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2025大阪・関西万博に向けて/近畿経済産業局長 伊吹 英明氏

―関西経済圏の将来像とともに―

いぶき ひであき/昭和42年7月2日生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業。平成3年通商産業省入省、23年経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課長、25年同生活文化創造産業課長、26年製造産業局自動車課長、28年大臣官房参事官(商務流通保安グループ担当)、29年中小企業庁総務課長、令和元年内閣官房内閣審議官兼東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画推進統括官、3年10月より現職。
いぶき ひであき/昭和42年7月2日生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業。平成3年通商産業省入省、23年経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課長、25年同生活文化創造産業課長、26年製造産業局自動車課長、28年大臣官房参事官(商務流通保安グループ担当)、29年中小企業庁総務課長、令和元年内閣官房内閣審議官兼東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画推進統括官、3年10月より現職。

 内外不透明な状況ではあるものの、関西経済は2025 大阪・関西万博開催に向けて着実に歩みを進めている。“SDGs万博”とも呼ばれる同開催が、将来にわたり関西経済にどのようなレガシーを遺すのか、その注目度は極めて高い。足下の気運醸成を担う近畿経済産業局・伊吹英明局長は、この1年が地域の魅力を発信する上で極めて重要であると指摘、さらに管内経済の将来に向けて展望を語ってもらった。



一人一人が未来社会を描いてゆく

――残り3年を切った万博開催に対し、局長はどのような所感や期待を寄せておられますか。

伊吹 今から6年ほど前に、国としての立候補のプロセスの中で、立候補そのものや今回のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」や開催経費の分担の決定等に現内閣官房の井上学氏らとともに携わりましたが、関係者の尽力により、主なパビリオンの出展者が決まるなど大枠が固まる段階まで進んできました。

 万博のテーマの解釈は参画する人がおのおの考えるものだと思いますが、6年前には、前回1970年の大阪万博とは時代背景が大きく異なる中で、最先端の科学技術を見せるということだけにとどまらず、より〝人間〟や〝社会〟に焦点を当て、20~30年後に自分たちが幸せだと思えるような社会はどんな社会だろうかということを一人一人が考えてみることからディスカッションが始まっていたことを覚えています。テーマの最後に「デザイン」という言葉が入っていますが、参画する一人一人が白地のキャンパスに自分が思う未来社会を描いていく機会になればという想いが込められている言葉です。

 経済的な面では、万博が開催されると、会場となる夢洲に向けて地下鉄が延伸されたり、ホテルの開発が関西各地で進んだり、交通・観光・ショッピングなどで利便性や魅力を上げるための取り組みが進むなど、さまざまな直接的な経済効果が期待されています。また、今回の万博で提示されるであろうデジタル、カーボンニュートラル、モビリティ、健康・医療、食などの幅広い技術や社会システムは、今後半世紀の世界の経済や社会を担っていくことが期待できるものです。こうした大規模イベントは、入場者数とか経済効果などの直接的な数字の多寡で語られがちですが、万博をきっかけとして新しい未来社会に向けて人々の行動が変容したり、その後の期間に多くの海外の方が日本各地を訪れたり、経済的な効果は開催地や開催期間を越えて生じるものだと思います。

 世界中の人がアイディアを交換するという万博の本来の意義からも、また経済効果という観点からも、今回の大阪・関西万博が、自分にとって世界全体にとっての幸せな未来社会がどんな社会なのかを、世界中のできるだけ多くの人が思い描く、「共創」に繋がる機会にしてもらえればと願っています。

関西圏の機運盛り上げが使命

――3年後の万博開催時には、今回のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に対し、国際社会の期待がより一層高まっていることが想定されますね。

伊吹 はい、立候補の時点では、世界が未だコロナ禍の前でしたし、ウクライナへの侵略も発生していませんでした。現在、世界は相次ぐ災厄や惨禍に直面し、否応なく生命の大切さ、デジタルとリアルでの人との繋がり、人類にとって望ましい社会のありようなどを見つめ直す機運が高まっていると言えるでしょう。

 こうした不安定感、不透明感が世界に漂う中で、大阪・関西万博は〝SDGs 万博〟と称されるようになっていますが、SDGs の理念を具体的な姿に体現して人類に提示する機会はこの万博が初めてですので、どのようなものが提示されるのか世界からの注目は自ずと高くなると想定されます。

――局長は、開催に向けたここまでの活動状況をどのように捉えていますか。

伊吹 今回の万博の基本的な構成要素としては、各国および国際機関が出展するパビリオン、企業パビリオン、8人のプロデューサーが中心のテーマ館、政府館、関西圏の自治体による大阪・関西館、未来社会ショーケースなどがありますが、この春で主要な出展者、サポーターの姿が見えてきた段階だと思います。各国による出展も目標の150カ国に対して現段階で130ほどの国が参加表明していますし、企業パビリオンも当初の想定を超える12の企業グループが出展に向け契約をしています。また政府側でも大阪・関西万博のコンセプトである「未来社会の実験場」の具体化に向けアクションプランを策定するなど、取り組みの具体化が進んでいます。全体として、博覧会協会や政府、関係自治体、経済界等による準備が概ね着実に進んでいると見て良いのではないでしょうか。今後は、個々のパビリオンの内容の検討・建設、チケッティングや交通といった本番に向けた運営面でのオペレーションなど、より本番を見据えた準備段階に移行していくことになります。パビリオンを出す企業グループ、プロデューサー、政府、大阪府・大阪市・関西の府県、各国政府等には、ワクワクするような展示内容と見せ方を大いに期待したいです。

