お問い合わせはこちら

2024年を「物流革新元年」に/国土交通省 鶴田 浩久氏

◆国土交通省物流政策最前線

つるた ひろひさ/昭和42年12月15日生まれ、北海道出身。東京大学法学部卒業。平成2年運輸省入省、29年国土交通省大臣官房参事官(人事)、30年東京航空局長、令和元年内閣官房内閣審議官、2年国土交通省航空局航空ネットワーク部長、3年鉄道局次長、4年大臣官房公共交通・物流政策審議官、5年7月自動車局長、10月より現職。
つるた ひろひさ/昭和42年12月15日生まれ、北海道出身。東京大学法学部卒業。平成2年運輸省入省、29年国土交通省大臣官房参事官(人事)、30年東京航空局長、令和元年内閣官房内閣審議官、2年国土交通省航空局航空ネットワーク部長、3年鉄道局次長、4年大臣官房公共交通・物流政策審議官、5年7月自動車局長、10月より現職。

 本年4月から、世上指摘されてきた“2024物流問題”こと、自動車運送事業における時間外労働規制がスタートした。ただ、これは同時に社会インフラである日本の物流が大きく変わりゆく革新の好機でもある。政府・国土交通省では既に政策パッケージや法律案を作成するなど、準備を進めてきた。鶴田局長にはこれらの施策とともに物流の現在と未来を解説してもらう。

国土交通省物流・自動車局長
鶴田 浩久氏

 いわゆる〝物流の2024年問題〟のフレーズが広まりましたが、はじめに強調したいのは、自動車運送事業における時間外労働規制は、ノストラダムスの「恐怖の大王」やコロナ禍のような〝問題〟ではないという点です。もとはと言えば、物流の担い手不足に対応するために、物流を魅力ある産業にしようという取り組みの一環です。その意味では、単に残業が減った分だけ年収も減るのでは意味がなく、「短時間・高賃金」な職場とする必要があります。

 そのためには、物流の担い手が不足するという危機感を社会全体で共有する必要があり、これを目指すための〝問題〟提起でした。重要なのは今年のみの一過性の問題ではなく、今年を起点に今後も問題構造が続く、それも年々深刻さを増していくという点にあります。この構図は、人口減に伴う「地方消滅」問題と似ているように思います。〝問題〟としてネガティブかつ受動的に見るのではなく、この機にポジティブかつ能動的に関わっていく必要がある、その意味も込めて、斉藤国土交通大臣の言葉をお借りして「物流革新元年」と表題に掲げた次第です。

全産業の2%、全就業者数の3%

 まず物流業界の現状について。物流は、国民生活やわが国の経済を支える必須の社会インフラであり、産業規模としても物流業界の営業収入の合計は約29兆円で全産業の2%、従業員数は約226万人で全就業者数の3%にのぼるなど、大きな比重を占めています。とはいえ、逆に言えば3%の人で2%の売上げしかない、という課題もまた表していると言えるでしょう。

 では〝物流の2024年問題〟の核心的課題と言えるトラックドライバーの働き方はどうでしょうか。全産業と比較して、年間労働時間は約2割長く、年間所得額は約1割低い、というのが現状です。90の収入を120の時間で得ている計算になるので、時給換算しますと4分の3です。必然として有効求人倍率は約2倍で他産業のほぼ倍となり、人手不足がひっ迫しているさまがうかがえます。

 こうした現状を改善するべく打ち出されたのが、自動車運送事業における時間外労働規制の見直しです。端的に言えば、働く時間を短くすることを目指すもので、トラックだけでなくバスやタクシーも含めて労働基準法に則り、ドライバーの時間外労働について、現行の上限無しから、本年4月より年960時間の上限を設定するなど、労働者保護が強化されます。法律自体は2018年の「働き方改革関連法」に基づいており、翌19年の法施行から5年後の適用という、あらかじめ予定されたスケジュール通りに実施されるわけです。

 ここで、残業が短くなったら、ただでさえ低いドライバーの収入がもっと少なくなるとの指摘があります。しかし、法の理念が目指すように高効率・収入改善を目指さなければ、この先さらに就労者が減るのはほぼ確実で、そうなると運送業界自体が成り立たなくなると言っても過言ではありません。

