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インフラ面から社会課題の解決を図るために/九州地方整備局長 森戸義貴氏

◆九州国土交通政策最前線

もりと よしたか/昭和41年9月26日生まれ、京都府出身。大阪大学大学院工学研究科修了。平成3年建設省入省、30年国土交通省近畿地方整備局企画部長、令和元年総合政策局公共事業企画調整課長、2年大臣官房技術調査課長、4年中国地方整備局長、5年7月より現職。
もりと よしたか/昭和41年9月26日生まれ、京都府出身。大阪大学大学院工学研究科修了。平成3年建設省入省、30年国土交通省近畿地方整備局企画部長、令和元年総合政策局公共事業企画調整課長、2年大臣官房技術調査課長、4年中国地方整備局長、5年7月より現職。

 熊本におけるTSMC の工場稼働をはじめ、九州の経済的活力が勢いを増し、全国からの注目度が高まっている。一方で頻発する自然災害や建設・物流等における時間外労働規制など対応すべき点も多く、その施策内容はある意味で全国の縮図とも言える。今回は地整・運輸の両面から九州の現状を検証してみたい。まずは国土交通省緊急災害対策派遣隊「TEC-FORCE(テックフォース)」の献身的な活動で知られる地方整備局の主要施策を、森戸局長に語ってもらった。

過去の教訓から得た改善が効果

――本年1月1日に発生した能登半島地震においては、過去の自然災害同様、TEC-FORCEが現地で各種復旧活動等にあたられましたが、まずはその総括からお願いできましたら。

森戸 能登半島地震につきましては16時の発生当時、福岡県、佐賀県の日本海沿岸地域、および長崎県壱岐・対馬に津波注意報が発令されたため、九州地方整備局としても当該エリアの出先機関等と連携して迅速な津波対応にあたりました。

 発生地である能登半島エリアに対しては、1月3日夕刻にまず港湾班が整備局保有の「海翔丸」に物資を積んで出航、5日昼に七尾に入港しました。これを皮切りに以後、道路、河川、海岸をはじめとする被災調査等を行いました。3月末まで約3カ月にわたり現地で綿密な調査にあたるなど、延べ2270人の隊員が現地で活動を展開してきました。

 中でも重視された活動の一つが給水支援です。4月から上水道が国土交通省に移管されることを踏まえて、震災発生早期から先行的に水道インフラの復旧に携わりました。2019年の令和元年房総半島台風の上陸後、現地で給水が滞ったのを契機に、国土交通省では給水支援ができるよう給水機能付きの散水車を2台ずつ、各地方整備局にて配備したのですが、今回それらが一斉に能登に集結するなど、事前の備えが大いに役立ちました。(公)日本水道協会さんが主体となって給水車を派遣するなど、各関係者が復旧に向けて尽力されておられます。

能登半島地震被災状況調査(提供:九州地方整備局)
能登半島地震被災状況調査(提供:九州地方整備局)

――ドローン部隊も初期段階で活躍されたそうですね。

森戸 はい、当局TEC-FORCEではドローンの操縦に秀でた隊員を擁しており、まとまったドローン部隊の出動は九州地整局における特色の一つだったと言えるかもしれません。被災地では上空からの撮影、そして映像データを消防庁等関係機関に提供して隊員による現地捜索の事前情報に資するなど、さまざまな形で被害状況の把握に貢献できたと考えています。

――九州地方整備局のTEC-FORCEは従来より自然災害の現場で対応に当たられ、その度に改善を図ってこられたとのことですが、今回の能登の経験も、何らかの形で次なる災害に役立てることが期待されますね。

森戸 そうですね、ドローン部隊の整備も過去の活動をもとに改善を図ってきた所産です。そういう意味では、当局において今回の活動は、冬季積雪地域における復旧活動という過去にあまり例のない事案となりました。今回得られた教訓をもとに、今後も不測の事態が生じたときにTEC-FORCEが最善のパフォーマンスを発揮できるよう、装備、準備ともさらに充実させていきたいと思います。

保全を手掛ければ着実に被害軽減

――平素から多くの分野を所管しておられますが、その中で令和6年度において重要と思われる施策などはいかがでしょう。

森戸 域内はもとより、国民の生命・安全・財産を守るという点で、防災・減災、国土強靱化への不断の取り組みは従前より変わらず最重要施策に位置付けられます。昨年7月上旬も筑後川流域で豪雨水害が起こり、久留米市を中心に大規模な浸水被害や土砂崩落が発生、お亡くなりになられた方もいらっしゃいます。久留米市の原口新五市長からは、毎年浸水しているという切実な声も寄せられました。もちろん、われわれも座視しているわけではなく毎年少しずつ流域インフラの整備に努めていますが、その進捗を超える頻度で災害が発生しているのが現状です。

 とはいえ、整備を手掛けた箇所については、確実に防災効果は表れています。例えば、この筑後川水害においても浸水は発生しましたが、その被害規模や深刻度は過去の同種の水害に比べて大きく軽減されています。2017年に発生した平成29年7月九州北部豪雨における、朝倉市赤谷川での大規模水害の後、5年間かけて手掛けていた整備事業が昨春に完成しました。前出の筑後川水害ではこの赤谷川流域でも17年当時と同量の雨量を記録したにもかかわらず、護岸の一部損壊などわずかな施設被害が生じたのみで、沿川一帯で浸水等を防止しました。朝倉市の林裕二市長曰く、整備前とは安心感が比べ物にならないとのことです。