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経済産業省素材産業政策最前線/土屋 博史氏

カーボンニュートラル実現に向けた素材産業の革新と今後の展望

つちや ひろし/昭和48年11月生まれ、神奈川県出身。東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻。 平成10年通産省入省。28年新エネルギー・産業技術総合開発機構ワシントン事務所長、令和元年経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長、2年資源エネルギー庁資源・燃料部石炭課長、3年長官官房カーボンリサイクル室長併任、4年経済産業省商務・サービスグループ参事官(併)博覧会推進室長を経て、5年8月より現職。
つちや ひろし/昭和48年11月生まれ、神奈川県出身。東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻。 平成10年通産省入省。28年新エネルギー・産業技術総合開発機構ワシントン事務所長、令和元年経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長、2年資源エネルギー庁資源・燃料部石炭課長、3年長官官房カーボンリサイクル室長併任、4年経済産業省商務・サービスグループ参事官(併)博覧会推進室長を経て、5年8月より現職。

 化学や鉄鋼、紙・パルプ、セメントといった部素材をさまざまな産業に提供することで雇用や地域経済を支え、また高付加価値と高い製造技術によってわが国の産業競争力を支える源泉の一つでもある素材産業。一方で、エネルギー多消費産業である素材産業は、2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて、産業構造そのものの変革が求められる産業でもある。では、変革の実現に向けてどういった取り組みを進めているのか。変革する素材産業の現状から、「新・素材産業ビジョン」に続き進められるGX 実現に向けた「分野別投資戦略」について素材産業課の土屋課長に話を聞いた。

経済産業省製造産業局素材産業課長
土屋 博史氏


素材産業の概要から産業を取り巻く現状と課題

――化学や紙・パルプ、セメントなど産業が広範囲にわたり、また、その産業規模から日本・地域経済の基幹産業ともいわれる素材産業。改めて素材産業の概要から産業を取り巻く現状と課題についてお聞かせください。

土屋 鉄鋼や非鉄金属、化学、紙・パルプ、セメントなどを取り扱う素材産業は、製造業GDPの3割を占め、鉄鋼22万人、化学100万人の雇用を支えるとともに、工場が立地する地域経済のけん引役も担っています。また高い技術力を有し、国際市場でも高シェアを占める製品も多く、その生産プロセスにおけるエネルギー効率は最高水準を誇るなど、産業全体の競争力の源泉として重要な位置を占める基幹産業でもあります。

 なかでも化学産業は、ナフサ分解によってエチレンなどの基礎化学品を製造・供給することで、自動車や電気電子産業といった川下産業の競争力の源泉となってきました。また化学産業は、半導体材料やディスプレー材料、蓄電池材料などの機能性材料に注力しており、各社とも、売上規模は小さくとも世界シェアの高い製品も有し、こうした分野で着実に利益を上げています。そのような機能性化学品をより国際競争力のある価格で製造するためには、競争力のある価格による基礎化学品の提供が求められ、サプライチェーンにおける安定供給の観点からも、パイプラインで結合したコンビナートが立地・発展してきました。

 ナフサ分解炉の稼働率については、80年代初頭以降、バブル期に向けて生産能力は拡張したものの、バブル崩壊後は緩やかに内需と生産能力との乖離が拡大。内需と生産能力の乖離は現在も継続しており、その稼働率は構造調整を行った2012年頃と同水準まで落ち込んでいます。自動車向けや機能品など差別化できている誘導品は国際市場の影響を受けにくいものの、汎用品などは国際市場の影響を受けて収益が低下しており、今後は稼働率を適正化して財務状況を筋肉質にすることで、GX投資の原資を捻出して国際競争をリードしていく素地にしていく必要があります。

 また製造業が抱える課題の一つに若年就業者人口の減少があります。世界トップの生産技術を実現する人材を確保・育成し続け、開発・生産への効率化とイノベーション創出に向けて、MI(マテリアルズ・インフォマティスク)による開発の加速といったデジタル化を最大限活用する必要があると考えています。

 そして鉄鋼・化学など、その製造工程においてCO2排出が不可避である素材産業は、産業部門のCO2排出量の約8割を占めており、2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、生産プロセスそのものの転換が求められる産業でもあります。

課題解決に向けた対策

――そうした課題に対して、経済産業省(素材産業課)では、これまでどういった対策を進めてきたのでしょうか。

土屋 これまでの取り組みとして、2021年12月にはトランジション・ファイナンスに関する分野別技術ロードマップを策定。22年4月には「新・素材産業ビジョン」を通じて、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則り、着実なCO2削減の取り組みを行う企業に対して、その取り組みを支援することを目的とした新しいファイナンス手法や、国際市場で勝ち続ける新たな素材産業への革新に向けて官民が共有すべきビジョンについて整理を行いました。そして本年、GX実行会議において分野別の投資戦略を策定し、投資促進につなげていく流れとなっています。

――GX実行会議における分野別の投資戦略に向けて、10月の「GX実現に向けた専門家WG」で分野別投資戦略について検討されたと伺いました。では、この専門家WGとは何か。またWGで検討された分野別投資戦略についてお聞かせください。

土屋 製造工程で多くのCO2を排出する化学産業においても、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、GXのチャレンジが進められています。昨年、GX基本方針に基づき、国が長期・複数年度にわたるコミットメントを示すと同時に、規制・制度的措置の見直しを示すべく、22分野において〝道行き〟が提示され、この中に「化学」「紙・パルプ」「セメント」が含まれています。

 この〝道行き〟を「分野別投資戦略」として専門家の知見を伺いながらブラッシュアップすべく、「GX実現に向けた専門家WG」が開催され、化学産業は10月5日、紙・パルプおよびセメントについては10月26日に議論が行われました。GX実現に向けては、CO2排出量の多い部門について取り組む必要がある中、ここでは排出削減を効果的・効率的に実現する技術、特に産業競争力の強化・経済成長に効果の高いものに対して、GX経済移行債を活用した「投資促進策」を講じていくこととしています。

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