2023/09/20
他方、成田は2028年度末を目途に、容量をかなりアップさせるつもりで計画中です。現在2本の滑走路がありますが、もう1本新しい滑走路をつくる予定で、現状年間34万回の処理を同50万回まで増やしていきたいと思います。成田の敷地面積はおよそ1000ヘクタールですが、滑走路をもう1本つくると倍の2000ヘクタールになると試算され、あたかも内陸に大型空港をもう一つつくるような作業になると想定されています。ただターミナルについては、既存のターミナルも老朽化していることから、この機に集約型ワンターミナルを整備する方向で、成田空港会社が検討を進めています。
では、伊丹、神戸、関空こと関西国際空港の関西3空港についてはどうか。現在、関経連こと関西経済連合会が座長となって関西3空港懇談会を設け、各空港をどう活用していくか継続的に議論しているのですが、このうち関空については現在1時間当たり45回の最大発着回数に対し、2025年の関西万博開催時には同60回まで容量を大幅にアップさせる方向で検討されています。この案も騒音問題等の諸制約があるため、われわれ航空局も有識者各位とともに現状のルートを生かしながら、どのような方策を講じて容量アップを図れるか検討を続け、この6月に飛行経路見直し案を同懇談会に提案するところです。
また2005年に開港した中部国際空港は、一応24時間対応の空港ではあるものの、実際には夜間に滑走路メンテナンスを行うため、かなりの時間にわたりクローズしています。オープンから20年が経過すると、滑走路は大幅改修しなければなりません。ただ、中部は深夜に貨物便が発着することも多く、なかなかメンテに十分な時間が確保できません。そこで今、誘導路になっている個所を滑走路に改造し、暫定的に2本にするという計画を立てています。
カギは国産SAFの安価調達
次いで、航空分野における脱炭素化の推進に向けた取り組みをご紹介したいと思います。脱炭素に関しては国として、2030、50年に向けてそれぞれ目標を設定して進めています。その中で航空分野は、CO2の排出という点ではそれほどポーションは大きくありません。ただし、国際航空においては脱炭素が喫緊の課題に位置付けられており、それに則り日本の国内航空も脱炭素化を進めていかねばなりません。現在、そのための制度的枠組みが構築されています。22年に航空法と空港法を改正し、法律の目的に脱炭素を位置付けました。航空事業者、空港それぞれが脱炭素に向けてやるべきことが明記されています。
まず航空事業者において今最も力を入れていることが、SAF(Sustainable Aviation Fuel=持続可能な航空燃料)の導入促進です。既存のジェット燃料に比べ、CO2排出量が60~80%ほど削減されると期待されています。しかし現在、国産のSAFはありません。開発段階です。ジェット燃料と比べると最大10倍くらい価格が高くなる可能性があり、そうなると全く採算が取れず、運賃に転嫁するにも限界があります。国産SAFをどれだけ安く調達できるか、資源エネルギー庁、石油元売り各社とともに、このテーマについて議論しているところです。今後はこのSAFの製造・流通において、22年度の補正予算で20兆円が手当てされたGX移行債を活用したく、関係省庁・関係業界と調整しています。
脱炭素化に向けてはそのほか、運航の改善によるCO2削減や新素材の技術開発の構想を推進しています。例えば水素で飛ぶ航空機。これは経産省製造産業局と連携して実用化へ向けた取り組みを進めています。
では空港の脱炭素化はどのような推進を図っているのか。空港内部の車両のEV化をはじめ、空港周辺の自治体等が所有する土地で太陽光発電を試みるなど、空港のあるエリアを再生可能エネルギーの拠点とする計画もあります。これらの構想を実行するために、現在40カ所ほど空港ごとに協議会を設け、各空港の状況に合わせた脱炭素化について議論を重ねています。この分野については民間から積極的な投資を募りたいと思い、「空港の脱炭素化に向けた官民連携プラットフォーム」を組んで、国・自治体、空港関係者、省エネ・再エネ関係企業が相互に協力体制を取る枠組みを構築しました。5月中旬現在、314者が同プラットフォームに参画しています。
