2024/06/24
続いて、スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築について。国としては現在、さまざまな形での人の育成を手掛けていますが、その代表が1年間のメンタリングを軸とした「未踏事業」です。既に著名なスタートアップ起業家を同プログラムから輩出しており、国の人材育成プログラムの中ではかなり成功している事例ではないかと思います。例えば、自身が取り組む研究内容がビジネスになり得る可能性を感じつつも、そのノウハウが乏しい学生などに対し、産業界の第一線で活躍する方々に伴走してもらい、1年後にその成果を報告するという枠組みです。その間にアドバイスを受けて知見を学び、起業・事業化への決意を固めたという若手人材が、これまで約400人にのぼります。さらにこの未踏事業を拡大するとともに、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)やAIST(産業技術総合研究所)などの他の法人や、地方独自の若手人材育成の取り組みに横展開を図っています。自分のアイデアや技術を形にしたいと思う若者の皆さま、是非ともこれらの事業に挑戦していただければと思います。
ほかにも、「カーブアウト加速等支援事業」に力を入れています。日本企業には、研究開発されたものの事業化に至らず、そのまま消滅してしまう技術が数多くあるとされていることから、これら蓄積されている技術を活用し、起業家もしくは起業の意思を有する人材に対して、研究開発費の助成や専門家による伴走支援を行うとともに、その促進のための経営人材等マッチングや技術シーズの発掘等の支援を行うという事業です。NEDOを主体として、本年3月から公募をかけており、令和6年度から事業を開始していく予定です。
また、過去1、2年でグローバル関連の施策もだいぶ進みました。例えば、起業家を海外に派遣するプログラム「J-StarX」の実施。5年間で1000人を派遣することを目指しており、23年度内に、計約370名を各国に派遣してきました。現地のVCからメンタリングを受けたり、キープレイヤーとのネットワーキング機会を設けるなどして、日本のスタートアップの挑戦を後押しします。
さらに、グローバルイベント「MOMENT2023」の開催、米国シリコンバレーにおける日本起業家の拠点「Japan Innovation Campus」の設立、海外から来日する起業家を想定してスタートアップ・ビザの確認手続きを、従来の地方公共団体だけでなく経済産業大臣が認定したVCやアクセラレータ等の民間事業者も行えるよう制度改正するなど、各種施策を推進しています。
そして、毎年パリで開催される世界最大規模のオープンイノベーションの祭典「VIVATECH」の特別招待枠国に、日本が選定されました。今年5月には日本の各企業が参加する予定となっています。
そのほか、ディープテック分野に特化した研究機能と国際標準のインキュベーション機能を兼ね備えた「グローバル・スタートアップ・キャンパス」を東京の渋谷・目黒に創設する予定です。海外の大学を呼び込み、日本で世界トップレベルの研究ができるような場所にしたいと思います。建設が最短ペースで進行した場合は、28年度にはオープンできると想定しています。
資金供給の強化、出口戦略の多様化
次いで、スタートアップのための資金供給の強化と、出口戦略の多様化についてお話します。
まず、中小企業基盤整備機構によるLP出資です。同機構は1998年度から、国内リスクマネー市場への資金供給促進を目的として、中小企業の起業や新事業展開を促進するVC等へのLP出資を実施してきました。その上で令和4年度補正予算において、資金力や海外展開ノウハウを有する国内外のグローバルベンチャーキャピタルのファンドに出資する事業を新たに創設しました。海外のVCに対しても出資できる仕組みを作った、というわけです。これまで229件のファンドに対して2898億円の出資約束を行い、出資先ファンドからの投資を通じて複数のユニコーン企業を輩出するなど実績を積んできました。
官民ファンドとしては、産業革新投資機構(JIC)もスタートアップを支援しています。23年1月にJICの子会社であるベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)が運用する2号ファンドを、また同年9月にセカンダリーマーケットや上場済みスタートアップに対する資金供給を行うJIC VGIオポチュニティファンド1号を、相次いで設立しました。2号ファンドはファンドサイズ2000億円という巨大な規模のファンドです。現在、JIC本体、2号ファンド、オポチュニティファンドそれぞれ、活発な投資や支援案件を実施中です。
