2024/04/12
――冒頭、新たな取り組みの一つとしてSDVのお話がありました。では、その概要について。そして産業競争力強化の観点から進められるデータ連携についてお聞かせください。
伊藤 昨年の「Japan Mobilityshow2023」では、新たなモビリティの形として、車内空間をいかに快適に楽しく使うかなど各社工夫をこらしたり、クルマと異業種のコラボレーションなどさまざまな展示がありました。このように、ユーザーに選ばれる新たな付加価値を提供していくためにも、デジタル技術を活用して、クルマづくりのスピードを上げ効率化しつつ、機能やサービスの高付加価値化を目指していくことが今後、競争上重要になってきます。
また、SDV化の進展により、自動車の産業構造も変化してくると考えています。海外では、テスラが半導体設計を内製化するなど垂直統合をさらに拡大したり、あるいは、ソフトウェア開発に注力して車両などハードは外注していく水平分業型のビジネスモデルを志向するような企業も出てきています。現在の、OEMとティア1(一次サプライヤー)やティア2といった構造が、今後、異業種やコア部品メーカー、新興スタートアップ企業など多様なプレイヤーが出現し、新たな産業構造を形作っていくと考えています。
このSDV化のグローバルな流れは早いため、自動車メーカーが個社単位で全て勝負していくことは難しくなってくると考えています。現在、モビリティDX検討会において、競争・協調領域の在り方について議論を行っていますが、例えば、生成AIのような新たな技術の利活用推進、シミュレーション環境の構築によるクルマ開発のバーチャル化の加速、あるいは車載ソフトウェア開発加速のためのAPI標準化など、SDVを構成する重要な技術や開発環境について、今後、具体的な方向性について示していく予定です。
個社を超えたデータ連携については、欧州は「Catena-X」と呼ばれるモビリティのデータ連携基盤を昨年10月から運用開始しています。足下では蓄電池のカーボンフットプリントがまず対象になっていますが、今後、蓄電池以外にも広がっていくことが見込まれています。欧州では、中国からのEV輸入が急増しており、こうした規制と認証、データ連携を戦略的に組み合わせることで、自分たちの産業競争力確保を念頭に置いて行動しているようにも見えます。
こうした動きを踏まえつつ、現在、次のユースケースについて、産業界と議論をしています。サステナビリティやサプライチェーン強靱化の観点から、特に緊急性・重要性の高い項目からのデータ実装を来年度から開始していく予定です。
――大きな変革期にある自動車産業。われわれの日常生活においても欠くことのできない分野だけに高い関心が寄せられています。最後に政策実現に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。
伊藤 自動車産業は大きな変革期にあります。特にグローバルに起きている変化をしっかりと見据えて、日本のリーディング産業として世界に伍していくか、官民一体となってスピード感をもって議論を進め、モビリティDX政策として方向性を打ち出していきたいと考えています。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2024年3月号掲載)