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物流の持続的成長の実現に向けて/国土交通省 平澤崇裕氏

―2024年問題に対する物流政策―

ひらさわ たかひろ/昭和47年10月生まれ、神奈川県出身、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。平成7年運輸省入省。14年外務省欧州連合日本政府代表部書記官、17年国土交通省総合政策局環境・海洋課専門官、28年自動車局審査・リコール課リコール監理室長、30年自動車局技術政策課自動運転戦略官、令和2年自動車局技術・環境政策課自動運転戦略官、3年鉄道建設・運輸施設整備支援機構施設管理部長、4年国土交通省総合政策局物流政策課長を経て、5年10月より現職。
ひらさわ たかひろ/昭和47年10月生まれ、神奈川県出身、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。平成7年運輸省入省。14年外務省欧州連合日本政府代表部書記官、17年国土交通省総合政策局環境・海洋課専門官、28年自動車局審査・リコール課リコール監理室長、30年自動車局技術政策課自動運転戦略官、令和2年自動車局技術・環境政策課自動運転戦略官、3年鉄道建設・運輸施設整備支援機構施設管理部長、4年国土交通省総合政策局物流政策課長を経て、5年10月より現職。

 国民生活や経済活動を支える重要な社会インフラの一つである物流。しかしEC 市場の急速な拡大や人口減少による担い手不足、さらに時間外労働に上限規制が盛り込まれることで物流の停滞が懸念される「2024年問題」など物流の抱える課題は多い。課題解決に向けて政府は2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を、そして10月には政策パッケージのうち早期に具体的な成果が得られる各種施策を盛り込んだ「物流革新緊急パッケージ」を発表した。喫緊の課題である2024年問題への取り組み、さらに持続可能な物流の実現に向けた取り組みについて2023年10月に再編された国土交通省物流・自動車局物流政策課の平澤課長に話を聞いた。

国土交通省 物流・自動車局物流政策課長
平澤 崇裕氏


物流を取り巻く現状と2024年問題 

――社会経済生活を営む上で欠くことのできない重要インフラの一つである物流。しかし近年、さまざまな要因から物流を取り巻く状況は大きく変化しています。また2024年には時間外労働時間の上限が制限される「2024年問題」にも直面するなど、物流は大きな変革が求められる状況にあるかと思いますが、改めて物流を取り巻く現状についてお聞かせください。

平澤 物流の現状ですが、現在、輸送重量(トンベース)では国内貨物輸送の約9割をトラックが占め、輸送距離(トンキロベース)では、自動車が約5割、内航海運が約4割、そして鉄道の占める割合は全体の5%ほどになっています。このように国内輸送の多くをトラックが担っていますが、そのトラックドライバーの働き方を全産業と比較すると年間労働時間は約2割長く、年間所得額は約1割低いことがわかっています。結果として、有効求人倍率は約2倍となっていますので、労働環境の改善に向けて2024年4月より時間外労働規制が適用されることになりました。

 具体的には、これまで適用のなかった時間外労働規制の上限を年間960時間(休日労働含まず)に、また、改善基準告示によって年間3516時間まで認められた拘束時間が原則3300時間以内になるなど、拘束時間などが強化されます。その結果〝これまで運べていたものが運べなくなる〟といった物流への影響が懸念される事態、いわゆる物流の「2024年問題」に直面しています。

 昨年、経済産業省と農林水産省との合同で立ち上げた「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、今後具体的な対応が行われなかった場合、2024年度には輸送能力が約14%(4億トン相当)不足し、その後も対応を行わなかった場合、2030年度には輸送能力が約34%(9億トン相当)不足する可能性が示されました。ここで注目してほしいのは、輸送能力の不足は2024年度を乗り越えればよいという一過性のものではなく、継続的に取り組む必要がある、構造的な課題であるという点です。

 こうした中、本年10月には国土交通省で物流・自動車局が発足。自動車局と総合政策局の物流部門を統合し、総合的に物流施策の課題に対処するための部局が再編されました。物流については、喫緊の課題として2024年問題への対応がありますし、それ以外にもトラック運送業の働き方改革の実現、物流全体の効率化、生産性向上などの取り組みを加速度的に推進する政策パッケージの実現に向けて関係省庁とも連携して対応し、さらにサプライチェーン全体の最適化、モーダルシフト、自動化・機械化などを強力に推進していく必要がありますので、そうした取り組みを実行するための新しい組織になります。

 具体的な組織体制ですが、物流政策に関する省内横断的な企画立案、総括事務を行う物流政策課を設置し、モード横断的な諸課題に対応するとともに、総合政策局の物流部門で担っていた倉庫業や利用運送事業に関する事務を新設された貨物流通事業課が担当することで、担当業務が明確化し、より緊密な連携が可能になったと考えています。

総合物流施策大綱と「物流革新に向けた政策パッケージ」

――物流の停滞が懸念されるほど危機的な状況にあると、では課題解決に向けてどういった取り組みが進められているのでしょうか。

平澤 まず、政府全体の物流施策を取りまとめた「総合物流施策大綱」があります。これは5年に一度、定期的に公開しており、最新の大綱は2年前の2021年6月に策定した第7次総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)になります。
 本大綱では、
・ 物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流)
・ 労働力不足対策と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流)
・ 強靱で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流)
――といった3本柱による取り組みを進めています。また今回の大綱でクローズアップされたのは物流DXの推進、もう一つはDXのベースとなる標準化ですので、これをしっかり進めていくことが重要になります。そして大綱は定期的にフォローアップをしていますが、施策の進捗状況を把握するための評価指数(KPI)がありますので、そのKPIを把握・確認しつつ、施策をきちんと進め、実現できるようにしていきたいと考えています。

 また先述した「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、これまで荷主、特に着荷主や一般消費者を含めて物流の担うべき役割を再考し、取り組むべき役割を検討してきました。検討会では、
・ 荷主企業や消費者の意識改革
・ 物流プロセスの課題の解決
・ 物流標準化・効率化の推進に向けた環境整備
――といった項目で検討を進め、2月に中間とりまとめを、8月に最終とりまとめを公表しました。さらに、2024年問題への対処やより多くの関係省庁で取り組みを進めていくという観点から、本年3月には「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が設置されました。第1回の会議で政策パッケージの策定することが示され、6月には、⑴商慣行の見直し、⑵物流の効率化、⑶荷主・消費者の行動変容――を柱とした「物流革新に向けた政策パッケージ」(以下、政策パッケージ)が発表されました。

 政策パッケージでは当面の進め方も示しており、まずは速やかに規制的措置の具体化を前提としたガイドラインを作成・公表する。そしてガイドラインをもとに本年末を目途として、2024年度に向けた業界・分野別の自主行動計画の作成・公表し、さらに再配達率半減に向けた対策、また標準運送約款や標準的な運賃の改正などを実施するとしています。また政策パッケージでは、2024年度に不足する輸送能力14%をどう補うのかといった施策の効果を示していますが、2030年度に34%の輸送能力不足が想定されていますので、そちらをどうするのかについても中長期計画を策定し、公表することとしています。

平澤 そして本年9月には、岸田総理が中小トラック事業者と車座対話を実施。対話の中で10月上旬には関係閣僚会議で「物流革新緊急パッケージ」(以下、緊急パッケージ)を取りまとめ、パッケージの内容を経済対策に盛り込むことが示されました。