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技術革新が進む鉄鋼業、カーボンニュートラル実現に向けた現状と取り組み/経済産業省 鍋島 学氏

――小型試験炉の段階で33%の削減ができていると。「Super COURSE50」の実現が期待されます。では、GI基金を活用した他の取り組み、事業についてはいかがでしょうか。

鍋島 カーボンリサイクル高炉という方式で水素を活用して還元する取り組みも進められています。これについては既にJFEの東日本製鉄所千葉地区において試験炉が建設中で、来年(2025年)4月から試験が開始される予定になっています。

 それ以外の取り組みとしては、電炉を組み合わせる方法もあります。電炉による製鉄は、スクラップを集め、高電圧をかけて溶かすというもので、これは現在も行われている技術になります。この電炉については、スクラップを素材にして鉄を作っていますので、どうしても不純物が混入してしまいます。これを改善するためにDRI(Direct Reduced Iron)、あるいはHBI(Hot BriquettedIron)といった還元鉄を使用して、高純度の鉄を取り出すといった技術開発が進められています。

 現在の技術では、電炉による製鉄法で自動車向けの高級鋼などを生み出していくことは難しいのですが、DRIやHBIなどを活用しつつ、成分調整などさまざまな工夫を行うことで高級鋼を作ることができるよう、技術開発を進めているところです。

 DRIは鉄鉱石を天然ガス(メタン)などで還元したものです。天然ガスが豊富に入手可能な中東などでDRIを製造し、輸入する計画もあります。一方で、DRIの海上輸送には、発熱や発火の危険性がありますので、DRIを冷却し、突き固めて小石状のHBIに変換して輸入することが必要になります。現状、DRIやHBIに適するのは、世界で算出される鉄鋼石のうち、一部の高品位鉄鋼石に限られるという課題もあります。また、天然ガスで還元するので、還元時にCO2が発生するという問題もあります。

 このため、低品位の鉄鋼石からもDRIを製造可能にするとともにCO2発生量を削減するため、将来的には、大型電気炉の隣にDRIの製造プラントを設置した上で、水素還元する取り組みも検討されています。この場合、DRIをHBIに変換するといったプロセスを経ずに済みますし、水素を活用するので、還元時にCO2が発生しません。他方、この方法をとるためには、安価な水素を大量に用意する必要があります。もし水素で還元せず、天然ガスで還元することを続ける場合には、CCUSを組み合わせることでCO2発生量を抑制することも考えられます。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

――今後、具体的にどういった事業、プロジェクトが展開されていくのでしょうか、またその進捗についてお聞かせください。

鍋島 GI基金を活用した技術開発も推進していきますが、2020年代後半にかけては、先述したような、高炉による製鉄によらず、還元鉄やスクラップ、電炉を組み合わせた上で、高級鋼を生産する取り組みが進んでいきます。現在、いくつかの高炉メーカーでは、稼働中の高炉を停止した上で革新的電炉を建設しようという動きがあり、政策的にも支援策を用意しています。

グリーン鉄の市場拡大に向けて

――現在、国内外において「グリーン鉄(グリーンスチール)」製品販売に向けた動きが広がりつつあります。改めてグリーン鉄について、またグリーン鉄を取り巻く現状についてお聞かせください。

鍋島 これまでの話にあった水素還元製鉄やHBI、DRIを活用した革新的電炉の製鉄法などは、どうしてもコストがかかります。脱炭素化は社会において大きな課題であり、実現に向けて進めていくべきテーマでもありますが、実際に生産される鉄のコストアップについては、需要家の理解を得た上で、応分の負担をしていただかないと、こうした取り組みを継続的に維持していくことが難しくなります。

 そういう意味で、今、「グリーン鉄」と銘打った鋼材が発売されようとしています。グリーン鉄にはさまざまなものがありますが、製造時のCO2排出量を従来の鉄鋼より大幅に削減した鋼材もあります。鉄鋼業界が進めている脱炭素への取り組みをユーザー側が支援し、さらに脱炭素が進んでいくという好循環をつくっていく上で、グリーン鉄は大きな役割を果たすことが期待されます。そうしたグリーン鉄の市場を育成していくにあたって、どういった情報提供が適切か、また、施策としてはどういったことをしていかなければいけないのかといった点を考えていく必要があると思っています。

 また、グリーン鉄の提供に際し、コストアップは避けて通れない課題になりますので、どういった形でグリーン鉄の需要を拡大することができるのかという点も検討が必要です。欧州では、グリーン鉄の需要が生まれつつあり、それに伴って製造時に発生するCO2の開示ルールの整備などが行われています。また、グリーン商品の購買支援施策の中で、グリーン鉄の位置付けを明確化することも考えられます。

 そうした観点から、今秋「GX推進のためのグリーン鉄研究会」を立ち上げ、10月から検討を開始しています。研究会では学識経験者に加え、鉄鋼事業者とユーザーである自動車産業や建設産業にも参加していただきながら、グリーン鉄の普及に向けた課題について議論していく予定になっています。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

――さまざまな産業の基盤として大きな役割を担う鉄鋼業。それ故に現下の改革に対する期待も大きいかと思います。最後に政策実現に向けた思いや意気込みについてお聞かせください。

鍋島 冒頭に触れたように、鉄鋼業はさまざまな産業からのニーズに応える形で、鉄という素材を改良し、作り分けていくことで、産業競争力を下支えしてきました。また50年、100年という時間軸の中で、ずっと同じ「鉄」を作り続けていたのではなく、それぞれの時代にあわせて常に進化し、現在に至っています。

 そうした技術革新の延長線上に、水素還元製鉄をはじめとしたCO2削減技術があります。こうした鉄鋼業の取り組みを支え、新しい世界をつくっていくことは日本の産業にとって、とても重要なことです。また、わが国鉄鋼業は、技術面で世界をリードしてきており、脱炭素化に向けた技術開発にも大きな期待が寄せられています。

 一方で、こうした脱炭素化の取り組みは、現時点においては大きなコスト増を伴うものであるだけに、社会の理解があってはじめて成立するものでもあります。鉄鋼は、社会のさまざまな場所で使われ、多くの産業を支えている素材だけに、可能な限り多くの方々の理解を得ることが大切だと考えています。そうした点を踏まえながら、カーボンニュートラル実現に向けた鉄鋼業の挑戦をこれからも支援していきたいと思っています。

――本日はありがとうございました。
                                                (月刊『時評』2024年11月号掲載)