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経済産業省自動車政策最前線/伊藤 建氏

変革する自動車産業。DXやGXといった新たな潮流への対応

いとう たける/昭和55年生まれ、群馬県出身。東京工業大学工学部卒業。平成17年経済産業省入省。令和3年2月通商政策局政策企画委員、同年7月厚生労働省大臣官房総務課企画官(医薬・生活衛生局併任)を経て、5年7月より現職。
いとう たける/昭和55年生まれ、群馬県出身。東京工業大学工学部卒業。平成17年経済産業省入省。令和3年2月通商政策局政策企画委員、同年7月厚生労働省大臣官房総務課企画官(医薬・生活衛生局併任)を経て、5年7月より現職。

 “100年に一度の大変革期”と呼ばれたCASE以降、自動車産業の変革が続いている。よく耳にする自動運転は実証から実装段階へ進み、車載用蓄電池はその性能が著しく向上している。またデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)といった新たな潮流への対応として進められているソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)やグローバルな競争力強化に向けたデータ連携などは産業構造の根幹を変えかねない。では、そうした取り組みの進捗、そして自動車産業を取り巻く現状はどうなっているのか。変革への対応として昨年(2023年)7月に新設された経済産業省自動車課モビリティDX 室の伊藤室長に話を聞いた。

製造産業局自動車課モビリティDX室長 伊藤 建氏

変革する自動車産業を取り巻く現状

――CASEと呼ばれる大変革、そして環境対応などの新たな取り組みなどもあり自動車を取り巻く状況が大きく変わろうとしています。また自動運転の実現や車載用蓄電池の開発などにも高い関心が寄せられていますが、改めてわが国自動車産業を取り巻く現状についてお聞かせください。

伊藤 自動車産業は日本の経済と雇用を支えてきた屋台骨といえます。その出荷額は製造業の約2割、そして550万人の雇用を支えており、CASEと呼ばれる変革期においても、その重要性は変わりません。

 例えば、自動運転については、米国や中国の一部都市では、ロボットタクシーの運用が進んでおり、日本では、昨年(2023年)5月に福井県永平寺町で第1号となる電動カートを用いたレベル4の運用が始まっています。また、車載用蓄電池についても、EVのグローバルな開発競争が激化する中、全固体電池の実用化に向けた取り組みなど、各社しのぎを削って研究開発を進めています。

 こうした、現在、足下で起きているデジタルトランスフォーメーション(DX)や、グリーントランスフォーメーション(GX)という潮流に対して、引き続き、日本の自動車産業が対応し、またグローバルなリーディング産業としての地位を確保し続けていくことが非常に重要になります。

――変革する自動車産業。対応として経済産業省の施策・取り組みにはどういったものがあるのでしょうか。

伊藤 DXへの対応として、これまで経済産業省では、①自動運転の実現と必要な技術開発の支援、②MaaS(Mobility as a Service)の推進などに取り組んできました。とりわけ自動運転は研究開発実証段階から、いよいよ実装段階に移りつつあります。いち早く実装を進めることで物流問題や地方の足の課題解決に貢献しつつ、海外勢の台頭著しい中、中長期的に勝てるグローバルな市場環境をどう形成していくのかが重要だと考えています。

 加えて、クルマづくりがリアルからバーチャルにシフトしていく、あるいはハードからソフトに自動車の付加価値がシフトしていくといった変化への対応です。本年1月のCESなどでも、こういったSDV(Software Defined Vehicle) 化の流れに注目が集まっており、日本の自動車産業としてどう対応していくか喫緊の課題です。これまで、ソフトウェア人材不足など海外と比べるとどうしても日本はこの分野は遅れがちと言われてきていますが、個社での競争に加えて、協調領域を拡大していくことで、自動車産業全体としてDX化を加速していくことが重要だと考えています。

 また、GX対応やサプライチェーン強靱化を背景とした、企業を超えたデータ連携の仕組み構築の動きも進んでいます。欧州ではバッテリー規則が2026年に導入予定であり、搭載する蓄電池のカーボンフットプリントについて、海外OEMも含め報告を求められるようになります。また、震災など有事の際には在庫状況や工場の被災状況についての速やかな情報共有が重要です。このような、企業の枠を超えたデータ連携基盤を構築することで、新たな付加価値を生み出していくため、「ウラノス・エコシステム」の下でのデータ連携基盤整備に取り組んでいます。

 こうした問題意識の下、昨年7月に自動車課にモビリティDX室を立ち上げました。そして、昨年12月からモビリティDX検討会を新たに開催し、議論を進めているところです。

国内初のレベル4自動運転移動サービスと各国の動向

――では、具体的な部分について伺わせていただきます。自動運転の実証として2023年5月より進められている「福井県永平寺町における国内初のレベル4自動運転移動サービス」。その概要についてお聞かせください。

伊藤 福井県永平寺に向かう参道の一部、約2キロ区間を電動カートがレベル4で走行するプロジェクトです。昨年4月に改正道路交通法が施行され、国内公道でのレベル4走行が可能になったことを受け、法改正の翌月に運用開始した国内第1号案件になります。これまで多くの方に乗車頂くなど、地元の交通の課題解決や観光資源として活用頂いていると承知しています。現在はシステム改修対策のため運休していますが、今春以降に運行再開予定です。

――レベル4の自動運転。その実証が進んでいることに期待が高まります。また先ほどアメリカや中国ではロボットタクシーが既に走行しているといったお話がありましたが、各国と比べて日本の自動運転の取り組みは遅れているということでしょうか。

伊藤 日本は2021年には世界初のレベル3車両をHONDAが発売するなど、世界的に自動運転をこれまでリードしてきました。一方、足下では米中においてレベル4のロボットタクシーが先行して運行している状況には強い危機感を持っています。一定程度のリスク許容可能な社会受容性の違いなどがあるため、一概に日本が遅れているとはいえないと考えていますが、日本がグローバルな開発競争に負けないよう、①技術面、②事業性の確保、③制度面、④社会受容性の向上についての取り組みを進めています。具体的には、昨年には「L4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」を立ち上げ、関係省庁にまたがる許認可プロセスを円滑化する仕組みを構築するなど、取り組んでいます。

――では、永平寺町以外の自動運転サービスとしてはどういった事例があるのでしょうか。

伊藤 まず、喫緊の課題である物流の「2024年問題」への対応として、レベル4の自動運転トラックを新東名高速道路の駿河湾沼津から浜松の約100キロ区間において2024年度中の運行開始を予定しています。昨年6月からデジタルライフライン全国総合整備計画策定の中で、国土交通省、総務省、警察庁、デジタル庁など関係省庁と議論を進めているところです。例えば、インターチェンジなどから本線に合流する際、車両のセンサーでは把握することができない本線走行車両の接近情報、あるいは故障車や落下物の有無などの先読み情報を自動車に提供する仕組みの構築を進めています。

 また、2025年4月には大阪万博が開催されます。NEDOのグリーンイノベーション基金を活用して、レベル4の自動運転バスの準備を進めています。万博を通じて日本でレベル4が当たり前に走行出来る社会になったことを世界に発信できればと思っています。

 個別のプロジェクト以外については、自動運転を支えるコア技術開発に取り組んでいます。自動運転の実現には、大量の情報を周辺環境から集め、それをリアルタイムで超高速処理していかなければいけませんので、より高度な半導体性能が必要になります。このため、車載用半導体の技術研究組合「ASRA」を昨年末に立ち上げ、システム・オン・チップ、いわゆる車載用先端半導体の規格、量産化をオールジャパンで行う体制を構築しています。


                                     

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