がりなら荷主側の〝一人勝ち〟で、逆に右肩上がりなら物流側の〝一人勝ち〟という図式でした。

(資料:国土交通省)
(資料:国土交通省)

 これでは将来は展望できないのではないでしょうか。今後Win-Win にするには、物流の効率化が必要です。運送側一人あたりのアウトプットを増やす、生産性の向上と言い換えてもよいでしょう。そのためには物流側の努力だけでなく、荷主側も一緒に取り組むことが不可欠で、既に、先述の自主行動計画等を通じ、そのような荷主の合理的な行動は始まっています。

 4月から時間外労働規制の適用が始まる直前の2月16日、物流革新・賃上げに向けて、岸田総理ご出席の下、荷主・物流業界との意見交換会が実施されました。その席で総理から、「賃上げと価格転嫁、ひいては物流革新に向け、政府、荷主、物流事業者が一致団結して、わが国の物流の持続的成長に向けて、全力で取り組んでいただきたい」との発言がありました。

 賃上げを実現すると同時に、荷主と物流事業者が一体となってより活力ある物流を目指すためには、双方協力しながら効率化を図るなど、まずはWin-Winであるべきだ、物流は社会のインフラだからそれは消費者にとってもプラスになる、というのが同意見交換会の主旨だと理解しています。〝売り手よし、買い手よし〟の精神で問題の解決を図り、その結果相乗的に物流が発展して、それが社会・経済全体に恩恵をもたらす〝世間よし〟にもなる、いわば消費者も含めた〝三方よし〟の考え方が重要なのだと思います。

 そもそもこの2024物流革新は、それ以前から徐々に深刻化してきた問題状況を、残業規制の開始をきっかけに改めて認識するところから始まります。この瞬間的な変化さえ乗り切れば〝問題〟が終わるのではありません。むしろこの機が無ければ、ますます深刻になりながらもその状況が理解されず、さながら〝ゆでガエル〟のように気づいた時には手を打とうにも時すでに遅し、という事態になりかねませんでした。

 それを避けるためにもこの2024年は、〝問題〟を見て見ぬふりすることなく直視し、難問を解いていくための転換の年と位置付けるべきです。ぜひ、関係省庁・関係業界はもちろん、メディアの方々などとも力を合わせながら、タイトル通りまさに今年を革新の「始まり」の年にしたいと考えています。
                                                 (月刊『時評』2024年6月号掲載)