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産業界からの注目度を増す高専人材/文部科学省 梅原弘史氏

文部科学省高専人材政策最前線

うめはら こうじ/昭和51年2月5日生まれ、京都府出身。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了。平成13年文部科学省入省、22年ジョージワシントン大学宇宙政策研究所客員研究員、28年在ロシア日本国大使館一等書記官、令和元年文部科学大臣秘書官、3年科学技術・学術政策局拠点形成・地域振興室長、5年8月より現職。
うめはら こうじ/昭和51年2月5日生まれ、京都府出身。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了。平成13年文部科学省入省、22年ジョージワシントン大学宇宙政策研究所客員研究員、28年在ロシア日本国大使館一等書記官、令和元年文部科学大臣秘書官、3年科学技術・学術政策局拠点形成・地域振興室長、5年8月より現職。

 急速な少子化人口減が進むわが国において、産業界を担う新たな人材の育成機関として高専こと高等専門学校が大きな脚光を浴びている。若年の頃から技術と理論を一体的に涵養し、卒業後は実社会へ飛び込み即戦力の技術者として活躍する。一方でさらなる研究を深めるために大学、大学院に進学する学生も一定数いる。同制度は日本独自のシステムとして、海外からも注目を集める。この日本の教育制度の強みとも言える高専の現在について、梅原課長に語ってもらった。

高等教育局専門教育課長
梅原 弘史氏

技術と理論の一体化で就職率100%

 今、高等専門学校は産業界からも含めてかなり注目を集めています。5年間の専門教育課程で技術と理論の教育を一体となって行い、20歳になるころには自分の頭で考えてモノづくりが出来る優れた技術者になります。就職率はほぼ100%、1人あたり20~30社の求人が来ています。中学生の親の皆さんにはまだまだ理解が広がっていないこともあり、志願倍率については各校でばらつきもありますが、今後、半導体やデジタルなど成長分野の人材育成を国として推進する上でも、高専人材はまさに社会の中で大きく羽ばたく存在だと思っております。

 高専は大学と同じ高等教育機関です。戦後、日本の学校体系が「6・3・3・4制」に一本化された後、1950年代からの日本の急激な工業化に即応するため、旧制の工業専門学校が担っていたような中級技術者養成を目的とした教育機関が必要だとする声も受けて、1962年に高等専門学校制度が創設されました。一昨年で60周年を迎えています。

 教育体制は大学とほぼ変わらず、教員は教授・准教授であり、教授は基本的に博士を取得しています。学校数は全58校(国立51、公立3、私立4)、そのうち5校が商船高専で、主に将来の船乗り、船舶職員を育成しています。6カ月の乗船実習があるため、商船学科では5年6カ月の教育課程になります。また、高専には5年の過程を終えた後に専攻科という研究指導などを目的とした課程があります。5年の課程を卒業した学生には準学士の称号が与えられ、専攻科を修了すると大学と同じ学士の学位を取得することが可能です。

 学生数は1学年あたり1万人強です。今、子どもの数がだいたい1世代100万人前後ですから、約1%が高専の入学者であり卒業者であるということです。たった1%ではありますが、工学系の現場では高専の卒業生がかなり存在感を発揮しているのではないでしょうか。

 卒業後の進路は就職が約6割、進学は約4割です。就職する6割の学生のうち、多くは製造業に進みますが、最近では起業する学生や、IT系に進む学生も増えています。進学は大学の3年次に編入するパターンと、専攻科を経て大学院に進学するパターンがあります。進学する学生は非常に向学心が強く、博士課程まで進むケースが多いように思います。

 編入での進学先として一番多いのは豊橋技術科学大学と長岡技術科学大学です。この2校はもともと高専生を編入させることを目的として設置された大学なので当然ですが、他にも東大などにも一定数進学しており、有名大学に編入できるレベルの学生たちが育っている状況です。今や有名大学の卒業生が高専出身であることは珍しくありませんし、専攻科を出た学生たちも多くが工学系の大学院に進学しています。

