2024/06/17
2024年4月より建設業にも適用された「働き方改革関連法」に伴う時間外労働の上限規制。19年4月の法施行から5年の猶予措置がとられたものの、それでも建設業にとっては経営基盤を揺るがしかねない大きな変革であり、その影響から「建設業の2024 年問題」として関心を集めている。対応の困難さについては言うまでもないが、一方で業界の処遇改善の契機といった側面もあるという。今回、われわれの社会生活を支える建設業の構造変化、処遇改善の実現に向けた施策、取り組みについて国土交通省建設業課の岩下課長に話を聞いた。
国土交通省不動産・建設経済局建設業課長 岩下 泰善氏
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建設業の2024年問題と業界の現状と課題
――本年(2024年)4月より適用された「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制への対応、いわゆる「建設業の2024年問題」が大きな関心を集めています。では、この「建設業の2024年問題」とは何か、また建設業を取り巻く現状と課題についてお聞かせください。
岩下 まず建設業が直面する最大の課題は「担い手の確保」です。元旦(2024年1月1日)に発災した能登半島地震においても、建設企業は現場に真っ先に駆けつけ、特に地元の建設企業は自ら被災しながら、また車中泊など厳しい環境の中にあっても物資運搬や避難、復旧・復興のために強い使命感を持って、まさに24時間体制で道路啓開などに邁進していました。災害大国であるわが国において建設業は、まさに「地域の守り手」として不可欠な存在であることが再認識されたと思っています。
しかしながら、建設業者数の推移をみると、1997年(平成9年)には685万人であった就業者数が2023年(令和5年)には483万人と大きく減少し、他産業に比して高齢者の割合も高いことが分かります。このままでは建設業の担い手がいなくなってしまう危機的な状況にあることは想像に難くありません。技術の承継も含め、将来の担い手確保、特に若い就業者を確保し、定着できる環境を作ることが重要な課題になっています。
課題解決に向けてやるべきことは大きく二つ、それが「働き方改革」と「処遇改善」です。生産年齢人口が減少していく中で、若い就業者は全産業で取り合いになっています。建設業は「3K」業界だと言われてきましたので、働く環境を改善し、賃金を上げていくことで担い手確保に向けた取り組みを強力に進めていかなければ業界の将来は厳しいと言わざるを得ません。
そこでまず「働き方改革」です。建設業は他産業よりも年間で約70時間、労働時間が長いとされています。これにはいくつか理由がありますが、例えば、建設業は受注産業であり、施主、発注者と決めた工期は何としても遵守しなければならない、そのために突貫工事も辞さず長時間労働になってしまうということ。また天候にも左右され、自ら労働時間を管理することが難しいという事情。そして業界的にも、これまで休日は日曜のみで、土曜に働くことは当たり前という慣習もあります。しかしながら、週休2日もできないような業界は、若い方々に敬遠されてしまいますので、働き方改革を進め、労働環境を改善することは従前からの大きな課題でした。
そんな中、19年に施行された「働き方改革関連法」によって、建設業においても時間外労働の上限規制が導入されました。これまでの経緯から建設業は5年間の猶予が設けられましたが、逆に言えば、他産業では先んじて働き方改革が進められてきたところを建設業は5年間の「ハンデ」を負ってしまったという見方もできるかと思います。
もちろん、先述した受注産業という業界特性を踏まえれば、個々の建設企業がこれまでの業務のやり方を大きく変革しなければならず、経営上も非常に難しい問題でもあります。しかしながら、業界の魅力を高めるためには「働き方改革」は待ったなしの状況にあります。「建設業の2024問題」は、厳しい変革が求められるものの、業界として避けることのできない長時間労働解消という課題に正面から取り組まなければならない、いわば「黒船」であり、これを契機に業界の働き方を改善していくことが必要だと考えています。
建設業の働き方改革-その実現に向けたこれまでの国交省の取り組みと課題
――では「建設業の2024問題」に対応し、働き方改革を実現するために国土交通省ではどのような取り組みを進めてきたのでしょうか。また、どのような課題があるのでしょうか。
岩下 まず重要なことは適正な工期の確保です。短い工期で無理に受注すると突貫工事を余儀なくされ、現場で働く下請企業、職人の方々にも大きな負担が生じます。そのため、まず2019年に「担い手3法(建設業法、入札契約適正化法及び公共工事品確法)」を改正し、工期適正化のための制度を創設しました。具体的には、中央建設業審議会が「工期に関する基準」を作成・勧告できるようにするとともに、著しく短い工期による請負契約の締結を禁止し、違反者には国土交通大臣が勧告・公表などを行うことができるようにしました。併せて、国交省直轄工事で率先して週休2日が確保できる適正な工期での発注に取り組み、5年をかけてほぼ100%、週休2日を確保した工期での発注を行っています。これらの取り組みにより、徐々に労働時間が縮減されつつあると思っています。
一方で、現場の状況を個別に見ていくと、まだまだ課題があります。まず、工事現場を管理するゼネコンの技術者の方々。技術者は、昼間は現場の施工をチェックし、現場作業が終わった後に書類作成などに追われています。実際、これらの方々の時間外労働が大きいと思っています。さらに現場の職人、技能労働者の方々。技能労働者の方々は、日給月給、つまり働いた日数により受け取る賃金が決まる方が多いという現状があります。そのため週休2日が進むと技能労働者が受け取る賃金が減ってしまうのではないか、ということも課題として指摘されています。
また、後工程へのしわ寄せの問題。例えば建築工事は基礎、躯体、設備、内装などと順々に進められていきますが、最終工期が固定された中で前工程の進捗が遅れると、設備、内装などの後工程はそのしわ寄せを受け、最後は突貫工事になり、時間外労働が増えてしまうという問題が指摘されています。
これらの課題に向き合って、働く環境を改善していくことが必要だと思っています。