2024/12/13
世界的にも高い技術力・開発力を有し、基礎素材産業の一つとしてわが国の産業競争力を下支えする鉄鋼業。2050年カーボンニュートラル実現に向けて多くの産業が変革を進める中、CO2排出削減が困難な産業(Hardto-Abate産業)の一つでもある鉄鋼業ではどういった取り組みが進められているのか。革新的技術である「水素還元製鉄」や「カーボンリサイクル高炉」、「電炉」活用の進捗。また脱炭素化に向けた好循環を図る「グリーン鉄」の市場拡大に向けた取り組みなど、鉄鋼業を取り巻く現状について経済産業省金属課の鍋島課長に話を聞いた。
経済産業省製造産業局金属課長 鍋島 学氏
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変革する鉄鋼業、本業界を取り巻く現状
――国際的にも高い技術力・開発力を有し、世界トップレベルの高品質鋼材を供給するなど基礎素材産業としてわが国の産業と経済を下支えする鉄鋼業。現在、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて多くの産業が変革を進めていますが、CO2排出削減が困難な産業(Hard-to-Abate産業)でもある鉄鋼業の現状、また業界を取り巻く現状についてお聞かせください。
鍋島 鉄はさまざまな産業を支える基盤となる素材です。わが国の鉄鋼業は、製造業の発展とともに技術を磨き、ものづくり企業が求める素材を提供してきました。例えば、「できるだけ柔らかい鉄」、「できるだけ硬い鉄」といった現場のニーズに合わせた鋼材を作り分け、提供しています。そうしたニーズに応えることで、わが国のものづくりの国際的な競争力を支えてきた一面があります。
金属の軽さでいえば、鉄よりもアルミの方が軽量です。一方で、鉄はアルミよりもコスト面で優れています。車のボディ材に薄くて強い鉄を提供することで、コストを抑えながら車体を軽くすることができます。
また、2018年のデータになりますが、わが国の鉄鋼業の国内総出荷額は約19兆円、従業員数は22万人です。全国にある高炉一貫製鉄所は、一カ所当たり数千人規模の直接雇用を確保し、大きな製鉄所では年間1000万トン近い鉄鋼を生産・出荷しています。
このようにわが国の製造業にとって非常に重要な鉄鋼業ですが、カーボンニュートラルの観点からみると、鉄鋼業は国産業部門CO2排出量の39%、国全体のCO2排出量の14%を占めています(2021年度データ)。そのため、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、鉄鋼業のCO2排出量削減は欠かせないテーマになります。一方で、鉄鋼業の脱炭素化は、非常に困難でチャレンジングな課題です。その理由として、現行の高炉法では、鉄鉱石を還元して鉄鋼を取り出すプロセスにおいて、石炭を使うことが不可欠であることが挙げられます。自然界で鉄は、鉄鉱石(Fe2O3)として存在しています。鉄鋼石から酸素(O)を取り除く際に還元が必要になり、その還元の際に炭素(C)、一般的にはコークス(石炭)を使用しています。そのため、高炉法による鉄鋼石の還元においては、現状ではCO2の排出はほとんど不可避なものと言えます。これを技術革新や投資によって変えていこう、というのがカーボンニュートラル実現に向けた鉄鋼業における新たな取り組みになります。
水素還元製鉄、実現に向けた取り組みと進捗
――カーボンニュートラル実現に向けた鉄鋼業の新たな取り組み、その内容としてはどういったものがあるのでしょうか。
鍋島 まず挙げられるのが、石炭、コークスを使用した還元ではなく、水素を使った還元法です。鉄鉱石(Fe2O3)に含まれる酸素分を取り除くために、炭素(C)ではなく、水素(H2)を使って還元する「水素還元製鉄」の技術開発が進められています。
この水素還元技術が完成すれば、脱炭素社会において大変重要な技術になりますが、その実現には高いハードルがあります。現行の炭素やコークスを使用した還元は、発熱反応といって反応が自然に進んでいきますが、水素還元においては吸熱反応といって反応が収束していきます。このため、あらかじめ水素を高温に熱してから炉の中に注入するという技術開発が行われています。とはいえ、発火しやすい水素を熱するということなので、相当の知見やノウハウが必要になります。そのため現在、グリーンイノベーション基金(GI基金)を活用した事業として、いくつかの技術開発の取り組みが進められているところです。
こうした技術開発の一つに「Super COURSE50」があります。先述した外部から加熱した水素を用いて還元するといった技術開発試験であり、日本製鉄が君津製鉄所内に建設した小型試験炉において、本年8月時点でCO2排出量を従来の炉に比べて33%減少させることに成功しています。最終的には50%の削減を目指し、残りの50%についてはCCUS(Carbondioxide Capture, Utilizationand Storage)を組み合わせることで対応することとしています。