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地域経済最前線/関東経済産業局長 太田 雄彦氏

管内企業のプラント施設を見学する太田局長(出典:関東経済産業局)
管内企業のプラント施設を見学する太田局長(出典:関東経済産業局)

――現在の人材に、より活躍してもらうという観点はいかがですか。

太田 それも重要な方策の一つです。人材を「取り合う」のではなく、シェアしていくという発想が重要です。当局では、2022年度より、中小企業の「人材」に関する取り組みを地域の支援機関、自治体等が一丸となって面で支援する体制として「地域の人事部」を構築するなど、地域ぐるみで地域企業の人材活用・確保等に取り組んでいます。

 地域企業では、自社の経営課題を解決するための一つの手法として、外部人材の活用が広がり始めています。一方で、副業を考える人材や越境学習を取り入れたいと考える大企業からは、どのように地域にアプローチすべきかわからない、どのようなニーズが地域にあるか知りたい、といった声も聞こえてきます。そこで、「地域の人事部」が大企業・副業人材と地域企業の結節点となり、双方にとってメリットがある形で持続的な関係の構築に向けて活動しています。

 また、中小企業が、経営環境変化に対応しながら既存事業の高付加価値化や新事業創出に取り組むためには、将来と現在のスキルギャップを埋めるための「リスキリング」も重要な対策となります。そこで、23年6月、中小企業庁が策定した「中小企業・小規模事業者人材活用ガイドライン」を教材として、中小企業向けのセミナー・ワークショップを開催しました。経営戦略と連動したリスキリングの重要性の理解促進とともに、自社におけるリスキリングの導入イメージを持ってもらうことで、経営者の意識変革・機運醸成を進めていくつもりです。

不可逆な、脱炭素社会への流れ

――カーボンニュートラルへの志向はもはや不可逆な世界的潮流となっていますが、地域社会においてもその実現に向けた対応が求められる時代になったと思います。

太田 はい、気候変動問題を解決すべく、世界共通の目標として「カーボンニュートラル」を目指す動きが加速しており、日本においても、2030年度に温室効果ガス排出量を46%削減、50年にはカーボンニュートラルを実現するという野心的な目標に向かってさまざまな取り組みが始まっているところです。

 カーボンニュートラルへの挑戦は、社会経済を大きく変革し、投資を促し、企業の生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出すチャンスです。それ故、このチャンスを地域経済の成長にもつなげていくことが必要です。この大きな潮流の中、地域経済の成長を担う中小企業等の地域企業は、コスト負担の増加やルールチェンジによるリスクの側面を意識しつつも、カーボンニュートラルへの挑戦を成長の機会と捉えて、生産性の向上や新事業の創出など、自らの稼ぐ力の強化につなげていくことが求められます。

 当局では、関係機関との連携による支援ネットワークを形成し、カーボンニュートラルに伴う事業環境の変化等の情報を的確に地域に届けつつ、地域企業や自治体等に寄り添いながら、企業のイノベーション創出、地域のエネルギートランジションや脱炭素化による地域活性化につながる取り組みをサポートし、これらを通じてカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。

――この3月で、東日本大震災から13年が経ちました。現在の被災地支援の模様を教えてください。

太田 震災からの本格的な復興を図るため、経済産業省では「魅力発見!三陸・常磐ものネットワーク」を立ち上げています。これは、ALPS処理水の海洋放出に伴う風評被害の発生を抑制・払拭することを目的に、政府、自治体、産業界等が連携して、「三陸・常磐もの」の魅力を発信し、消費を拡大する取り組みですが、おかげさまで参画組織が累計1100者を超えました。今年1月22日から3月24日まで「三陸・常磐ウィークス第3弾」として、魅力発信イベントの実施や、社食・弁当等の一層の消費拡大を呼びかけ、2月には1周年記念弁当なども販売されました。引き続き、三陸・常磐地域の海産物の美味しさを知っていただき、日常的に海の幸を食べるきっかけとしてご利用いただければ幸いです。

問われる「現場力」

――2025年大阪・関西万博の開幕まで1年あまりとなりました。万博開催の意義、そして成功へ向けた関東経済産業局の対応状況はいかがでしょうか。

太田 万博は、多くの企業や地域が取り組んでいる社会課題の解決やSDGs の達成に向けた活動との親和性が高く、またDXによる社会変革の新たな形や、地球環境問題への新たな挑戦の形を世界に示す、日本の飛躍の契機となるものです。

 それ故、会期中はもちろん、「TEAM EXPO2025」プログラムへの参加など、自治体や商工団体、中小企業などさまざまなプレイヤーが会期前から参加・活用いただける枠組みが用意されています。万博でこんなことをやりたい、という相談がありましたら、ぜひ関東経済産業局までお問い合わせいただきたいです。また、チケットの販売も開始されていますので、現地に足を運んでいただき、盛り上がりを体感し、その感動を次の世代に伝えていただくことを期待しています。

――当面の課題対応に目が行きがちですが、日本経済に対する中長期的な局長の展望、それに基づく抱負などをお聞かせ願えましたら。

太田 日本経済は今、長年続いたデフレ構造から新しい経済ステージへと移っていく、千載一遇のチャンスを迎えていると捉えています。実際に昨年は、賃上げや設備投資がともに30年ぶりの高い水準となるなど、潮目の変化が生じています。

 そのため、昨年末に打ち出した「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を活用し、生産性向上に向けた中堅・中小企業の省人化・省力化投資の後押し、デジタル化(DX)や脱炭素社会(GX)の実現、イノベーションの推進などを通じて、潮目の変化に見合った「変革」の実現に向けた支援に取り組んでまいる所存です。

 他方で、長く続いた停滞は新しい日常となって慣性を生み出し、変化に対する摩擦となることもあるかもしれません。そこで必要となるのが、「現場力」です。

――具体的にはどのような「力」でしょう。

太田 「現場力」とは、さまざまな課題と直接向き合うことになる現場に求められる力であり、現場・現物・現実の経験に基づいた実践知です。日本のものづくりの現場で行われた「カイゼン」は、まさに現場からの提案(実践知)です。

 不確かで予想が難しく絶えず変化している世の中において、〝湾岸署〟である当局は霞が関にある〝本庁〟以上に「現場力」を磨き上げ、スピード感を持って地域経済の変革やさまざまなリスクへの対応を進めていかねばなりません。そのため現在、「KANTO DUO」という職員の局内兼業プロジェクトを実施中です。たとえば、DUOの取り組みの一つとして、当局職員が各地域のスタートアップコミュニティに不定期常駐する取り組みを実施しています。

 DUOの取り組みなどを通じて、経験値アップ、経験・スキルの伝承、仕事まわし等を行い、現場力を高めつつ、職員一同、積極的に現場に足を運び、地域の皆さまと一緒に悩み、考え抜く、そうした姿勢を貫きながら、地域企業の稼ぐ力の向上につながるさまざまな施策を通じて、地域経済の活性化に貢献していきたいですね。

――本日はありがとうございました。
                                             (月刊『時評』2024年4月号掲載)