〝空港業務〟の新たな取り組み
航空分野のイノベーションについては現在どのような状況か。少子化人口減、とくに生産年齢人口が加速度的に減少していく今後、どの分野も同様ですが航空分野においても人手不足が深刻化すると想定されます。航空はバックヤードを含めてかなりの人手を要するため、イノベーションやDXによって省力化・自動化を進めていかねばなりません。
同時に、技術を用いて空港での諸手続き・導線の円滑化など各種旅客サービスの充実を図る〝FAST TRAVEL〟の推進も必要です。まずは羽田、成田にて、自動チェックイン時に顔認証しておくと保安検査や搭乗前も、顔のチェックだけで通れるシステムを導入しています。
実際のところ、機内清掃や荷物の積み下ろしなどを行うグランドハンドリングや保安検査等の空港業務に携わる人員は、コロナ前から約2割減少するなど、人手不足に直面しています。需要が回復傾向にある今、人材確保が進まず、需要と供給に大きな乖離が生じています。この課題の解決のためには、自治体の協力が不可欠ですので、自治体が外国エアラインの誘致を図る際に地元の雇用も同時に顧みてもらうべく、空港ごとに空港管理者、自治体、グランドハンドリング会社等の関係者で構成される空港ワーキンググループの設置を進め、この場で人員の確保、業務の効率化等に取り組んでいます。また、国土交通省では令和4年度補正予算で、採用活動や業務効率化等の支援を実施し、空港関係事業者による合同企業説明会などの新たな取り組みも進んできているところです。さらに本年2月から、空港業務全体を対象とした初の有識者会議である「持続的な発展に向けた空港業務のあり方検討会」を設置し、空港関係者から実態を伺いつつ、取り組むべき施策の方向性について検討を進めています。
〝空飛ぶクルマ〟万博で商用飛行へ
無人航空機、つまりドローンについても触れておきたいと思います。ドローンは長らく何ら規制がありませんでしたが、2015年に官邸敷地内にドローンが落下して以後、「無人航空機に関する航空法」の制定が急ピッチで進展しました。現在は機体認証、技能証明を得て運航ルールを遵守し、国土交通大臣の許可・承認を得ればレベル4、すなわち有人地帯での目視外飛行まで可能とされています。本年3月に日本郵便がレベル4の初飛行を実施し、ドローンの利活用は新たなフェーズに移行しました。今後は飛行に伴う荷物の輸送・配送の実証が各地で盛んになるものと想定され、航空局としてもこれを後押ししていくつもりです。同時に将来、ドローンの飛行が増加するとドローン同士輻輳する可能性があるので、空域管理の発想が必要になると思われます。自治体との連携やデジタルの活用を鑑みながら今後検討していく課題となるでしょう。
一方、〝空飛ぶクルマ〟について。実際に道路を走るクルマが空を飛ぶわけではなく、小型のヘリコプターのようなイメージですが、こちらは操縦士無しの自動操縦飛行です。またヘリより騒音が小さく整備・運航費用が安いという利点があります。2025年の大阪万博において、商用飛行を実現することが目下の目標となります。それに向けて現在、機体、操縦、離着陸の各安全性についての基準づくりを進めています。一方、機体の開発は米・英・ドイツの3社が先行しており、その3社からわれわれ航空局に対し型式の申請が来ています。ただ現在は基準がありませんので、米国とEUそれぞれの航空局相当組織と連携し、その基準を日本の事業者と共同でつくっています。大阪万博ではいくつかの事業者がモデル事業に選定されていますので、必要な交通管理も含めて商用飛行が実現するよう取り組みを進めていきたいと思います。
22年12月に国家安全保障戦略が閣議決定されました。同戦略内では、有事の際の対応も見据えた空港の、平素からの利活用に関するルールづくり等を行うとされており、われわれも国家行政組織の一員として、しっかり検討に加わっていく所存です。
(月刊『時評』2023年8月号掲載)