 一方、最初に申し上げたように、多くの人に自分ごととして参画してもらいたいという趣旨からすると、中核を成すパビリオンの出展に関わる方々に加えて、もう少し幅広い、具体的には中堅・中小企業や市町村等の自治体、大学等教育機関および学生の方々等に、開催に向けてどれくらい万博に関わってもらえるか、関連する活動を地元で行ってもらえるかが残された重要な点になります。万博を成功に導くために分野を問わず多くの方が積極的に参画するよう、また多くの人が観客として訪れてみようという気持になるように、博覧会協会、政府、自治体、経済界一体となって機運醸成に向けた取り組みを全国で進める必要があります。

――その上で、近畿経済産業局が担う役割はどのようなものでしょうか。

伊吹 関係者一丸となって参画への機運を盛り上げていく中で、地元である近畿圏における機運盛り上げが近畿経済産業局の基本的な使命となります。

 万博に主体的に参加したいという中堅・中小企業、基礎自治体、教育機関などのお話を伺っていると、大まかには、万博の本番に関わって自分たちの活動や魅力を世界に発信したいというニーズと、自分たちの地元で関連する活動を進め、盛り上げて後々まで根付かせたい・地元に人を呼び込みたいとニーズと、二通りの想いを感じています。

 この1~2年でまず取り組んだことは、関西圏で、そうした想いを持って各地で始められている活動を集めて見える化することです。万博の開催地と期間を越えた活動という意味で「360° EXPO 拡張マップ」と名付けて、大学や産業支援機関によるイノベーション拠点の活動や、地域のものづくりの現場を地元や観光客に開放して交流を進めるオープンファクトリーの活動、各地域の産地ブランドなど、これから検討する人にとって先行事例になる活動を紹介しています。

 また、先行事例となる企業や自治体の取り組みや博覧会協会の検討状況を広く紹介するセミナーを開催し、これから検討する企業や自治体の参考にしてもらったり、アイディアを交換したりする機会を多く設けるように心がけています。

 二つめの取り組みとしては、今後、万博の本番に何らか関わっていきたいというニーズに対して、博覧会協会による「TEAM EXPO 2025」や夢洲のイベント会場の活用を提案しています。TEAM EXPO 2025は万博のテーマに関連する活動を登録してもらって関連する活動と位置付け、更にその中の面白いものを本番時に夢洲の会場でも展示するという活動です。またイベント会場は夢洲の会場に7カ所ほど用意されていて、来年度に入ってから公募がされる予定と伺っています。規模が大きくない自治体、中小企業の集まり、教育機関などにとっては、多額の費用がかかる半年間のパビリオン出展は大変ですが、短期間のセミナーやPRイベントの開催であれば、手が届く本番での参加形態になるのではないかと考えています。地元に呼び込むために本番にフックをかけるという意味でも活用する価値がある参加形態ではないかと思います。博覧会協会でもこの4月に機運醸成局を設置して、幅広い主体への参画の呼び掛け、会場+1の観光を進めるための仕掛け、一つのテーマを掘り下げる「テーマwee k」などの検討やイベント活用の相談にも乗っていますので、よく連携してきたいと考えています。政府側でも「テーマwee k」で何を取り上げるかの検討や中小企業の魅力を発信する場の設置、文化観光面での発信、国際交流の促進などの検討が進んでいます。

 三つめの取り組みとして、既に関西圏で地域でまとまった活動を行おうとしている主体、具体的にはオープンファクトリー、地域ブランドについて、その魅力を磨く、また発信するための支援を行っています。例えば地域ブランドの振興であれば、鯖江の眼鏡や和束茶など12の地域ブランドについて、近畿経済産業局の職員とブランディング等の専門家が産地を頻繁に訪問して、ブランドのコンセプトづくりから販路開拓、海外への発信、地元への人の呼び込みまで伴走する形で支援に取り組んでいます。

(資料提供:近畿経済産業局)
(資料提供:近畿経済産業局)

 今後の課題としては、地域の魅力のPRがあげられます。地域ブランドのような伴走型の支援を行う以外に、自主・自発的に魅力向上に取り組む地域の産業や自治体、教育機関は多々いらっしゃいますので、そうした方々が蒔いた魅力のタネを万博の来場者にどうPRするかが重要な仕事となります。今後、博覧会協会とよく連携して、具体的な方法やタイミングなどを検討していきたいと考えています。万博に来る推定2800万人、海外からの300万人の来場者を各地に誘導して、地元で例えば職人と交流するような体験ができるよう、これらの活動を冊子にまとめて広報したり、スマートフォンから来場者が情報にアクセスできるようなことを、開催まで残り2年半でかたちにしていきたいと考えています。