2023/09/20
3年超にわたるコロナ禍により、航空業界は忍従の年月を余儀なくされた。今般、その反転攻勢が期待されるが、同時に航空・空港機能の高度化、ITによる省力化などの各種対応が急がれる。一方、国際的な潮流となった脱炭素に向けて、国産SAFの調達など、乗り越えるべき命題は数多い。今回は久保田航空局長に、こうした多岐にわたる航空行政の現状と今後の展望を概括してもらった。
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コロナ禍で、需要がほぼ〝蒸発〟
航空行政の使命は、まず何より「航空の安全・安心の確保」をファースト・プライオリティとし、それをベースに「利用者利便の向上」を図るというものです。この使命を実現するために、機材や運航、乗員の安全対策や航空保安対策等の安全・安心の確保を軸に、混雑空港等の発着枠確保や航空会社の事業計画の許認可、空港の維持・管理を主とする航空ネットワークの維持・充実を図り、他方で飛行場管制、管制システムの高度化、国際連携を含めた航空管制サービスの拡大などを担当しています。約6700人の人員で、年間約4000億規模の予算をもとに、これらの全体マネジメントを行っています。
コロナ禍以前まで、日本の国内および国際の航空旅客数はリーマン・ショックや東日本大震災などの影響を受けつつも、LCCのような新たなビジネスモデルの参入等により、2017年には国内が1億人、続いて18年に国際が1億人を突破するなど右肩上がりで推移してきました。が、年間を通してコロナが感染拡大を続けた2020年度は、国内が1977年当時とほぼ同程度の3300万人へ、国際に至っては69年と同程度の190万人へと急落、当然、インバウンド(訪日外国人旅行者)も19年段階で年間3188万人が日本を訪れていたのに、20年には412万人、21年は25万人まで落ち込むなど、ほぼ需要が蒸発したと言っても過言でないほど影響を受けました。
主要航空会社の業績は深刻を極め、20、21の二カ年における当期純損益を見ると、ANAは約5500億円の赤字、JALは4400億円の赤字をそれぞれ記録しています。空港使用料・航空機燃料税の軽減など各種支援措置等によって何とか手持ち資金を厚くし、自己資本比率をANAで25%、JALで33%としました。世界の主要航空会社でも自己資本比率が10%未満というケースは珍しくなく、それに比べると苦しいけれどまだまだ健全経営ではあると思います。この状況は空港会社も同様で、コンセッション空港・成田空港・羽田空港の空港施設に、整備に対する無利子貸し付けなどの支援を行いました。そして航空会社・空港会社等へのこれら支援は、この令和5年度も引き続き実施しています。
周知のとおり本年5月8日よりコロナの扱いが2類から5類に移行しました。これに伴いコロナ禍間に航空会社に要請していた搭乗者数上限も緩和するなど、日常回帰に移行しましたので、国内外旅客者数やインバウンドも回復していくものと期待されています。
ただ一方、これから航空会社は機材更新の時期を迎えるものと想定され、その投資のためには多年度にわたる税の減免措置が必要となります。それ故単年ごとに減免していた航空機燃料税を、今年度から向こう5年分にわたり減免措置するよう決定しました。コロナ対応から機材投資へフェーズが変わったというわけですが、航空機燃料税の減免は歳入に影響しますので、その意味でもぜひ活発な航空需要の回復が望まれます。
類を見ない「落下物防止対策基準」
では、これから求められる航空行政の各テーマについて検証したいと思います。
第一が、空港機能の高度化です。1967年以降、「空港整備法」に基づく1~7次にわたる空港整備5カ年計画によって、2000年代後半には滑走路が少し短いジェット化空港や逆に長い大型化空港まで含め、空港数は日本全国で97カ所に達しました。配置という点ではほぼ概成したと言えるでしょう。
そこで、今後は空港の配置や整備から、空港機能の高度化へ重点を置くこととなりました。「つくる」から「つかう」への移行です。これに基づき08年に法律を「空港整備法」から「空港法」に改正すると同時に、空港運営において民間の活力を導入すべく、10年には空港コンセッションの推進を打ち出しました。
日本には現在、羽田と成田の二つの首都圏空港が整備されていますが、世界では複数の空港を擁する首都があり、これらの都市では空港の年間処理能力が100万回を超えています。そのため日本でも、羽田と成田であわせて100万回を目指そう、という目標を立てました。
それには両空港の着実な整備が不可欠となるため、羽田に関してはさらなる発着容量を増やすべく、20年3月から東京上空の飛行ルート、つまり新飛行経路の運用を開始しています。ただ、時間は15時から19時までの、国際線の需要が高い一定時間に限定されており、また新ルートは東京の北側から入るのですがそれには南風が吹いている必要があり、こうした気象条件を鑑みると、この新ルートは年間日数の四割くらいの稼働にとどまります。当然、運用開始前には騒音対策、落下物対策等に注力しました。特に落下物に関しては、世界でも類を見ない基準である「落下物防止対策基準」を新たに策定しました。策定時、各国の航空会社にも参画してもらったのですが当初は各社とも、数万点に及ぶ部品から構成される飛行機において落下物ゼロなんて発想自体あり得ない、との反応でした。が、これを説得しつつ、ICAO(国際民間航空機関)にも理解を求め、現在は本邦航空会社および日本に乗り入れる外国航空会社に同基準を義務付けています。一方、上空を飛行機が飛ぶエリアでは、5年にわたり計140回のオープンハウス型説明会を行い、合計で3万4000人超の方々が参加、また羽田空港の機能強化に関する特設コールセンターを開設するとともに、HPや新聞、折込チラシ、交通広告等による情報発信に努めました。さらに現在、上空を通る東京内部での騒音負担の平準化を図るべく、「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」を開催し、将来的な技術革新を踏まえれば別のルートからの進入も可能ではないかとの議論を進めています。
羽田に関しては、空港へのアクセス鉄道の整備も大きなテーマです。構想としては東京駅からJR東が新規に乗り入れると同時に、現在乗り入れている京浜急行も容量アップを図るというものです。また空港の周囲はもう埋め立てする余地が無いため、中央を通る首都高速の上に人工地盤を盛って土地をつくろうかと考えています。