2022/10/17
――お話を聞くと関西圏に関しては既に一定の気運は高まっているように思われますが、局長の感触としてはいかがでしょうか。
伊吹 日常的に万博は話題になりますし、報道やTV番組で取り上げられる機会も増えているように感じていますが、関西圏でも大阪とそれ以外、パビリオンの出展者とそれ以外の中堅・中小企業では、若干、熱量の差が感じられ、全国となるとその差はさらに大きいと想定されます。オリンピック・パラリンピックでは選手の事前合宿などを行うホストタウンの取り組みで全国の自治体が盛り上げを担っていましたが、今回も全国で高い熱量の盛り上がりを期待したいところです。
多くの人が来場するよう、企業や自治体等が開催へ向け主体的に参画するように、地元・関西で、他地域のモデルとなる機運醸成を進めていきたいと思います。
――関西が一つのモデルになるべきであると。
伊吹 はい、関西がモデルとなって、その機運が各地に伝播していけば、と思います。そのためには万博会場の周辺自治体だけでなく、関西圏の多くの市町村の魅力を明確な形で発信することで、関西以外の自治体が、自分たちも魅力向上のための活動を行ってみようか、あるいは関西の自治体と連携していこうかなどの活動に繋がることを期待しています。
最近では、和歌山県で経済団体と自治体を核とした万博を推進する協議会が発足したり、兵庫県が県内の地場産業や文化を感じることができる現場をパビリオンに見立てて多くの人に訪れてもらうフィールドパビリオンの募集を始めたり、幅広い主体の参画を後押しする動きが出てきています。
――PRの発信先は国内外問わず、というところでしょうか。
伊吹 そうですね、国内外を問わずですが、おのおのの主体が訴えたい相手や活動・イベントの内容によって、PRするメディア媒体を考える必要があると思います。
――地域発のPRには、多角的な連携が必要とされるところですね。
伊吹 今までも各地の取り組みや活動を取り上げて、万博に向けて関西ではこのような動きが出てきています、という発信をしてきましたが、地域でこれらの活動を行う場合は産業界と自治体が協同して行うケースが多々あります。
先ほど事例にあげた産地ブランドにしてもオープンファクトリーにしても、主役は産地のものづくり企業だったり工場の経営者の集まりだったりするわけですが、自治体の目線で見ると、人が集まってイノベーションが起きる、観光に繋がるという意味で、とても大事な地域の資源になっています。どちらの事例でも、産業界と自治体の連携は自然に行われています。オープンファクトリーでは、新しい地域が既存の地域を参考にしてこの1~2年で新しく取り組みを開始したり、地域同士の連携の事例も出てきており、手応えを感じています。
一方、地域としてまとまってPRするのとは別に、業界ごとにまとまってPRするという方策もあります。例えばお酒であれば日本酒の全国団体が夢洲の会場でPRイベントを打つというプランも考えられるでしょう。地域単位あるいは業界単位、おのおの利点がありますので、有効な方法論を考えてもらえればと思います。
中堅・中小企業、市町村、教育機関、経済団体等にとっては、来年始まる夢洲会場のイベント募集を睨みつつ、どの単位でPRするのか、どの媒体を使ってPRするのか、地元にどう誘導するのかを検討し、具体的な取組内容を決めるという意味で、この1年は、PRを効果あらしめるための勝負の1年だと思います。
地元の産品・技術・観光や万博のテーマに関連した地元の取り組みなどを、夢洲会場のイベントスペースを活用して大いにPRして頂きたいですね。協会もイベントスペースを積極的に活用してもらうよう、この春から発信を始めましたが、まだ知らない自治体や中小企業も少なくないようです。自治体、経済団体、大学などには、ぜひ検討頂ければと思います。
その上で、万博の開催地や開催期間を越えて、万博前や後、また地元での活動も含めて総合的にPR戦略や経済効果を狙っていくことが、万博というイベントを最大限活用し、後の世代にレガシーを末永く残すことに繋がると期待しています。
長短両面で人材問題の対応を
――万博以外に、近畿経済産業局として取り組んでいる地域経済活性施策についてはいかがでしょうか。
