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国土交通省/砂防政策最前線

「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の砂防3本柱

――そうした取り組み以外にも、昨年12月には「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」が閣議決定され、災害対策をはじめ、インフラ老朽化対策にも取り組んでいくことになっています。改めて本対策について、そして砂防分野の取り組みについてお聞かせください。

今井 2018年に西日本を中心に北海道や中部地域を含む全国の広い範囲で被害が発生した平成30年7月豪雨災害を契機に、事前防災の重要性が認められ「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」が実施されました。重要インフラの緊急点検を踏まえて、特に緊急に実施すべきハード・ソフト対策を集中的に実施した本対策は、地方からも「効果があった。3年で終了することのないようにしてほしい」といった声がたいへん多く寄せられました。今般、これらの要請もあり防災に係る予算、特に事前防災対策が着実に実施できるようにする「防災・減災、国土強靱化5か年加速化対策(以下、5か年加速化対策)」が閣議決定され、今年度を初年度として取り組みをはじめているところです。

今井 砂防分野としては、①いのちとくらしを守る土砂災害対策の推進、②予防保全型維持管理への転換に向けた老朽化対策、③砂防関係事業におけるDXの推進――といった3本柱で取り組みを進めています。

――砂防分野における5か年加速化対策の3本柱とはどういった取り組みなのでしょうか。

今井 土砂災害対策は、まず住民の命を守ることが重要になります。土砂災害は命を奪う可能性が高い災害であるのと同時に、土砂が堆積することによって、復旧・復興に多くの時間と労力を要するので、地域の社会生活や経済活動といった暮らしに与える影響が大きい災害ともいえます。そのため命はもちろんのこと、地域住民の暮らしを守る災害対策を推進し、地域主体の自助・共助を積極的に支援して社会全体の強靱化を図ることが重要になってきます。
 ①は、命を守ることに加えて、物流ネットワークや電力、水道、通信、学校、病院など暮らしに直結する基本的なインフラを集中的に保全し、地域の社会・経済活動を支えていくための対策になります。

 ②は、これまでも砂防施設の老朽化対策は進めてきましたが、やはり現場では維持・管理の視点より事前防災を先に進めたいといった思いがあります。砂防政策の一つとして全国の土砂災害のハザードを明らかにしましたが、まだまだハード対策が追い付いておらず施設の老朽化対策が後回しになっている部分もありました。社会的影響度の高い要対策箇所も判明していますが、それらの整備の進捗は全体の2割程というのが現状です。これを5年間で8割まで向上させるための取り組みが該当します。大変な作業ではありますが、既に計画が策定されていますので着実に老朽化対策を進めていけるよう予算配分を行っていきたいと思っています。

――③のDX(デジタルトランスフォーメーション)については国土交通省に限らず、政府全体としても取り組んでいます。砂防分野におけるDXの概要についてお聞かせください。

今井 まず国土交通省では、社会資本整備にあたって少子高齢化・人口減少が進む中、深刻な人手不足が懸念されていますので、2016年度からICTの全面的な活用を建設現場に導入し、建設生産システム全体の生産性向上を目指すi-Constructionを積極的に進めてきました。砂防分野においては、工事現場での無人化施工技術やICT機械の導入、三次元測量などを活用した監督検査のリモート化など各建設生産プロセスで業務の効率化や安全性の向上を図ってきました。

 しかし土砂災害を防止するために建設される砂防施設の現場環境は非常に厳しいため、建設に携わる作業員の安全確保は何よりも優先させられるものになります。そのため今後は、さらなる生産性の向上に向けてBIM/CIMを導入し、調査・測量・設計・施工・維持管理の各プロセスを三次元データでつなぎ、その活用を高めるとともに、データを蓄積・運用することで新技術開発も加速していきたいと考えています。

土砂災害防止に向けたソフト対策

――5か年加速化対策以外の取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか。

今井 5か年加速化対策のハード部分については先述しましたが、それ以外、とくにソフト対策の充実も図っていく必要があります。過去の災害を教訓として昨年8月に土砂災害防止対策基本指針を変更し、住民の防災意識の喚起・警戒避難体制を推進するとしています。また土砂災害防止法の基礎調査が昨年度末に終了し、全国で67万カ所のハザードが抽出されています。抽出されたハザードから住民に区域と避難について理解していただくためには行政サイドの「知らせる努力」と精度の高い調査を引き続き行っていく必要があります。

