2024/06/17
――では「建設業の2024問題」への対応として、今後どのような取り組みが必要になるのでしょうか。
岩下 先述した通り、働き方改革の取り組みは前進しつつあるものの、さらなる強化が必要です。まず、3月の中央建設業審議会でも議論された「建設業の働き方改革に向けた施策パッケージ」の施策を着実に行っていきます。
具体的には、適正な工期設定をさらに徹底する。この3月に中央建設業審議会において4年ぶりに「工期に関する基準」が改正されましたが、この基準にも「法定労働時間の遵守を前提とした工期の確保」が必要であるとして、改めて労基法を遵守した工期設定の必要性が明記されました。さらに、週休2日工事を拡大する。国交省直轄工事のみならず、都道府県や市町村の工事でも週休2日が確保された工期設定を強く促していきます。また建設業団体(日建連、全建、全中建、建専連)においても、「目指せ!建設現場 土日一斉閉所」運動が始まりました。こういった取り組みとも連携して、官民挙げて適正な工期、週休2日が確保できる工期を確保していく。併せて、後工程へしわ寄せされないように、元請企業による進捗管理の徹底、工期の変更も含めた注文者への協議の促進も必要だと考えています。
また、働き方改革と表裏一体として生産性向上の取り組みを進める。具体的には、建設DX、i-Constructionなど、デジタルを活用し、自動化・遠隔化などの取り組みを進め、効率を高めていく必要があります。これまでより少ない人数でも同レベルの工事ができるということを実現していかなければならないと考えています。また、技術者の大きな負担となっている工事関係書類についても簡素化・電子化を徹底する。さらに、技術者の業務分担も工夫が必要です。技術者の業務のうち、書類作成などについては内部部署の支援やアウトソーシングを進める。業界でも「建設ディレクター」という役割が注目されていますが、技術者の仕事を分担・支援することで、技術者の労働時間を縮減するとともに、建設業の担い手の裾野を広げることができると期待しています。
――「建設業の担い手確保」に向けたもう一つの柱、「処遇改善」についてはいかがでしょうか。
岩下 建設業の担い手を確保するためには、「処遇改善」、つまりは賃上げを進めていかなければいけません。技能労働者は専門的な技術力が求められる上、厳しい労働環境にもかかわらず、他産業に比して賃金が追いついていません。処遇を上げるためには賃上げの原資となる労務費が十分確保されることが必要になります。
まず、公共工事の設計労務単価については、12年連続、前年比5・9%増と大幅な引き上げが行われました。これも踏まえ、3月、総理官邸において「建設業の賃上げに関する意見交換会」が行われ、岸田総理出席のもと、技能労働者の賃上げについて「5%を十分に上回る上昇」を建設業界の目標とすることが申し合わせされました。この実現に向けて官民挙げて取り組んでいるところです。
また、建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用も課題です。CCUSは、技能と経験に応じた適切な処遇につながるよう、現場の就労履歴などを登録・蓄積するシステムですが、まだまだ処遇改善につながっていないという指摘を受けています。若い世代の技能者がキャリアパスや処遇の見通しをもてる、技能・経験に応じて給与を引上げる、技能者を雇用し育成する企業が伸びていける建設業に向けて、さらなる充実に取り組んでいきます。
併せて、労務費や資材価格の上昇を踏まえた価格転嫁の取り組みも重要です。元請・下請の間はもとより、発注者、特に民間発注者へも転嫁できるかが大きな課題です。建設業は受注産業の宿命として、「請負」を「うけまけ」と自虐的に言う方もいて、施主・注文者に対して協議を申し入れることは難しいという声も耳にします。建設業は重層下請構造と言われますが、発注者と受注者は本来重要なパートナーシップの関係です。さらに、発注者のみならず、最終的には消費者の理解を得て負担いただく必要もあると考えています。サプライチェーン全体で適切な価格転嫁ができるよう取り組んでいきます。
――「建設業の2024問題」をはじめ、建設業の担い手確保のためにはまだまだ課題があるということですね。それらに対応するため、今国会に提出している法案があると聞いていますが、その内容についてお聞かせください。
岩下 ご指摘の通り、今国会に建設業法等の改正案を提出しています。内容は、①労働者の処遇改善、②資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止、③働き方改革と生産性向上――の3本柱です。これまでの課題に対し、制度的に今一歩前に進めようというものになります。
具体的には、①労働者の処遇改善については、中央建設業審議会が「労務費の基準」を作成・勧告し、著しく低い労務費による見積もりや、その変更依頼を禁止し、違反した発注者や建設企業には国交大臣等が勧告・公表などをすることができる、とするものです。これにより、当事者間の請負契約の交渉において着実に労務費が確保できるようにしていきたいと考えています。
②資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止対策では、まず、資材価格高騰に伴う請負代金などの「変更方法」を契約書に記載することを法定化します。これまでは契約に記載されず、変更の協議すらできないということもあったと聞いていますが、これにより、受注者・発注者の間の協議を促す。パートナーシップとして協議できることを制度的に担保したいと考えています。
③働き方改革と生産性向上は、2024問題へのさらなる取り組みとして、受注者による「工期ダンピング」を禁止します。受注者が無理して著しく短い工期で受注すると、下請の技能労働者の働き方にしわ寄せが及びます。生産性向上については、技術者の専任義務の緩和を行うとともに、ICTを活用した現場管理の合理化を図ります。
これらの制度的な取り組みを強化することにより、「処遇改善」と「働き方改革」を推進し、建設業の担い手確保につなげていきたいと考えています。
――少子化など人口減少に歯止めがかからない中、他の産業と同様に建設業を取り巻く状況も厳しいと言わざるを得ないかと思います。それでも建設業がより魅力的な産業となるためにも「働き方改革」実現に向けた取り組みは必須といえます。最後に今後の展望、また施策・取り組みの実現に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。
岩下 人口減少に伴い生産年齢人口が減少し、全産業で担い手の奪い合いが起こっています。また、外国人労働者の確保も重要な課題です。国内はもちろん、世界から日本の建設業は魅力のある産業だと思ってもらえるようにしていかなければなりません。
そのため建設業界も、「給与がよく」「休暇が取れ」「希望が持てる」という新3Kに、「かっこいい」を加えた新4Kといわれる産業にしていく必要があります。今は「建設業の2024年問題」に悪戦苦闘していますが、将来、「2024年問題」は多くのステークホルダーが建設業の現状と課題を認識し、改善していく契機だったと振り返ることができる日が来るのではないか、そう信じています。国土交通省としても、建設業の担い手確保のため、できることは最大限取り組むといった覚悟を持ってこれからも努めていきたいと考えています。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2024年5月号掲載)