伊吹 経済的な政策としては大きく分けて二つの柱があります。一つは、まだコロナ禍から抜け出せるかという状況にあることから中小企業対策に引き続き力を入れています。コロナ禍は中小企業にとってはリーマンショックと同じく大きなショックを受ける経済危機ですので、この2~3年は支援金や〝ゼロゼロ融資〟等、政府として過去にないほどの対策を打ってきました。足下では、部品不足やエネルギー物価高騰が生じていますが、経済全体で危機から脱し成長モードに転換していくには、価格転嫁が上手くできるかが非常に重要なカギになります。
また、多くの中小企業では、危機時に借りた債務の返済開始が今後予定されています。経営が厳しい企業についての事業の立て直し、危機を脱した企業についての成長フェーズへの移行などに、地域の経済団体、支援機関、自治体、財務局、金融機関等と協力して、力を入れていきたいと考えています。
――もう一つの柱はどのようなものでしょう。
伊吹 将来に向けて10~20年というロングスパンで成長を図るべき分野に重点的に政策資源を投入することです。DXやカーボンニュートラルなどは各地域で共通するテーマになりますが、加えて関西には、医療やバイオ分野に強い企業、特徴のある産業支援機関、DX関連で電子関係や蓄電池など今後必ず伸びると目される分野、こうした分野で優れた研究や産学連携に強みを持っている大学・研究機関も数多くあります。最終製品・サービスを提供する企業だけでなく、関連する部素材や製造装置の企業も念頭において、これら成長分野で伸びてもらうための支援を、経済産業省本省とともに講じていくことになります。
近畿経済産業局では、これらの分野においてイノベーションが起こりやすい仕組みをどう構築するかが大きなテーマとなります。例えば既に、水素に関する大きなプロジェクトが管内で大手企業中心に幾つか動いていますが、大手だけではなく中堅・中小企業がこの分野に参入する上での支援や、医療機器であれば大学病院や医師が求める現場ニーズを中小企業がきちんと認識できるようなビジネスマッチングなどを行う、本省側で準備されているさまざまな研究開発や社会実装に向けた支援制度への挑戦をサポートすることなどがその一例となります。
――成長分野育成に関しては、人材の確保・育成も欠かせないと思われますがこの点につきましては。
伊吹 ご指摘の通り、半導体や蓄電池のように、絶対伸びるかつサプライチェーン上も大切な分野について、研究開発、製造の両面で必要な人材が日本全体で不足し、将来的に供給制約や研究開発制約に繋がりかねない事態が懸念されます。企業が求める人材のイメージを、大学や高等専門学校、工業高校等と共有しながら、必要な人材を育成していく仕組みをつくる必要があります。関西は、蓄電池の研究開発、製造、部素材や製造装置などの面で優位性があり、人材育成やサプライチェーンについて息長く取り組むべき大きなテーマであると考えています。
足下ではIT関連人材の不足が深刻化していますので、中堅・中小企業が人材を集めやすいような合同説明会を局主催で開いたり、また専門人材が一つの企業にとどまらず副業も含めていろいろな働き方ができるようマッチングを図るなど、中長期的に不足が予測される人材の育成と、人材の需給のマッチングを取るような施策を展開しています。
――誌面を通じ、メッセージなどございましたらぜひ。
伊吹 コロナ禍以後のここ数年、国際関連の施策がなかなかできなかったこと、また万博開催時にはインバウンド回復が想定されることなどから、国際分野の支援に力を入れていきたいですね。ポスト・コロナのツーリズムは従前と異なり、富裕層も含めた幅広な層のインバウンドを呼び込む必要がありますので、そのための具体的戦略を練っていきたいと思います。
逆に、海外への売り込みも積極的に展開する予定です。例えば今年後半、ベトナムに対しカーボンニュートラルにも貢献する環境関連のプロジェクト等を進めていきたいと考えています。ベトナムについては以前から近畿経済産業局との交流が活発なこと、またベトナムは自治体レベルでも関心が高く、中でも環境課題解決に積極的なビンズン省と連携し、関連技術や執行体制などについてお互いに理解を深めながら関係強化を図れるものと期待しています。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2022年9月号掲載)