 また全国のハザードが明らかになり、土砂災害の実態が理解できれば、行政による公助から、住民による自助・共助へと変わっていきますので、住民の「知る努力」の支援にも注力していく必要があります。

 これまでの取り組みのうち、いくつか具体的なものを挙げれば、まず「土砂災害に関する地区防災計画作成のための技術支援ガイドライン」を昨年3月に取りまとめました。これは住民が生命と財産を守るための助け合い(共助)について、自発的に策定する防災計画です。作成した防災計画は市町村へ提出し、精査を経ることで地区の地域防災計画に内容を反映させることも可能になります。平成30年7月豪雨では、自治会単位での避難計画づくりや避難訓練などが功を奏した事例もみられましたので、土砂災害に対する警戒避難体制に関して、自治会単位のように個々の世帯状況まで細分化した検討が可能な地域を防災計画設定の単位とした方が有効であるとの考えのもと地区防災の取り組みを推進します。

 二つ目は「土砂災害ハザードマップ作成ガイドライン」です。昨年度末までに全国67万カ所のハザードが明らかになり、全体の8割がマップ化されています。残りの2割についても早急にハザードマップとして整理して地域住民の理解を深めるために役立てていただきたいと思っています。

 そして災害時、土砂災害警戒情報を発しても避難しない、あるいは避難できない住民が犠牲になった事例があります。現在、土砂災害警戒区域などの指定も進み、リスク情報の整備も進んできていますが、依然として土砂災害警戒区域における人的被害は発生しています。その一因として地域住民の土砂災害リスクに対する理解不足が挙げられていますので、土砂災害に関するリスク情報に対する住民の理解と危険度の認識を高めて、実効性のある避難行動につなげていくことが必要になります。

 そこで住民が自身の居住地や勤務地などが土砂災害の危険のある地域であることを意識できるように普段から目につく町中に看板や標識を設置する「土砂災害リスク情報整備事業」を今年度から交付金事業に追加しました。地域住民がよく利用し、なじみのある場所に看板などが設置されれば、自宅だけでなく地区全体の危険箇所に対する理解も進むのではないでしょうか。

 また5月20日から市町村が発する避難勧告と避難指示が「避難指示」に一本化されました。土砂災害警戒情報が発せられた時に、避難行動を躊躇(ちゅうちょ)無く行うため、災害対策基本法に併せて土砂災害防止法の改正を行っています。さらに、要配慮者利用施設の避難確保計画、避難訓練の実施において当該市町村が助言できるよう改正を行っています。より一層リスク情報を共有し、発信していただきたいと思います。

新体制となった砂防部と土砂災害月間での取り組み

――そうした施策の実現に向けて砂防部の体制も新しくなったということでしょうか。

今井 5か年加速化対策による現場での工事の推進、そしてソフト対策による自治体の事業推進などがこれまで以上に重要になっています。そのため砂防部としても砂防計画課に新たに砂防管理支援室を設置して管理業務の支援を行っています。また5か年加速化対策の事業執行のためには、災害の現場対応を行う都道府県に対する支援強化が重要になります。そのため保全課の土砂災害対策室を強化し、先述した砂防管理支援室と一緒になって地域を支援する対策を進めているところです。

 また自治体との連携という点では、まちづくりの点からも連携を進めています。昨年、都市再生特別措置法が改正され、いわゆる「災害レッドゾーン」への業務用施設の開発が禁止されるとともに立地適正化計画の居住誘導区域から外されることになりました。現在、地方では居住の場所や基礎的な公共インフラを集約したまちづくりを行っていますが、こうした地域に接続するネットワークやインフラも保全する必要があります。これらを保全する砂防関係事業を計画的、集中的に実施するとともに、法律に規定される居住誘導区域内のレッドゾーンを解除できるようにするため、「まちづくり連携砂防等事業」を新設しました。これによって計画に先んじてハード整備を促進し、災害に強いまちづくりに注力する市町村を支援していきたいと思っています。

