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増加する自然災害と対策としての砂防政策/国土交通省 草野 愼一氏

◆国土交通省砂防政策最前線

くさの しんいち/昭和40年9月生まれ、奈良県出身。京都大学農学部卒業。平成元年建設省入省。21年国土交通省中部地方整備局天竜川上流河川事務所長、23年中国地方整備局河川部河川調査官、26年中部地方整備局多治見砂防国道事務所長、28年水管理・国土保全局砂防部砂防計画課砂防計画調整官、30年鳥取県県土整備部次長、31年鳥取県県土整備部長、令和3年国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課長、4年国土交通省大臣官房審議官(防災・リスクコミュニケーション担当)を経て、令和5年7月より現職。
くさの しんいち/昭和40年9月生まれ、奈良県出身。京都大学農学部卒業。平成元年建設省入省。21年国土交通省中部地方整備局天竜川上流河川事務所長、23年中国地方整備局河川部河川調査官、26年中部地方整備局多治見砂防国道事務所長、28年水管理・国土保全局砂防部砂防計画課砂防計画調整官、30年鳥取県県土整備部次長、31年鳥取県県土整備部長、令和3年国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課長、4年国土交通省大臣官房審議官(防災・リスクコミュニケーション担当)を経て、令和5年7月より現職。

 気候変動の影響もあり、自然災害が激甚化・頻発化している。2023年には全国で1471件の土砂災害が発生、これは過去10年の平均発生件数とほぼ同数だが、長期間の災害発生動向をみると、その件数は確実に増加しているという。また、年が明けた24年元日には「令和6年能登半島地震」が、4月には豊後水道を震源とする震度6の地震が発生するなど予断を許さない状況が続いている。増加する自然災害(土砂災害)に対して国土交通省の対策としてはどういったものがあるのか。その取り組みについて国土交通省砂防部の草野部長に話を聞いた。

国土交通省水管理・国土保全局砂防部長
草野 愼一氏

激甚化・頻発化する自然災害、近年の土砂災害の状況

――自然災害が激甚化・頻発化する中、ここ数年は毎年のように大きな自然災害が発生しています。改めて2023(令和5)年に発生した自然災害について砂防行政の観点からお聞かせください。

草野 2023年(1月~12月)、全国では1471件の土砂災害が発生しています。これは過去10年の平均発生件数(1446件)とほぼ同数になりますので、件数自体は例年と大きく変わりはありません。しかし、40年の期間でみると10年ごとに約1・2倍ずつ増加していますので、長い期間でみると災害発生件数は確実に増加していることが分かります。

 では、具体的な災害について触れておきます。23年には6~7月にかけての梅雨前線による豪雨や9月の台風13号などによって多くの土砂災害が発生しました。まず6~7月の豪雨では、最初に愛知県や静岡県などの太平洋側、そして山口県や福岡県、佐賀県といった山陰から九州北部で災害が発生。7月10日には佐賀県唐津市で3名、福岡県久留米市で1名の方が亡くなっています。一方で事前の避難が効果を発揮し、家屋は全壊・半壊したものの人命が失われることのなかった事例として、6月2日愛知県豊川市や7月1日山口県周南市での事例報告もあります。

 また9月の台風13号は、房総半島を襲った豪雨により千葉県周辺で多くの土砂災害が発生しました。房総半島は中部山岳地帯のような地形的に高い山々があるわけではなく、これまで土砂災害が多発するイメージはありませんでしたが、豪雨が集中したことで土砂災害が多発したと考えています。

――増加傾向にある自然災害。では、これまでとは異なる災害傾向、あるいは災害そのものが変化しているといったことはあるのでしょうか。

草野 気候変動の影響もあって、線状降水帯の発生による大雨などの発生頻度は確実に増加してきており、それに伴う土砂災害も増加傾向にあります。また土砂災害は、土石流とがけ崩れ、地滑りと大きく三つの現象に分けられますが、最近ではそれらが単発で発生するのではなく、特定地域に複合的に集中して発生する現象が見られます。それにより、その下の谷全体を土砂で埋めてしまうような土砂・洪水氾濫と呼ばれる災害が近年増加しています。

 人的被害については、以前は災害発生までの時間が短いがけ崩れによる災害件数が多かったのですが、近年はこの土砂・洪水氾濫という、これまでとは異なる災害形態により、人的被害が増えているのが特徴といえます。

