お問い合わせはこちら

医療介護連携政策最前線/厚生労働省 水谷 忠由氏

オンライン資格確認の先に広がる医療DX

 オンライン資格確認のネットワークは、今後の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤となる特徴を備えています。

 全国の医療機関・薬局が安全かつ常時接続されるネットワークが構築され、そこで医療情報を個人ごとに整理した形で把握し、提供することが可能になります。さらに、医療現場での利活用に当たって、患者の同意を電子的に確実に得ることができるのです。

 現段階で利用できる情報は、医療保険の資格情報や過去のお薬情報、特定健診の結果などですが、これを拡充して手術歴、透析や移植の有無、実施した医療機関などレセプト情報の一部を更に追加しましたし、今後も情報を追加していきます。

 また、現在オンライン資格確認の仕組みで確認できるお薬の情報は、確定したレセプトに基づくものであるため、2カ月前までのものとなるのですが、今年の1月から運用が始まっている電子処方箋の仕組みが浸透していけば、リアルタイムのお薬情報を確認できるようになります。処方や調剤の際に重複投薬チェックが行われ、アラートが出る仕組みもありますので、より実効性のある重複投薬の抑制も期待できるでしょう。

 これらの情報は、自身のマイナポータルでマイナンバーカードを使って閲覧することができます。こうしたPHRについては、一定のルールのもとで民間の事業者にも参入してもらい、さまざまなアプリケーションとAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携させていくことも想定しています。例えば個人がウェアラブルデバイスで計測した運動量や体重などのデータと、マイナポータルから得られる基本情報を組み合わせたら、より行動変容につながるサービスの開発なども期待できると思います。

 40歳以上の方には特定健診を受けていただき、腹囲や血糖・脂質・血圧などで一定の基準に該当する方には、特定保健指導を受けていただいています。この特定保健指導も、24年度からの第4期では、個人の行動変容につながり、成果が出たことを評価する方向に見直すこととしています。これまでは個別支援などの介入量に応じてポイントを積み上げ、180ポイントに達したら保健指導終了としていましたが、今後は腹囲2センチ・体重2キロ減を達成した場合には介入量を問わずに終了となりますし、達成できなくても、腹囲1センチ・体重1キロ減や行動変容などのアウトカムと保健指導の介入量(プロセス)を合わせて180ポイントに達したら終了となります。受診者の行動変容を促し、生活習慣の改善に資するようにアプリなどを上手に活用していただけるよう、成果を重視した体系を取り入れることとしたものです。

医療DXの三本柱

 昨年6月に閣議決定された「骨太の方針」には、今後の医療DXの方向性として、「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」、「診療報酬改定DX」の三つの柱で進めていくことが盛り込まれています。

 健康・医療・介護に関する情報としては、保険者が持っているレセプトの情報や特定健診の結果のほかに、医療機関が持っている電子カルテや処方箋の情報、自治体が持っている予防接種や検診の情報、介護保険の情報などさまざまなものがあります。全国医療情報プラットフォームは、オンライン資格確認のネットワークを拡充し、こうした医療・介護を含む全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームです。こうした情報を利用する場面も、医療現場だけでなく、介護事業者や自治体などさまざまなものが考えられますし、マイナポータルを通じて本人も確認できるようにすることが想定されています。

 電子カルテについては、これまで各医療機関ごとに取り組みが進められてきた経緯があり、電子カルテの情報を医療機関間で共有するためには、データ出力のフォーマットを揃えなければなりません。厚労省では診療情報提供書/退院時サマリー/健診結果報告書の3文書と、傷病名/アレルギー情報/検査情報など6情報について、HL7FHIRを交換規格として標準化することにしました。また、電子カルテは400床以上の病院では9割以上で導入されていますが、200床未満の病院や診療所では導入率が5割未満にとどまっています。今後、こうした医療機関向けに、標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテの開発を検討することで、電子カルテの普及につなげていきたいと考えています。

 公的医療保険の価格表である診療報酬は2年ごとに改定されていますが、医療現場で短期間でソフトウェア改修を行う必要が生じている実態に鑑みると、この過程もDXによって効率化を図っていくことが求められています。改定前年の12月に予算編成過程において改定率が決定され、その後、翌年4月の施行に向けて中医協で個別の点数を決めていきます。中医協の答申が出るのは2月上旬になりますので、システム事業者は、告示や通知を読み解きながら短期間でシステムへ反映していくという職人技のような対応をこなしているのです。

(資料:厚生労働省)
(資料:厚生労働省)

マイナンバーカードの普及に向けて

 昨年10月、総理のもとにデジタル大臣・総務大臣・厚生労働大臣の3大臣が集まって、〝令和6年秋に保険証の廃止を目指す〟という方針が確認されました。

 既に全人口の約6割の方がマイナンバーカードを取得しており、運転免許証の数を超えて、身分証明書として一番多い数になりました。申請数は8579万枚分、交付済みは7630万枚です。その半分以上は既に健康保険証として利用登録されている状況です。しかし保険証の廃止を視野に入れると、まだ十分とは言えません。マイナンバーカードの普及を一層進めていく必要があります。

 このため、3大臣による「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」を設置し、その下の専門家ワーキンググループでは、3省庁の局長級と三師会、保険者の代表などが集まって、一体化に向けた環境整備を進めていくためのヒアリングや議論を重ねています。

 今年2月には中間取りまとめが行われました。マイナンバーカードの「特急発行・交付」の仕組みを創設します。現在は申請から交付まで約1~2カ月かかりますが、新生児や紛失による再交付、海外から転入された方などを含め、緊急性の高い事例においては、長くても10日間程度でカードを交付できる仕組みを創設し、24年秋までに開始することとしています。

 また、マイナンバーカードの交付に当たっては、申請者本人が役所の窓口で受け取る必要がありますが、例えば障害をお持ちであるとか高齢者施設に入所しているといった事情を示す証明資料を提出すれば、代理人が受け取ることができます。この代理交付申請を利用しやすくするため、対象範囲を拡充・明確化することにしました。介護施設といった高齢者が利用しやすい場所などへ自治体が出向いて出張による申請受付を行う取り組みも、引き続き推進していきます。 

 今国会にマイナンバー法等の改正法案の提出を検討しています。今後は、マイナンバーカードによるオンライン資格確認が基本となりますが、マイナンバーカードを紛失した方や取得していない方、ベビーシッターなど第三者が本人に同行して資格確認を補助する場合など、マイナンバーカードによるオンライン資格確認を受けることができない状況にある方については、本人の申請に基づき、保険者から資格確認書を提供する仕組みとします。

自らの健康・医療・介護情報にオーナーシップの意識を

 今、私が担当している医療介護総合確保促進会議では、「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿」についてご議論をいただいています。この中で、三つの柱の一つとして、「健康・医療・介護情報に関する安全・安心の情報基盤が整備されることにより、自らの情報を基に、適切な医療・介護を効果的・効率的に受けることができること」が提示されています。国民が自らの健康・医療・介護情報についてオーナーシップの意識を高めていく中で、多様な主体がこうした情報を本人の同意の下に適切に活用することで、個人の予防を推進し、良質な医療やケアを受けられることが期待できます。こうした方向で、情報の標準化や情報基盤の構築を着実
に進めていきたいと考えています。
                                          (月刊『時評』2023年5月号掲載)

関連記事Related article