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サーキュラーエコノミー加速に向けた取り組み/経済産業省 田中将吾氏

たなか しょうご/昭和53年4月17日生まれ、福岡県出身。東京大学法学部卒業。平成13年経済産業省入省、29年資源エネルギー庁長官官房総務課戦略企画室長、令和2年日本貿易振興機構ベルリン事務所次長兼産業調査員、4年7月より現職。
たなか しょうご/昭和53年4月17日生まれ、福岡県出身。東京大学法学部卒業。平成13年経済産業省入省、29年資源エネルギー庁長官官房総務課戦略企画室長、令和2年日本貿易振興機構ベルリン事務所次長兼産業調査員、4年7月より現職。

 サーキュラーエコノミー(CE:circular economy =循環経済)が急速に、かつ広範に国際社会のスタンダードになりつつある。資源循環はリサイクルを中心とするエコロジーの取り組みではなく、地政学の変容を背景に経済安全保障の様相を色濃くしている。欧州では各種規則が相次いで導入され、また市場化の動きが加速、リサイクルではむしろ先行していたわが国もこの流れをもとに新たな成長への源泉として確立させたいところだ。今回は田中課長に現状分析と課題への対策を語ってもらった。

産業技術環境局資源循環経済課長
田中 将吾氏

経済安保と気候変動に対峙

 循環型経済とは、資源を効率的に循環させることによって経済合理性を高めたり、環境や経済安保に対してもソリューションとなっていく、という政策です。かつてはリサイクルが政策の中心でしたが、ここ5年ほどの間に地政学的リスクや環境問題の先鋭化等を受けて、政策的に求められる対象や目的、方向性などがかなり変容してきました。

 これまでの展開として、まずサーキュラーエコノミーという言葉がまだ一般に広く膾炙していない段階で、社会的認知度を上げるべく運動を展開してきました。これらの状況変化を背景に2023年、「成長志向型の資源自律経済戦略」を取りまとめ、次に戦略の主要な柱として、サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップを立ち上げました。そして現在、この政策を推進するための支援やルール化のバランス等を含め、小委員会にて今後の方向性を議論しているところです。

 振り返ると、1991年のリサイクル法こと再生資源の利用の促進に関する法律が制定されて以来、日本は30余年にわたり資源を循環させる政策に取り組んできました。ただ、2020年に「循環経済ビジョン2020」が制定されるまではもっぱら廃棄物処理の適正化に比重が置かれ、いわゆる〝動脈産業〟ことモノづくり産業としての責任の在り方を問う内容でした。他方、10~20年代にかけての資源循環経済政策は、グローバルな課題への対応に連動した政策、という位置付けへと大きく変容しつつあります。

 1999年に策定された「循環経済ビジョン」において、リデュース、リユース、リサイクルの〝3R〟を打ち出したところこれが広く普及し、グローバルな局面でも〝3R〟と言えば通じるほどになりました。実態としても、日本ほどさまざまな製品に〝3R〟の理念を具現化させている国はほとんどありません。海外では、日本のように食品から建築等に至るまで面的に網羅できているかというと、決してそうではないのが現状です。古より日本では〝もったいない〟精神のもと、食品残渣等を回収する文化が民間に根付いていたため、これを背景に政策へと昇華させてきた歴史があると言えるでしょう。むろん現代においては最終処分場のひっ迫、埋め立て地の不足等、現実的な課題への対応が迫られていたのも確かです。

 一方、2010年代半ば以後、新たにサーキュラーエコノミーという言葉が提唱されました。この概念が世界的に広まった背景として、資源制約リスクが地政学的な高まりとともにリアリティをもって感じられたのと、気候変動という大きな課題に対峙するソリューションとして、資源循環の重要性が意識されたことなどが考えられます。

 つまり、日本発祥の〝3R〟が海外に輸出され、海外で加工されてサーキュラーエコノミーとして日本に逆輸入されたという構造になります。とはいえ日本にも基盤インフラがありますので、「循環経済ビジョン2020」をベースに、環境活動としての〝3R〟から、経済活動としての循環経済への転換へと、旗印を大きくして取り組むこととなりました。

循環型経済の基本構造

 循環型経済の実現を目指すにあたりポイントになるのは、化石燃料や鉱石などの、枯渇性資源をどう考えるかという点です。これらの資源は取るほどに減じる一方ですので、基本的には採取量を極力少なくしつつ、採取した資源をできるだけ繰り返し使っていく人工的循環を確立する、これが循環型経済の基本構造になると思います。具体的には製品が廃棄物となったときに、どれだけ資源回収し再使用できるか、その精度と再使用率を向上させるための技術開発はどうあるべきか、できるだけ廃棄物にならないようにするにはどうすればよいか、等々の視点が重要です。

 例えば製品設計において長期利用を可能にする、製品の一部が故障したらすべて廃棄して買い替えるのではなく当該部分を修理して再び使う、という発想と方策です。そのための技術はもちろん、何より計画的陳腐化が慣習化しているメーカーと、修理するより新製品を購入しがちなユーザー双方の意識の転換が求められます。要はモノを長く使えば反比例して資源の投入量は少なくなるので、得られる便益と資源投入のバランスを、製品設計、提供、利用の在り方に至るまでトータルに見つめ直すことで資源生産性を最大化していく、これがサーキュラーエコノミーの要諦だと言えるでしょう。

 このサーキュラーエコノミーの実践がコストとして捉えられると、なかなか動いていかないかもしれません。従って、これを市場化するべく議論を進めています。2020年時点で日本のサーキュラーエコノミーの市場規模は売上高ベースで約50兆円と試算されますが、50年段階では120兆円に拡大させることを経済的目標として定めています。世界の複数の市場も同等の伸びを見せていくだろう、と予測されています。また実際に市場を拡大させる投資が進んでいることから、このまま成長に資する源泉として位置付け、それによってCO2削減や経済安保への貢献等の社会的目標の達成につなげていくことが、われわれが将来的に目指す姿となります。

 とはいえ、これら成長志向型の資源自律経済の確立に向けては問題意識も少なくありません。まず資源の面では世界的なマテリアル需要が増大し、中には将来需要が埋蔵量をはるかに上回ると想定される種類や、供給が一部の国に集中しているマテリアルもあるため、資源枯渇・調達リスクがますます増大しています。日本は先進国の中でも自給率が低い上、世界的にも質・量とも採取が難しくなり価格も上がる一方ですので、貴重な資源を可能な限り有効活用しなければなりません。かつて日本は世界トップクラスの資源購買力を有していましたが、現在は新興国の伸長により、相対的に日本の資源調達力は下落傾向にあり、この傾向は今後も続くと想定されます。環境面では言うまでもなく廃棄物処理の困難性増大に加え、政府が掲げる2050年カーボンニュートラル実現の向けては原材料産業によるCO2排出の削減が不可欠です。

 そして、先進国ではサーキュラーエコノミーに適合しない製品は排除したり、製造段階で同適合部品の使用を必須要件とされる動きが出てきているなど、資源自律経済への移行が遅れると多大な経済損失の可能性があると指摘されています。つまりサーキュラーエコノミーは成長の機会であり、同時にリスクでもあると認識しています。このような各種リスクを踏まえた上で、欧州委員会は2022年3月30日に、エネルギーや資源依存から脱却し、外的影響に対してより強靭な循環型経済への移行に向けた取り組み強化のための、各種措置を提案しました。欧州も資源は輸入側ですので、経済の自律性を担保するためには資源の確保が必要との観点から、規制的色合いを強める内容であり、つまり環境対応という大義ではありますが、極めて経済安保の性格が色濃く反映された提案となっています。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)