また㈱日本政策金融公庫が、創業等関連の融資・保証制度を各種設けています。いきなり投資家から資金を集めるより、まず公庫から借り入れてビジネスの基礎構築を模索する起業家の方も多いので、これら公庫の融資が積極的に使われていると認識しています。さらに信用保証協会では最近、スタートアップ創出促進保証を新設しました。従来から制約になっていると指摘されていた経営者保証が、同保証では不要とされており、より活用しやすい内容となっています。
今後のカギを握る〝インパクト〟
では、スタートアップを分野別に見た場合の施策はどのような状況か。
まず、NEDOが行っているディープテック・スタートアップ支援事業について。研究開発に長期間と多額の資金を要するディープテック分野でもより多くの起業や事業成長が見込めるよう、個社に対して最大6年間・30億円という複数年度大規模予算額の支援を展開しています。実用化研究開発支援に加えて、量産化のための実証支援など、段階に応じた補助金を設けているのも大きな特徴です。
創薬ベンチャーエコシステム強化事業もあります。創薬ベンチャーが行う医薬品の実用化開発に対し、日本医療研究開発機構(AMED)が補助金を交付する事業で、創薬という分野に対する国からの高い期待が表れていると思います。
また宇宙戦略基金も新たに創設されます。民間企業、大学等が最大10年間にわたって大胆に研究開発に取り組めるよう、その結節点として宇宙航空研究開発機構(JAXA)に基金を設置し、「輸送」「衛星等」「探査等」の三つの分野において、「商業化支援」「社会課題解決」「フロンティア支援」の三つの方向性に沿って最大10年間にわたり総合的に支援するというものです。
続いて、GX分野のディープテック・スタートアップ等を対象に、創業段階から事業拡大段階において、研究開発や設備投資等をはじめとする起業・事業成長に必要な支援を実施します。GX分野は技術および事業の確立までに多くの課題を抱えることから、研究開発に加えて事業開発の支援を拡充することを予定しており、こうした幅広い支援を事業拡大段階まで複数年度で支援することは非常に効果があるものと考えています。
そのほか、社会・環境的効果を意味する〝インパクト〟という分野があり、社会課題解決と経済成長の両立を目指す主体を〝インパクトスタートアップ〟と呼んでいます。23年11月、インパクト実現へ多様な取り組みを支援する投資の拡大に向けて、「インパクトコンソーシアム」が設立されました。産学官金など幅広い関係者が協働・対話を行う場として活用することを期待しています。
さらに、公共調達の促進も図っています。米国のSBIR制度などでは国がファーストカスタマーとなってスタートアップの成長に貢献していることから、日本でも政府・自治体がスタートアップの製品を積極的に調達することでその成長を促すとともに、民間企業の導入へも波及を及ぼすなど、ビジネスの拡大にも好影響をもたらすと考えています。公共調達の促進はスタートアップへのメリットだけでなく、行政にとっても、社会課題が多岐複雑化するなかでスタートアップの新しい技術、サービスが解決に役立つのでは、と期待する声が大きいです。経済産業省では、23年4月に「行政との連携実績のあるスタートアップ100選」を制作し、HPで公表しています。
また、スタートアップ企業のビジネスにおいて核心部分とも言える規制改革について。規制改革は、スタートアップの新市場創出につながる重要な政策課題と位置付けており、規制に阻まれて創業が意欲や機会が低下するような事態は望ましくありません。従って規制改革はスタートアップ促進には必須の政策課題です。現在は「全国単位」「地域単位」の改革に加えて、「規制のサンドボックス制度」、「新事業特例制度」、「グレーゾーン解消制度」による「事業者単位の改革」といった三層構造で規制改革を推進しているところです。また、このような制度の利用を促すため、スタートアップ支援専門の弁護士による無料相談(1時間程度、2回まで)も受け付けておりますので、ぜひ一度ご相談していただければと思います。
最後に、国ではスタートアップに対する表彰制度を各種設けています。年に一回ロールモデルとなる新事業を創出した起業家やスタートアップを表彰する「日本スタートアップ大賞」や、グローバルに活躍するスタートアップの創出を目指して18年に立ち上げた「J-Startup」のほか、23年10月、前述したインパクトスタートアップに対し官民一体となって集中支援を行うプログラムとして、「J-StartupImpact」という新しいプログラムをつくりました。〝インパクトスタートアップ〟のロールモデルとなることが期待される30社を選定しています。自社が取り組む事業から創出される社会的インパクトの測定支援や、またグローバルに広がりつつある認証制度の取得に向けた専門家とのマッチング等の支援を行っていきます。
以上、非常に多くの施策を展開していますが、それでもスタートアップ政策はまだまだ発展途上だと考えています。起業に限らず、チャレンジする人々を社会全体でもっと応援していければと思いますので、より多くの方からの積極的なご意見、ご提案をお待ちしています。
(月刊『時評』2024年5月号掲載)