 そして今国会で、流域治水関連法案が成立しました。流域全体の関係者で治水対策を行う流域治水は、国土交通省が推進していくテーマになります。特に砂防分野では、土砂とともに流下する流木が下流域での大きな被害に結び付くことから、既に流木の捕捉機能の高い透過型砂防堰堤の整備を推進するなど、治山事業や森林整備と連携した砂防事業を進めています。

 気候変動に伴う土砂・洪水氾濫は毎年のように発生していますが、土石流による被害のみならず、ほぼ同時に発生する洪水流によって下流集落へ大量の土砂と流木が運ばれ、河川に大量の土砂が流入しています。これを計画的にコントロールするための土砂・洪水氾濫対策を各直轄の砂防事務所で計画しているところです。これら二つの事業は各自治体への支援につながりますので、しっかりと強化していきたいと思っています。

――毎年6月を「土砂災害防止月間」としていますが、今年の取り組みについてお聞かせください。

今井 毎年6月を土砂災害防止月間として、都道府県と協力して、住民の警戒避難など土砂災害防止の啓発活動を実施しています。土砂災害防止月間中には毎年、土砂災害防止「全国の集い」が開催されますが、今年は、新型コロナウイルス感染症の影響により時期をずらして、8月17日に和歌山県で開催される予定になっています。和歌山県では10年前に紀伊半島大水害が発生していますで、節目にあたる今年は和歌山県田辺市で「強くしなやかな国土づくりを支える砂防~紀伊半島大水害から10年、新たなステージへの挑戦~」をテーマに当時の教訓を踏まえて、実効性のある避難活動のあり方や新型コロナウイルス感染症の影響で都会から地方へと人の流れが変化する新たなステージにおいて地域の安全を確保する砂防の役割の大切さについて意見交換を行う予定になっています。

――これから本格的に雨(梅雨)、台風の季節を迎えます。最後に防災や土砂災害対策の実現に向けた国土交通省(砂防部)の取り組み、その実現に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。

今井 災害発生が差し迫った際、行政から住民に注意喚起や避難を促す情報を発信していますが、切迫感のある情報として十分に伝わらず、避難行動に結びつかない場合があります。近年は、スマートフォンなどの普及に伴い、情報入手方法も変化していますので行政機関の情報発信手段にも相応の変化が求められます。本省砂防部をはじめ、全国の砂防事務所では、情報の速報性、拡散性に優れたTwitter を活用して住民の「自主的な避難(自助)」や「避難の声がけ(共助)」を促進するための発信を行っています。

 昨年度は大雨、台風、大雪、地震などで計25回、令和2年7月豪雨の際には計9回のツイートを発信し、一連のツイートには合計約170万回の閲覧(2020年7月30日時点)がありました。現在は若い方だけではなく、高齢の方もスマートフォンを活用されていますので、SNSによる情報活用の一つとして活用していただきたいと思っています。またメディアに対する情報発信も重要になります。土砂災害は亡くなる方も多く、最近はテレビでもテロップなどで土砂災害警戒情報を流してくれるようになりました。そうした危機の差し迫った状況においても発信や支援できることはないか引き続き考えていきたいと思っています。

 最後になりましたが今年は5か年加速化対策の初年度にあたります。事前防災対策が各所で飛躍的に推進され、事業化されますので砂防分野においても、安全な施工、調査や点検が実施できるように5Gなどの新しい技術も組み込んで取り組みを強化していく予定です。この5年 間で今までできなかったことにもしっかりと取り組み、目に見える形の成果を上げていきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2021年6月号掲載)


今井 一之(いまい・かずゆき)
昭和36年11月生まれ、京都市出身。京都府立大学農学部卒業。昭和60年4月建設省(現、国土交通省)入省。平成7年中部地方建設局企画部技術管理課長、9年河川局砂防部砂防課長補佐、11年総理府(内閣府)沖縄総合事務局開発建設部技術管理官、14年中村市助役、16年国土交通省北陸地方整備局松本砂防事務所長、18年新潟県土木部都市局長、21年中部地方整備局多治見砂防国道事務所長、24年水管理・国土保全局砂防部砂防計画課砂防計画調整官、26年四国地方整備局河川部長、27年水管理・国土保全局砂防部保全課長、29年水管理・国土保全局砂防部計画課長を経て令和元年7月より現職。