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商務情報政策、24年度の主要施策とは/経済産業省 野原 諭氏

◆経済産業省商務情報政策最前線

のはら さとし/昭和42年6月生まれ、福岡県出身。東京大学法学部卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院修士課程修了。平成3年通産省入省、29年経済産業省経済産業政策局総務課長、30年大臣官房会計課長、令和元年大臣官房審議官(商務情報政策局担当)、2年内閣官房日本経済再生総合事務局次長、同成長戦略会議事務局次長、3年10月より現職。
のはら さとし/昭和42年6月生まれ、福岡県出身。東京大学法学部卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院修士課程修了。平成3年通産省入省、29年経済産業省経済産業政策局総務課長、30年大臣官房会計課長、令和元年大臣官房審議官(商務情報政策局担当)、2年内閣官房日本経済再生総合事務局次長、同成長戦略会議事務局次長、3年10月より現職。


 デジタル化、AIの発展に不可欠な半導体の生産と供給は、いまや日本経済・社会の未来を左右すると言っても過言ではない。世界的に半導体需要のさらなる高まりが確実視される中、政府は現在、長らく低迷していたわが国半導体産業が反転攻勢をかける絶好の好機と捉え、あらゆる資源を投入する構えだ。今回は、広範な商務情報政策局所掌のうち、国民的に注目度が非常に高い半導体とAIを中心に、現在の状況と政策について語ってもらった。

経済産業省商務情報政策局長
野原 諭氏

半導体不足から国民を守るために

 半導体は一言で申しあげれば、あらゆる電子機器を動かすための必需品です。世界の潮流であるDX、デジタル化にはハードウェア、ソフトウェアの双方が不可欠ですが、半導体はこれらを支える基盤となります。コロナ禍の折、半導体が不足してさまざまな機器が生産できない事態に陥ったのは記憶に新しいと思います。逆に、この事案をもって半導体政策の重要性が、日本はもちろん世界的にも深く認識される転機になったと言えるでしょう。グリーン成長や地方創生、少子高齢化などわが国が対峙する今日的課題の解決にもデジタル技術は不可欠です。半導体が無ければ、国民がデジタル技術を活用して便利な生活を送ることができなくなります。

 従って半導体政策における第一の目標は半導体の安定供給を図り、国民生活や日本経済を将来の半導体不足から守ることにあります。その安定供給に資するのであれば、外資企業による日本への投資に対し、日本政府としても支援するという方針を明確に打ち出しています。

 半導体政策の第二の目標は、カーボンニュートラルです。社会のデジタル化が進むほどデータの使用量が増大し、それに伴い電力使用量が増えます。生成AIの登場で、AI関連のデータ使用量が爆発的に増加し、電力使用量も連動して増えていくことが想定されます。電力供給可能な範囲に電力使用量を抑制し、持続可能にするには、半導体を小さくして性能を上げ、省エネを実現する微細化や電気配線から光配線に切り替えることで消費電力を100分の1にする光電融合といった省エネ化に貢献する半導体のイノベーションを社会実装していくことが必要です。

 また、世界の経済安全保障環境の変容、地政学的な情勢の変化によって、半導体は経済安全保障に関連する物資であるという認識が国際社会に広く普及しています。

 かつて1980年代バブル経済の時代には、日本の半導体産業は隆盛を極め、88年には世界シェアの半分を占める状況でした。しかし日米半導体協定をきっかけとして日本のシェアは低下傾向をたどり、2019年時点で世界シェア10%まで凋落しています。このまま何もしなければ、将来的にシェアはゼロに近づいていく。そうならないよう、ここでトレンドを反転させなければ、という問題意識が現在の半導体政策の根底には流れています。

日の丸半導体凋落、五つの要因

 では、日本の半導体産業はなぜ凋落したのか。私の前々任の平井裕秀局長時代に「半導体・デジタル産業戦略検討会議」で五つの要因に整理されています。それをもとに今後の教訓を考えてみたいと思います。

 まず一番目、日米貿易摩擦によるメモリ敗戦。1980年代に世界を席巻した日の丸半導体メーカーは、日米半導体協定により自社で輸出価格を決められない等の貿易規制強化の中で衰退が始まりました。当時米国側は半導体を国家安全保障上重要な物資と捉えていたのに対し、日本側は半導体を産業競争力上重要な物資として捉えていたと当時の関係者から聞いています。両国間にこのような基本的な認識の違いがあったようです。また、日本に替わるサプライヤーとして、米国が韓国や台湾の半導体産業を育てようとした面があり、日本の半導体産業の凋落に拍車をかけました。

 二番目が、設計と製造の水平分離の失敗、です。90年代以後、半導体製造のトレンドは従来の垂直統合型から、TSMC創業者のモリス・チャンが生み出したビジネスモデルである、設計と製造の分離により、どの顧客とも競合しない水平分離(ファブレス/ファウンダリ)型の新潮流へと移行していきました。それに対し日本の半導体メーカーは垂直統合型のビジネスモデルから転換できず、新潮流に乗り遅れた歴史があります。当時の日本の半導体事業は総合電機メーカーや家電メーカーの一部門でした。半導体以外のビジネスで得た利益を半導体事業に投資することで、半導体専業メーカーが中心だった米国半導体産業に対して一時は競争力をつけた日本の総合電機メーカーでしたが、ファブレス企業とファウンダリ企業の分業体制が登場した次の局面では、競争力を失っていきました。新しいビジネスモデルを生み出すことの重要性を示唆する出来事でした。

