2022/11/02
激甚化・頻発化する自然災害への対応、深刻化する担い手不足、そして3Kからの脱却など、さまざまな課題に対応するため、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指し、2016年から本格的に開始された「i-Construction」。目標達成年を間近に控え、取り組みの進捗状況はどうなっているのか。また、高度デジタル社会の実現に向けて進められるDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータプラットフォーム構築に向けた取り組みなど、建設・土木分野におけるデジタル改革の現状について国土交通省大臣官房技術調査課の見坂課長に話を聞いた。
国土交通省 大臣官房技術調査課長
見坂 茂範 氏
Tweet
建設・土木分野の現状と変化
――国民生活や社会活動、経済活動を支える社会インフラを担う建設・土木分野。近年、自然災害の激甚化・頻発化をはじめ、産業の担い手不足が深刻化していますが、建設・土木分野を取り巻く現状と課題についてお聞かせください。
見坂 建設・土木分野の現状と課題についてですが、近年、気候変動の影響もあり、自然災害が激甚化・頻発化しています。2015年9月、鬼怒川の堤防が決壊した関東・東北豪雨をはじめ、16年の熊本地震、17年九州北部豪雨、18年7月豪雨(西日本豪雨)、19年東日本台風、20年と21年には7月豪雨が発生しています。また本年(22年)は8月大雨によって新潟県村上市の土石流災害や青森県鰺ヶ沢町中村川の浸水などが発生していますが、これまで被害のなかった地域でも災害が発生していることから、いつどこで災害が起きてもおかしくない状況になっています。
こうした状況を踏まえ、国土交通省は18年から「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」を、そして20年からは「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を実施しています。
一方、建設投資や建設業者、建設業就業者数については、建設投資額はピーク時の1992年度:約84兆円から2011年度:約42兆円まで落ち込みましたが、その後は増加に転じて21年度は約58・4兆円になる見通しです(ピーク時から約31%減)。建設業者数は20年度末が約47万業者でピーク時(1999年度末)から約21%減、建設業就業者数は20年度平均が492万人でピーク時(1997年平均)から約28%減という状況になっています。そして多くの産業でいえることですが、就業者の高齢化が問題になっています。建設業では就業者の3割以上が55歳以上であり、29歳以下は1割という状況が続いていました。しかし、ここ数年は人気を取り戻しつつあり、若手の割合はここ数年で若干増えつつあります。
――なるほど。では建設・土木分野ならではの課題。あるいは業界の変化といった点についてはいかがでしょうか。
見坂 現在、建設業が抱える最大の課題といえるのが2024年4月より適用される改正労働基準法における時間外労働規制、いわゆる残業時間の上限規制です。19年4月に施行され、適用まで5年間の猶予期間がありましたので、各事業者は「月に45時間以上の残業はしない」、「年間360時間以上の残業はしない」といった体制構築に向けた準備を進めているところです。
また建設業は従来、3K(きつい、汚い、危険)といわれていました。これを働き方改革の一環として、〝給料〟がよく、〝休暇〟がしっかり取れ、〝希望〟がもてる新3Kに、そして〝かっこいい〟を加えた仕事への変革を図っています。具体的な取り組みとして、給与面では、これまで10年連続で労務単価の引き上げを行い、大手のゼネコンを対象に「労務費見積り尊重宣言」促進モデル工事を導入し、下請企業から労務費などの見積りを取ったうえで、きちんと給与を支払ってもらうことを促進しています。また休暇については、国の直轄工事では原則すべての工事を週休2日の対象工事としています。そして希望という点については、i-Construction の推進などICT施工の普及を図り、かっこいい建設業を目指しているところです。
――課題解決に向けて、国土交通省ではi-Construction、そして建設分野におけるインフラDXを進めています。これまでの取り組みについてお聞かせください。
見坂 課題解決に向けた取り組みの一つに挙げられるのがi-Construction の推進です。取り組みの経緯としては、2016年9月の未来投資会議で当時の安倍総理から「建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させる」といった方針が示されました。この目標に向けて、すぐさま橋やトンネル、ダムといった公共工事の現場で測量にドローンを投入したり、施工、検査に至る建設プロセス全体を3次元データでつなぐといった新しい手法が導入されました。またi-Construction 導入時には、①ICTの全面的な活用(ICT施工)、②全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)、③施工時期の平準化等――の三つをトップランナー施策として、以降、その推進に取り組んでいます。実際、直轄土木工事のICT施工の実施率は年々増加しており、21年度は公告件数の約8割に達しています。
ではi-Construction の導入(ICT施工)によって、具体的にどういった効果があったかについて触れておきます。ICT施工の対象となる起工測量から電子納品までの延べ作業時間について、土工、舗装工や浚渫工(河川)では約3割、浚渫工(港湾)では約1割の縮減効果が表れています。もちろん工種によって違いはありますが、効果は確実に出ていますので、当初目標であった現場の生産性を2割向上させるというのは十分に達成可能だと考えています。しかし、直轄土木工事のICT施工は8割に達しているものの、都道府県・政令市では全体の約2割程度にとどまっているのが現状です。この割合をどう増やしていくか、都道府県や政令市はもちろん、市町村が行う小規模な現場のICT活用をどう広げていくかが今後の課題といえます。
また近年、インフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)が広がりをみせています。製造業と比べて労働生産性の低い建設業において、生産性向上を含め、DXによる事業全体の変革に向けた取り組みが求められています。
i-Construction とインフラ分野のDXについては、i-Construction が建設現場の生産性を向上させる目的で始まったのに対して、インフラDXは、i-Constructionを中核に、さらに発展させ、インフラの利用やサービスの向上、ソフトウェアや通信業界などの建設業界以外へ広がる取り組みといえます。これらインフラ分野のDXにより、インフラとデジタルツールを組み合わせることで、行政手続きなど気軽にアクセス可能として利便性向上を図ることや、ARやVRを使用してコミュニケーションをよりリアルにすること、遠隔化や自動化、自律化による遠隔での現場管理が可能になることを目指しています。本年3月にはインフラ分野のDX施策を具体的に進めるべく、「インフラ分野のDXアクションプラン」を策定し、個別施策ごとに具体的な工程や目指すべき姿などを実行計画として取りまとめました。
――データ活用としては、国土交通省の進める施策の一つにデータプラットフォームの構築があります。そちらについてはいかがでしょうか。
見坂 i-Construction で得られた3次元データをはじめ、国土交通省が多く保有するデータと民間などのデータを連携し、国土交通省の施策の高度化や産学官連携によるイノベーションの創出を目指す取り組みが国土交通省データプラットフォームです。2020年4月に一般公開を開始し、インフラの諸元や点検結果データ、全国のボーリングデータ、ICT施工の3次元点群データなど合計約22万件の国土に関するデータと連携し、同一インターフェースで横断的に検索、表示、ダウンロードを可能としました。以降、全国幹線旅客純流動調査、気象観測データ、BIM/CIMデータ、3D都市モデル、工事基本情報など継続的に連携データの拡充や機能改良を行っています。データプラットフォームについては、一般の方も利用できるようになっていますが、使い勝手が良くなるよう改善が必要な部分もありますので、今後もユーザーインターフェースの改良に取り組んでいきます。
また、データ連携を拡充するとともに、民間企業をはじめ、多くの方に活用していただくことで、より高度な防災情報の提供や新たなモビリティサービス、あるいは新しいインフラ社会の実現に寄与するものにしていきたいと考えています。