――24年1月1日、石川県能登半島を震源とし、最大震度7を記録した「令和6年能登半島地震」が発生。また4月17日には豊後水道を震源とし、愛媛県などで震度6を記録する地震も発生しています。能登半島地震においては現在も復興・復旧に向けた作業が進められていますが、砂防分野としての取り組み・対応についてお聞かせください。

草野 両災害とも豪雨ではなく地震に起因する土砂災害でした。4月17日の地震は震度6を記録したものの土砂災害の発生は愛媛県で1件、宮崎県で2件と人的被害はもちろん、物的被害もほとんどなかったことに胸をなで下ろしています。

 しかし能登半島地震においては455件の土砂災害報告(4月30日時点―石川県:424、新潟県:18、富山:13)があります。昨年1年間の土砂災害発生件数は約1400件といいましたが、今回、一回の地震で約450件もの土砂災害が発生したという事実には本当に驚いています。

 特徴的なのは災害発生の原因が雨ではないので、ほとんど土石流は発生していない、つまりがけ崩れと地滑りによる土砂災害であった点です。そして能登では木造家屋が多かったため家屋が先に地震によって倒壊したのか、後で土砂災害によって倒壊したのかの判別が難しいという特徴もありました。

 現在も復興・復旧に向けた取り組みが行われていますが、同時に、この災害から何を学び、どう次に生かしていくかを考えることも重要です。能登半島と同様に山間過疎地域であり、交通の便もあまり良くない社会的条件をもつ地域は全国に多数存在しています。そうした地域で大きな地震が発生した場合に備えてどのような準備を行うのか。まず考えられるのが、地域の人々を土砂災害のない安全な地域に集約してゆくコンパクトシティへの移行が理想といえます。コンパクトシティには生活インフラの集中による利便性や安全性の向上など多くのメリットがありますので、少しずつでも進めていく必要はあると考えています。しかし実際にはまだまだ長期にわたって、中山間地に分散的に人々が住む状態は継続すると思われます。そこで災害時に痛感するのがネットワーク系インフラの重要性です。これは道路や電気、上下水道といった日常生活に不可欠なインフラが該当しますが、そうした重要ネットワークの耐震性を個々に向上させることに加えて、そのネットワークの結節点を土砂災害から集中的に保全するような取り組みについては考慮する価値があるのではないかと思っています。

 さらに避難についてです。地震などの突発的な災害では避難に使える時間はほとんど無いと思われます。しかし今回の地震では緊急地震速報を聞いてから避難したことで実際に助かった方も一部おられます。であれば、地震に起因する土砂災害についても、前兆現象を整理するなどして、少しでも避難につながる工夫ができないかと考えています。

災害対策としての砂防政策とみどり(自然)の活用

――なるほど。災害の反省を次に生かす、そうした取り組みも非常に重要になりますね。では、国土交通省(砂防部)では、これまでどういった災害対策、施策に取り組まれてきたのでしょうか。

草野 砂防政策として、予算的な面と中身の面という二つの点からお話します。まず予算については、現在「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(2020年12月閣議決定)を進めています。砂防も含め全体で15兆円の予算規模であり、令和5年補正予算までで約12兆円が使用されていて全体の8割ほどが進んでいます。

 この5か年加速化対策では、砂防分野としては、まずまちづくり的な観点から道路や鉄道、浄水場や下水処理場、変電所などの日常生活において重要なインフラ施設を土砂災害から守るといった基礎的インフラの保全を進めています。さらにインフラ・メンテナンス、いわゆる長寿命化として老朽化し機能低下した砂防施設を補修・メンテナンスをすることで機能を保持する、この2点に注力してきました。

 また具体的な中身についてですが、20年以降国土交通省水管理・国土保全局では、「流域治水」を推進しています。砂防事業の担う分野としては、流域の上流で発生する土砂・洪水氾濫に加えて、流木災害への対応もあります。本来でしたら木材は重要な資源であり、計画的な利活用が求められますが、資源として伐採しきれなかった樹木が豪雨などによる斜面崩壊で流出することで流木災害が拡大します。その流木を止めるための施設整備が砂防事業における役割になります。また流木は土砂と異なり、水に浮いて流れてきますので、止め方にも工夫が必要です。単にコンクリートの壁のような砂防堰堤では止めきれませんので、現在では「流木止め」という鋼製の柵を砂防堰堤の上に設置したり、本体そのものが鋼製の枠のような「鋼製砂防堰堤」といった施設を設置するようになっています。