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医療介護連携政策最前線/厚生労働省 水谷 忠由氏

予防・健康づくりに向けた産学官連携とデータ利活用

みずたに ただゆき/昭和48年12月25日生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。平成9年厚生省入省、29年厚生労働省大臣官房総務課広報室長、厚生労働大臣秘書官事務取扱、30年大臣官房総務課企画官、令和元年大臣官房参事官(総括調整、行政改革担当)、2年内閣官房長官秘書官事務取扱、3年10月より現職(医政局、老健局併任)。
みずたに ただゆき/昭和48年12月25日生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。平成9年厚生省入省、29年厚生労働省大臣官房総務課広報室長、厚生労働大臣秘書官事務取扱、30年大臣官房総務課企画官、令和元年大臣官房参事官(総括調整、行政改革担当)、2年内閣官房長官秘書官事務取扱、3年10月より現職(医政局、老健局併任)。

 迫る超高齢社会を前に、医療・介護体制に関する不安の声が尽きない。他方、長引くコロナ禍を経て健康需要は一層高まっている。厚生労働省は国民の期待と不安にどう応えようとしているのか、さらに政府が推進する医DXをめぐり、基盤となる PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)利活用の最新動向についても水谷課長に解説してもらった。

厚生労働省保険局医療介護連携政策課長
水谷 忠由氏


2040年を見据えた社会保障の方向性

 わが国の人口動態を見ると、いわゆる団塊の世代が全員75歳以上となる2025年以降は、高齢者人口の増加は緩やかになっていく一方で、既に減少に転じている15~64歳の生産年齢人口の減少は加速していきます。医療・福祉分野に従事している方は18年時点で全就業者の約12%でしたが、医療・福祉を必要とする高齢者は引き続き増えて、需要面から推計した医療・福祉分野の就業者数は増えていく一方、人口構造の変化に伴い総就業者は減っていくため、機械的に推計すると、40年には働く人の約5人に1人は医療・福祉分野で働いていただく必要があるという計算になります。

 どんなに少子化対策が成功しても人口構成は突然変わるものではありませんので、社会保障を持続可能なものとするための取り組みは不断に進めていかなければなりません。働く方の数を増やしていく一方で、医療・福祉について、より少ない人手で必要なサービスを提供できるよう、①働く意欲がある高齢者の方などに多様な就労・社会参加ができる環境を整備しつつ、②健康寿命の延伸を図り、皆がより長く元気に活躍できる社会を志向するとともに、③テクノロジーの活用等により効率的なサービス提供を目指す医療・福祉サービス改革を同時に進めていく必要があると考えています。

 厚労省では19年に「健康寿命延伸プラン」を策定し、健康寿命を男女ともに3年以上延伸して、75歳以上とすることを目指すことを掲げました。健康無関心層も含めた予防・健康づくり、地域や保険者による格差解消のため、自然に健康になれる環境づくりや個人に行動変容を促す仕掛けとして、PHRの活用促進やナッジ等を活用した取り組みを推進していくこととしています。

(資料:厚生労働省)
(資料:厚生労働省)

データヘルス改革が目指す未来の姿

 さて、データヘルス改革に目を向けると、厚労省では19年に「新たなデータヘルス改革が目指す未来」を大きく四つの柱に整理しました。

 一つ目はゲノム医療・AI活用の推進です。新たな診断・治療法の開発や個人に最適化された医療の提供などが期待されます。

 二つ目は、自分自身のデータを日常生活の改善等につなげるPHRの推進です。自らの健康・医療情報をスマートフォン等で閲覧することができ、これを健康管理や予防に役立てていただくということです。

 三つ目は、こうした情報を医療・介護の現場で活用していただき、患者の同意に基づき、過去の診療情報などを確認しながら、より質の高いサービスの提供を可能にするものです。

 そして四つ目は、いわゆるビッグデータの利活用です。わが国は公的医療保険制度のもと病院が医療保険を請求するために統一規格のレセプト(診療報酬明細書)を使っています。およそ240億件分のデータがNDB(ナショナル・データベース)として蓄積されており、データの利活用がしやすい土壌があると言えるでしょう。

マイナンバーカードの保険証利用が基本に

 最近、医療機関や薬局で顔認証付きカードリーダーを見かけることが増えたのではないでしょうか? 自分のマイナンバーカードをカードリーダーに置いていただくと、暗証番号を入力しなくても、カードのチップに内蔵された顔写真データとその場で撮影した本人の顔写真を照合して本人確認を行い、オンラインで保険資格の確認ができます。資格の有効期限が切れていないかどうかのほか、自己負担限度額などもわかるため、診療報酬請求の返戻といった事務コストを削減できるわけです。

 しかし、オンライン資格確認の仕組みのメリットはこれだけではありません。カードリーダーには情報提供の同意をするかどうかの確認画面が出てきて、過去の診療・お薬情報や、40歳以上の方なら過去の特定健診結果を提供するかどうかを選択できます。同意をすれば、こうした情報に基づくより良い医療が受けられるわけです。また、こうした情報は自らマイナポータルで閲覧することもできます。つまり、オンライン資格確認の仕組みは、データヘルス改革が目指す未来の二つ目の柱と三つ目の柱を同時に実現する仕組みであるということができます。

 昨年8月、中央社会保険医療協議会(中医協)において、保険医療機関・薬局にオンライン資格確認の導入を原則義務化することが決定されました。紙でレセプト請求を行っている約4%の保険医療機関・薬局は例外となりますが、それ以外の施設では23年4月から導入が義務となります。

 日本全国には医療機関や薬局が約23万カ所あり、これらにオンライン資格確認を導入していただくための改修作業は、システム事業者にとっても大変な作業量です。厚労省としても、改修に必要な費用についての医療機関・薬局向けの補助を拡充するなど、支援を強化しています。

 医師会・歯科医師会・薬剤師会の三師会から力強い協力を得られたこともあり、顔認証付きカードリーダーの申し込みは大幅に増えて、義務化対象施設の既に98・2%、約21万施設まで達しています。セットアップを終えて運用開始に至った施設も着実に増加しており、義務化対象施設の半分を超えました。

 4月までにシステム整備が間に合わない施設については、2月までにシステム事業者との契約締結が済んでいる場合には、9月末までの経過措置を設けるなど、医療現場の状況に応じた柔軟な対応をしています。

 オンライン資格確認については、医療機関や薬局の窓口以外で保険資格を確認する状況、例えば訪問診療や訪問看護、オンライン診療などの場面でも、モバイル端末でマイナンバーカードを読み込んで本人確認等ができる居宅同意取得型のシステム開発を進めています。また、柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、紙レセプトで請求している約4%の医療機関・薬局などでもお使いいただけるように、汎用カードリーダーを使って資格確認だけを実施できるシステムも開発しており、これらについて24年4月の運用開始を目指しています。

(資料:厚生労働省)
(資料:厚生労働省)

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