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インフラ面から社会課題の解決を図るために/九州地方整備局長 森戸義貴氏

――そうした整備事業の有効性がもっと広く報道されて、住民・市民に認識を新たにしてもらう必要がありますね。行政施策がうまく機能している事実などはほとんど取り上げられませんから。

森戸 現実として、各地各所でこうした効果は上がりつつあると捉えています。それでも地域の自治体首長各位とお話しすると、まだまだ着手すべき案件が多々あると実感します。

――今般の流域治水対策において、主な整備事業としては。

森戸 佐賀県六角川、熊本県球磨川等の各事業が進展中です。いずれも当該自治体をはじめ、あらゆる関係者と連携を取りながら水害その他に備えていくつもりです。連携については各自治体だけでなく国についても同様で、例えば九州農政局とは緊急時に平素の生業の場である農地を貯留機能として活用することが可能かどうか等、分野や所管を超えて地域の安全を守るための調整が不可欠です。

 特に災害復旧に向けて道路啓開を図る場合でも、まずは倒壊した電柱など電線処理を経産省にしてもらう必要がありますが、一方でその処理要員が向かう道を事前に開いておかねばならず、現場は常に鶏卵先後する状況です。必然として緊急時対応を想定した密な連携を図ることが減災の基本となり、現在は過去の事例から得た教訓を生かし、関係機関連携による迅速かつ効率的な対応が着実にとれるようになっていると思います。

――現場で整備に携わる担い手不足の状況はいかがでしょう。

森戸 今日明日に即影響が生じる状況ではありませんが、建設・土木を志望する若い世代が減っているのは確かです。令和6年4月1日より建設業界においても時間外労働規制が始まりましたが、業界に対しては、やはりICTやDXを駆使して、これまで3人で3日かけていた仕事を2人2日でできるよう仕事を効率化していく一方、それでもなお多い残業や長時間勤務を今後も是正していかねばなりません。実際のところ労務単価は年々上がる傾向にありますので、今回の時間外労働規制を機に、労働量に対する適正対価が得られる環境へ移行させていくべきだと思います。

 一方、人の問題に限らず、円滑な物流促進に向けても、また災害時対応の観点からも、引き続き道路ネットワークの強化に注力する必要があります。道路が整備されれば、従来と同じ運転時間でも移動距離を延ばすことが可能です。またドライバーさんの負担軽減に向けて、発地から目的地までリレー形式で運送するという構想が具体化した場合、道路上に中継地の整備も検討されます。深刻化する人手不足に対しインフラの面からこれを補えるよう、より効率化を図るという発想が求められます。

――各地でインフラツーリズムが盛んになっていますが、コロナの5類移行後、九州域内のインフラツーリズムも活性化しているのでは。

森戸 ご指摘の通り、ダムや橋梁など巨大構造物を見学する志向は年々高まりを見せています。直近では本年1~2月に、熊本市の立野ダムにおける試験湛水を行う期間中、南阿蘇鉄道さんが特別鉄道を走らせ、ダム見学+特別鉄道乗車のツアーを組んだところ、非常に多くの見学者で大変な盛況を博しました。

南阿蘇鉄道と立野ダム(提供:九州地方整備局)
南阿蘇鉄道と立野ダム(提供:九州地方整備局)

――なるほど、鉄道ファンとダムファンの相乗ですね。

森戸 この立野ダムは通常は水を溜めない流水型で、ダムが満水状態になるのは150年に1度クラスの豪雨時と想定されることから、試験湛水で人為的に満水にするという希少な機会ならばぜひ見学を、というわけです。また大型橋梁も、クレーンで架設するときなどは多くの見学者が訪れます。このように、インフラツーリズムは見学機会が限定されているケースも多いので、私たちもそうした機会を捉えて情報発信し、地域活性化の一助になりたいと思います。また、建設・土木整備の重要性や、職業としての魅力をアピールすることにも役立つのではないかと。

――最後に、誌面を通じてメッセージなどいかがでしょうか。

森戸 インフラ整備について、国・地方など行政機関だけでなく、民間産業界からのご協力・応援もぜひお願いできればと思います。前述の通り、道路が通れば経済生産性も向上するので、なぜ道路が必要なのかという段階から、われわれ行政と理念を共有していただけると大変ありがたいですね。

――本日はありがとうございました。
                                           (月刊『時評』2024年6月号掲載)