 三番目は、デジタル産業化の遅れです。かつて日本の半導体メーカーが隆盛を誇ったころの主な顧客は国内の家電メーカーでした。その後、半導体の主な用途が家電からPCやスマートフォンへと変わり、海外顧客の獲得が必要となりましたが、このような海外顧客の獲得に失敗します。今後、AI関連で半導体需要が爆発的に増加すると見込まれるため、このようなAI関連で生まれる半導体需要をいかに獲得していけるかが、今後、わが国の半導体産業の盛衰を分ける焦点となるでしょう。

 日の丸自前主義の陥穽に陥ったのが、凋落の四番目の原因です。日本の伝統的な産業政策は国内からの税収を原資としているため、主として日本企業に対して技術開発等の予算を投じる一方、外資や外資との提携に対する支援には注力してきませんでした。日本企業だけで集まったグループへの支援に重点化すると、グループの中に国際競争力の弱い企業が含まれていた場合、結局、グループ全体が国際競争力を確保できない結果に終わる面もありました。

 最後となる五番目の凋落の原因が、少なかった国内投資や産業政策です。日本では、バブル崩壊後、民間からの投資が停滞し、政府も積極的な産業政策に踏み出さず、国内への投資が進まない時期が続きました。その間、中国、韓国、台湾といった東アジアの国・地域では、強力な産業政策で、企業の育成を後押ししました。半導体に限らずどのような産業であれ、また一国の経済や企業や個人であれ、未来に備えるための投資が滞れば次のステージで競争力が弱体化していくのは必然です。

 これらの要因によって、日本の半導体産業は世界シェア50%という世界一の状態から凋落していくこととなりました。

復活へ向けた、三つのアプローチ

 各国・地域では半導体の重要性に鑑み、また、今後10年間で世界市場が50兆円から100兆円に倍増する、あるいは、生成AIの登場でAI用半導体の需要が爆発的に増えて、150兆円に3倍増する、といった予測が国際的に共有される中で、成長産業である半導体産業を自国の基幹産業として持つべく、各国が異次元の大規模財政出動を行って、自国への誘致支援策を競う展開となっています。経済成長戦略としての半導体政策。半導体政策の第三の目標です。

 まずは米国。2022年にCHIPS 法が成立したのを受け、半導体関連の設備投資や研究開発に向け大規模な補助金供与や減税が可能となりました。トータルでは約11兆円にのぼる財政支援とされ、このほどインテルに1・3兆円の補助金を支援することが発表されています。日本の場合、設備投資補助金を受けると設備投資減税は適用対象外、つまり補助金か減税かどちらかの選択制になっているのですが、米国では同一の投資案件に対する重畳適用が可能な仕組みとなっています。まず設備投資額の25%が減税され、さらに同じ案件に補助金を投下するかどうかが審査によって決まる仕組みになっています。米国のCHIPS 法は助成率が5~15%という報道がありましたが、減税率25%を足して実質30~40%の助成率になります。わが国の設備投資補助金の補助率とほぼ同水準の助成率です。CHIPS法で措置した予算の総額を大幅に上回る申請案件が寄せられ、米国内では、予算を追加するためのCHIPS 法2.0の議論が既に始まっています。

 次いで中国では、半導体の5兆円規模の投資ファンドを二つ立ち上げており、さらに三つ目の6兆円規模の半導体投資ファンドを検討中と報道されています。報道が事実なら、合計で16兆円の半導体投資ファンドということになります。

 欧州では、各国が自国内に半導体工場を誘致するべく各々補助金を計上しており、現時点では、欧州全体で合計約7兆円の財政出動となっています。例えばドイツは国内に工場誘致したインテルに1兆数千億円、TSMCに7000億円以上の補助金を協議中と報道されています。このように、兆円規模の財政支援によってそれぞれの域内への半導体工場の誘致競争が繰り広げられているというのが現実です。

 では日本は今後、半導体産業復活に向けてどのような戦略を取ろうとしているのか。基本的な目標として、国内で半導体を生産する企業の合計売上高(半導体関連)を、2020年現在の5兆円から30年段階で3倍の15兆円へ伸ばし、日本国内で半導体の安定供給を確保したいと考えています。

 実現に向けて、三つのアプローチを想定しております。ステップ1:Io T用半導体生産基盤の強化。熊本のTSMC工場誘致が、典型的なフラッグシップ・プロジェクトになります。ステップ2:日米連携強化。次世代半導体技術の習得・国内での量産確立を図るべく、北海道千歳におけるラピダスのプロジェクトがこれに該当します。ステップ3:グローバル連携。NTTグループがリードしている光電融合をはじめとする将来技術の社会実装について、30 年代の効果発現を目指しています。これら三つのアプローチを同時に展開しつつ、足下、20年代後半、30年以降というようにそれぞれ順を追って、各ステップの効果が表れてくるようにしていく、という考え方で取り組んでいます。

 日本としても半導体関係の補正予算は令和3年度が7740億円、令和4年度が1兆3036億円、令和5年度は1兆9867億円を計上し、直近3年間で計約4・1兆円の予算を確保して、スピーディに日本国内への大型投資を実現してきました。

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