 一方、時間外労働の規制によって物流に影響が出ることは確かで、それに対し具体的な対応を行わなかった場合、24年度には輸送能力が現状より14%(4億トン相当)不足し、さらにその後も手立てを講じなかった場合は30年度段階で同34%(9億トン相当)が不足すると試算されています。品目別では特に農水産品が33%、地域別では中国・九州がいずれも約20%ずつ輸送能力が不足するなど、深刻な状況になると推定されます。

物流革新に向けた「政策パッケージ」

 では政策として、こうした状況にどのような対応を図ろうとしているのか。2023年3月に、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が設置されました。この会議は、物流を所管する国土交通省だけでなく、荷主を所管する経済産業省、農林水産省を加えた三大臣が副議長として協力し合うという点が今日的と言えるでしょう。その上で、消費者庁、警察庁、厚生労働省、環境省の各大臣、さらには公正取引委員会委員長等にも参画いただいています。

 このように、社会全体で物流を革新する第一歩ともいえる体制で、第1回会議における総理指示を受けて、同年6月の第2回会議で「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定しました。以下、同パッケージの主な施策内容を三つ見ていきたいと思います。

 第一に、商慣行の見直しです。物流の適正化・生産性向上を図るため、荷主企業、運送と倉庫等を含めた物流事業者の双方に、現在の非効率な商慣行を見直してもらいます。

 ミクロで見ると、例えば、ドライバーの1日の平均拘束時間は12時間26分なのですが、実はそのうち荷待ち・荷役に3時間割かれていて、長時間拘束の原因になっています。これを短くするには荷主さん側の協力が不可欠です。現場で待たなくても済むようオペレーションを改めたり、ドライバーのサービスによる手作業での荷積み荷下ろし慣行を無くすために機械化を図ったりして、高齢者や女性も働きやすい職場にしていくことが望まれています。

 マクロで見ると、例えば、トラックの積載率は年々低下し、今や38%です。つまり、少量多頻度の輸送需要に次々と応えてきた結果、荷台の6割以上が使われていない、もったいない状況です。この改善にも荷主さん側の協力が不可欠です。リードタイムの延長、すなわち運送の発注から納品期限までの時間を延ばすことや、週単位・年単位で発注を平準化することが求められます。もちろん、急ぐものもあるでしょう。急ぐものと急がないもののメリハリをつけ、その違いが価格にも反映される、そんな社会を目指したいと考えています。

 第二に、物流自体の効率化です。GX、DX、標準化等により、新技術も活用しつつ、ハード・ソフト両面での物流の効率化が求められます。GXでは鉄道や内航海運の輸送力増強によるモーダルシフト、DXでは自動運転やドローン物流の促進、等々が検討されています。さらに需要と供給のマッチングを行う〝求貨・求車システム〟の確立も指摘されています。これは荷物を目的地に届けた後、荷台を空にしたまま帰らず、他の荷物を積んで帰ることを徹底するものです。こうしたDX関連の効率化を手掛ける事業者さんも徐々に出てきていますので、さらに応援していく方針です。また、トラックの高速道最高速度について、警察庁における検討を経て、4月より従来の時速80キロから90キロに引き上げられました。

 第三に、荷主さんと消費者の意識改革、行動変容も欠かせません。例えば荷主・物流事業者の物流改善を評価・公表する仕組みの創設などはその一案です。もちろん荷主にとどまらず、例えば荷主に発注する小売業や、さらにその顧客である消費者全般が、現在の物流の置かれた状況を認識することから始まります。配達員の負担を減らすためにも、再配達率を現行の半分に減らすような対策がその例となります。Eコマース事業者の方々を中心に、物流負荷の低い注文をしてくれたお客さんにはポイント還元等でインセンティブを設けるよう、令和5年度の補正で予算を措置して、システム変更を促しているところです。

 これらのうち規制的措置については、省庁や業界の垣根を越えて始まった取り組みを、中長期的に継続する枠組みとして整備するため、今通常国会での法制化も進めています。

(資料:国土交通省)
(資料:国土交通省)