(資料:文部科学省)
(資料:文部科学省)
(資料:文部科学省)
(資料:文部科学省)

成長分野のカリキュラムを柔軟に

 高専には機械・電気・情報・化学・生物・建設・商船などの学科がありますが、旧来のカテゴリーにとらわれず、さまざまな取り組みをしています。例えば、マテリアル、介護、防災、農林水産、エネルギーなどの各分野で拠点となる学校を定め、それぞれ社会実装のテーマを持って、複数の高専が連携してプロジェクト研究を進めるといった特色ある教育を全国で展開しています。在学中から社会課題に向き合い、ソリューションを考えるという経験を積んでいるわけです。

 また、今まさに産業界が求めている成長分野――半導体やデータサイエンス、サイバーセキュリティ、ロボット、IoT、最近では蓄電池や洋上風力も追加する準備を進めていますが――の人材育成のためのカリキュラムも柔軟に取り入れています。高専は国立であれば一法人の下に51高専がありますので、ある程度の方針を立てれば全国各地の高専に展開しやすく、小回りの利く教育体制となっているのも強みです。

 技術者として身につけるべき最低限の知識や技能については、ミニマムスタンダードとしてモデルコアカリキュラムを国立高専共通で定めており、これにより教育の質を保証しつつ、各高専の特色を生かした教育の高度化に向けて取り組んでいます。どの高専にも寮があるので、離れた地域に住む学生でも、半導体に強いとか農林水産のDX化に注力しているといった特色を踏まえて、進学先の高専を選ぶことができます。

 現在、高専未設置県(埼玉・神奈川・山梨・滋賀・佐賀)の一部では新規設置に取り組んでいるところもあります。工場立地の多い滋賀県では人材需要に対応するため、令和10年の県立高専開校に向けて準備を進めています。また、子どもの数の減少により工業高校などでも再編統合が増えている中、新たな人材需要が高まっている地域では、高専を作って技術者教育を推進しようという動きが見られます。

 数年前から、台湾TSMCの九州進出により半導体の分野で大きな人材需要が起きています。そこで熊本、佐世保高専を中心に産業界と連携し、半導体概論や設計から製造までの各プロセスの基礎を学ぶカリキュラムを作成し、九州の高専で展開しました。昨年からはラピダスが進出する北海道の四つの高専でも同様のカリキュラムを展開しています。人材育成は時間がかかるので先手を打たなければいけません。九州から北海道、さらに全国の高専に展開するという方針で取り組みを進めています。また、すべての高専で実習環境が整っているわけではないので、高度な半導体教育を行うためには企業や大学の協力が不可欠です。例えば、集積回路の製造工程を一貫して学べるラインを持つ九州工業大学や、その他の大学のクリーンルームなどを使わせていただいて実習しています。学生だけではなく、教員も含めて、急ピッチで人材育成に取り組んでいるところです。

 本科卒業後に就職する学生については、半導体の関連産業を現場で支える役割などが期待されますし、大学に編入して博士課程まで進学するような学生には、さらに高度な教育を受けて最先端の研究にも挑戦してもらうなど、現場を支える人材と将来を切り開く人材を幅広い視野で育てることに注力しております。

 現場に即した高度な技術者教育は高専だけでは成り立ちませんので、産業界、自治体、地方経済産業局などのバックアップを強く受けています。例えば、佐世保高専のカリキュラムでは、半導体概論の講義を九州の半導体のコンソーシアムや九工大の教授などにも分担していただいていますし、デバイス工学の講義では企業や産総研の協力を得て、一つ一つのプロセスを細かく教えています。また、大学や企業と協力して実習も行っています。半導体教育には設備整備も必要であり、佐世保高専への試作機器(ミニマルファブ)の導入など、文部科学省としても環境整備に力を入れているところです。

(資料:文部科学省)
(資料:文部科学省)