2022/11/02
――2016年から本格始動しているi-Constructionは、その推進に向けてさまざまな取り組みが進められています。近年の施策としてはどういったものがあるのでしょうか。
見坂 近年の取り組みの中から代表的なものについて触れておきます。まず、中小企業がICT建機を導入する際、具体的にどういった機械を導入すればいいのかわからないといった声がありましたので、必要な機能を有する建設機械、および後付け装置を認定し、その活用を支援する「ICT建設機械等認定制度」を創設しました。このほか、小規模な現場ではマシンコントロールによる施工を行っても機械の稼働率が低く、コスト面で割高になるケースがありますので、小型施工機械のマシンガイダンス技術を開発することにより、小型のマシンガイダンスバックホウを使い、安価にICT施工が行える環境を整備しています。さらに、汎用性の高いものとして、規格通りに完成しているかを確認するために、スマートフォンなどのモバイル端末を用いた出来形計測も導入しています。
そして、さらなるICT施工の普及促進に向けて、国土交通省がICT専門家を県へ派遣し、「人材・組織の育成」の実施をサポートするICT施工技術支援者育成の取り組みを20年からはじめています。
このほか、i-Construction の優れた取り組みを表彰し、ベストプラクティスとして広く紹介することで一層の推進を目的として17年から続けているのが「i-Construction 大賞」です。21年度は計22団体(国土交通大臣賞5団体、優秀賞17団体)が受賞しています。今回の国土交通大臣賞は、工事・業務部門から「UAVの自律飛行による天然ダムおよび砂防関係施設の点検・調査」(中電技術コンサルタント株式会社)。地方公共団体等の取組部門から「スマートフォンを活用した維持管理体制のDX化」(栃木県)。i-Construction 推進コンソーシアム会員の取組部門では、「オンライン点群処理プラットフォーム『スキャン・エックス』」(スキャン・エックス株式会社、現:ローカスブルー株式会社)、「ICT建機の施工履歴データとDX統合型クラウドを使った生産性向上への取組」(株式会社大林組)、「クラウド型建設プロジェクト管理サービス『ANDPAD』」(株式会社アンドパッド)が受賞しています。受賞団体をみれば、大手企業だけではなく地方の企業も受賞していることに気が付くと思います。このように地方企業にも目を配ることで、地方の企業にも積極的にICTの活用にチャレンジしていただき、その取り組みをきちんとフィードバックすることで、さらにi-Construction が全国に展開していくことを期待しています。
2025年度、そしてさらなる未来に向けた取り組み
――i-Construction では2025年度までに現場の生産性を2割向上させることを目標としています。目標達成年が近づく中、今後の取り組みについてお聞かせください。
見坂 建設現場の生産性2割向上に向けて、国(直轄工事)はある程度は到達してきており、今後の課題は地方公共団体の工事にいかにICT施工を普及させていくかにあることは先述した通りです。
そのため、ICT施工にとらわれず、インフラ分野のDXといった視点から全般的に話をさせていただきます。これまで国土交通省では、インフラ分野のDXの推進に向けて、各施策のアクションプランを策定し、取り組みを進めてきました。具体的には、インフラ分野のDXの全体像を整理し、取り組むべき個別施策を①行政手続きのデジタル化、②情報の高度化とその活用、③現場作業の遠隔化・自動化・自律化――の三つの柱で構成し、各施策の目指すべき姿、工程などを実行計画としてまとめ、取り組みを推進しています。
そうした中、本年8月24日に第6回インフラ分野のDX推進本部会議を開催し、これまでの各部局による個々の取り組みではなく、国土交通省技術基本計画で示した「20~30年度の将来の社会イメージ」の実現を目指した取り組みの深化、分野網羅的、組織横断的な取り組みへの挑戦を開始しました。具体的には、①インフラの作り方の変革。また、賢く、安全に、持続可能なものとして使っていくとした②インフラの使い方の変革。そして、インフラまわりのデータを民間の方々にもしっかり使ってもらえるよう③インフラまわりのデータの伝え方の変革――といった取り組みになります。そして各部局による個々の取り組みから道路と河川、河川と港湾というように組織横断的な取り組みに繋げることで技術の横展開やシナジー効果も期待できますので、そうした形でインフラDXを深化させていきたいと考えています。
――非常に重要な役割を担いながらもさまざまな課題を抱え、また大きな変革期にある建設・土木分野。最後に本分野の今後、あるいは将来の展望についてお聞かせください。
見坂 本年4月に第5期国土交通省技術基本計画を公表しました。その際、新たな取り組みとして、20~30年先の2040~50年頃を想定し、長期的な視点で実現を目指す「将来の社会イメージ」をイラストで形成したものを描きました。その中には「建設現場」のイラストもあり、オフィスではAIが工事の工程や安全をコントロールし、遠隔・自動で完成検査もしています。また、機械やコンクリートの性能も向上し、建設現場ではCO2排出ゼロを実現、人手不足でも生産性・安全性が最大限高まるような建設施工の自律化・遠隔化などが実現する、そのような社会イメージを描きました。そして「サイバー空間」では、生活空間を構成するあらゆるデータがサイバー空間上で相互に連携され、どこにいても多様なサービスを享受できる社会を描いています。
こうしたイラストにもみられるように、これから重要になるのは、国民の安全・安心を確保し、暮らしや経済を支えるため
に、インフラの機能を将来にわたって継続的に維持・向上させていくことになります。そのためには、データとデジタル技術をフルに活用したDXにより、建設現場を変革していく必要があります。2022年をDXによる変革に果敢に取り組む「挑戦の年」と位置付けて、これからもさまざまなことに挑戦して、インフラDXの取り組みを推進することで建設現場の働き方も変えていく、そうしたことをしっかりと実施していきたいと考えています。
今後、どの業界も人手不足、入職者不足になっていくことが想定されます。しかし、それでも建設業界は希望にあふれ、夢のある業界だと感じてもらえるようにしていきたいというのが私の思いですし、そのためには魅力的な建設現場、魅力的な建設産業を実現し、若い方に選んでもらえるような建設業をしっかりと目指していきたいと思っています。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2022年10月号掲載)